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「不妊は私だけの問題ではなかった。いえ、もしかしたら王のみの問題かもしれないわね。そんなこと、本当でも宮廷医は言えなかったでしょうけれどね。訊かれていないことを言うほど愚かではないでしょうし、王太子夫婦に子供ができない責任を私に押しつけたのかもしれない。王が不妊症というなら、貴方が産んだエドワードはどこから授かったものなのかしら」
「なんてひどいことを言うの!? 貴女は王に対しても失礼なことを言ってるのよ!? 私が妊娠してるのに王が不妊症なわけないわ!」
「それだとおかしいことがあるのよね」
ミリアリアはおっとりとほほ笑んだ。
「貴女は王宮にきて、王の寝所に侍ってすぐに妊娠したわよね。そして二か月くらいの早産でエドワードは産まれたときいたのだけれど、貴方は生まれてしばらく経つまで私たちにもエドワードを会わせてくれなかった。父親である陛下にすらそれはおかしいでしょう? 陛下は出産にともなうノイローゼだろうと鷹揚に言ってくださっていたけれど。貴女がたとえ、私たちの目から隠したとしても出産時の記録は残っているのよ。調べたらエドワードは普通の赤ちゃんなみに育ってから生まれていたわね」
これがその書類の写し、とエドワードの出生記録を見せるミリアリアに対し、クローディアの顔色は青を通り越して真っ白になっている。
「でもエドワードが王太子として存在しているのは私たち夫婦にとっても都合がよかった。だから黙って騙されてあげていたの」
「そんなの全部嘘だわ! 口から出まかせを言っているだけなんでしょう?!」
「そう信じたいならそう信じていればいいわ。でもね、貴方は私が賢いと言ってくれたわね。そんな賢い私が貴方の裏の思惑に気づかなかったと思うの?」
「私の裏の思惑?」
「私のためだと言う風に言葉は飾っていたけれど、貴方の本当の目的は別でしょう? 王太子妃として私は表に、貴方は影にといっていたけれど、貴方は自分が安全に美味しいところ取りしたかっただけでしょう? 王権に対して何かがあった場合、首を斬られるのは玉座についている者だもの。貴方はそんな時でも即座に逃げられるように身軽にしてたでしょうしね」
隣国が攻めてきた時も、軍隊に同伴し彼らを鼓舞したのはミリアリアだった。群衆が蜂起しそうになって、内紛に突入しそうになった時も、連日徹夜をして胃を壊しながらも法案を整備したのも、何もかもミリアリアだった。
そんな時こそクローディアがエドワードの側にいて彼を守るべきだったのに、彼女は王宮から姿を消していたのだ。
王太子妃は公務などが大変だからミリアリアに任せ、自分は安全地帯で与えられる恩給でのらりくらりと王子の母という身分で過ごす。
結婚をして家政を取り仕切りたいという野望がなければ、気楽な立場である。
「その上、貴方の産んだ息子が王になれば、貴方は国母と呼ばれ、いずれは王太后の称号を得る。自分では動きたくない貴女が狙ったのはその身分なのでしょう? 貴方は王宮で何もせずにいるだけで、王太子を産んだという実績だけで美味しいとこどりできるのよ。……別にそれでもよかったのよ、私は。この国さえうまく機能すれば。でも、正統な血を引かない人だと分かっている人間を、未来の玉座に座らせたくないのよね」
冷ややかな目で見るミリアリアを、クローディアは睨み返している。
「エドワードはいい子だけれど、私は王家の血にこだわりたいの。お義父様の弟殿下の息子であるアルフォンソ様をご存じ? 亡くなった陛下とは従弟にあたるのだけれど」
シャンス大公家は別名を裏王家と言われるくらい、王族に近い血を持つ一族だ。
「私はアルフォンソ様と再婚するつもりよ」
「貴女、アルフォンソ様が欲しくて女王になったのね……!?」
大公家次男坊のアルフォンソは誰もが振り返るくらいの美丈夫だ。女なら誰もが憧れる……それはスチュアートの妾妃であるクローディアでも同じだった。
ミリアリアが女王として命じたら、彼女の思い通りにならないことはこの国ではない。それくらい王の命令は絶対なのだ。
「なんてひどいことを言うの!? 貴女は王に対しても失礼なことを言ってるのよ!? 私が妊娠してるのに王が不妊症なわけないわ!」
「それだとおかしいことがあるのよね」
ミリアリアはおっとりとほほ笑んだ。
「貴女は王宮にきて、王の寝所に侍ってすぐに妊娠したわよね。そして二か月くらいの早産でエドワードは産まれたときいたのだけれど、貴方は生まれてしばらく経つまで私たちにもエドワードを会わせてくれなかった。父親である陛下にすらそれはおかしいでしょう? 陛下は出産にともなうノイローゼだろうと鷹揚に言ってくださっていたけれど。貴女がたとえ、私たちの目から隠したとしても出産時の記録は残っているのよ。調べたらエドワードは普通の赤ちゃんなみに育ってから生まれていたわね」
これがその書類の写し、とエドワードの出生記録を見せるミリアリアに対し、クローディアの顔色は青を通り越して真っ白になっている。
「でもエドワードが王太子として存在しているのは私たち夫婦にとっても都合がよかった。だから黙って騙されてあげていたの」
「そんなの全部嘘だわ! 口から出まかせを言っているだけなんでしょう?!」
「そう信じたいならそう信じていればいいわ。でもね、貴方は私が賢いと言ってくれたわね。そんな賢い私が貴方の裏の思惑に気づかなかったと思うの?」
「私の裏の思惑?」
「私のためだと言う風に言葉は飾っていたけれど、貴方の本当の目的は別でしょう? 王太子妃として私は表に、貴方は影にといっていたけれど、貴方は自分が安全に美味しいところ取りしたかっただけでしょう? 王権に対して何かがあった場合、首を斬られるのは玉座についている者だもの。貴方はそんな時でも即座に逃げられるように身軽にしてたでしょうしね」
隣国が攻めてきた時も、軍隊に同伴し彼らを鼓舞したのはミリアリアだった。群衆が蜂起しそうになって、内紛に突入しそうになった時も、連日徹夜をして胃を壊しながらも法案を整備したのも、何もかもミリアリアだった。
そんな時こそクローディアがエドワードの側にいて彼を守るべきだったのに、彼女は王宮から姿を消していたのだ。
王太子妃は公務などが大変だからミリアリアに任せ、自分は安全地帯で与えられる恩給でのらりくらりと王子の母という身分で過ごす。
結婚をして家政を取り仕切りたいという野望がなければ、気楽な立場である。
「その上、貴方の産んだ息子が王になれば、貴方は国母と呼ばれ、いずれは王太后の称号を得る。自分では動きたくない貴女が狙ったのはその身分なのでしょう? 貴方は王宮で何もせずにいるだけで、王太子を産んだという実績だけで美味しいとこどりできるのよ。……別にそれでもよかったのよ、私は。この国さえうまく機能すれば。でも、正統な血を引かない人だと分かっている人間を、未来の玉座に座らせたくないのよね」
冷ややかな目で見るミリアリアを、クローディアは睨み返している。
「エドワードはいい子だけれど、私は王家の血にこだわりたいの。お義父様の弟殿下の息子であるアルフォンソ様をご存じ? 亡くなった陛下とは従弟にあたるのだけれど」
シャンス大公家は別名を裏王家と言われるくらい、王族に近い血を持つ一族だ。
「私はアルフォンソ様と再婚するつもりよ」
「貴女、アルフォンソ様が欲しくて女王になったのね……!?」
大公家次男坊のアルフォンソは誰もが振り返るくらいの美丈夫だ。女なら誰もが憧れる……それはスチュアートの妾妃であるクローディアでも同じだった。
ミリアリアが女王として命じたら、彼女の思い通りにならないことはこの国ではない。それくらい王の命令は絶対なのだ。
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