聖女は王宮に帰れない

麻宮デコ@ざまぁSS短編

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2章 10歳のエルザ

4 馬で走っても五日はかかる場所からの推理

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「レティーシアさん、貴方は一刻も早くこの孤児院から出る算段をつけた方がいい」

 黙ったまま話を聞いていたファニーは、口を開くなりそう言った。そのとある言葉が引っかかったレティーシアは驚愕する。

「ちょっと待って! ここ孤児院なの!?」

 ファニーの話をさえぎって、レティーシアは声を上げてしまった。
 確かにここは随分とみすぼらしい場所だとは思ってたが。
 貴族だったらまず、孤児院に入るということすらありえない。生まれた瞬間から代親や名づけ親など、親を失っても育ててもらえる後見人を与えられるのが当たり前だからだ。
 つまり孤児院に預けられているという時点でエルザは平民だ。
 となると、どうやって自分は王宮に伝手つてをたどればよいのだろうか。
 平民が貴族に下手に話しかけても処罰の対象となるような国だ。
 王宮なんて一番、繋がりを作りにくい場所ではないか。それだけでもう、詰んでいるような話だ。

 ファニーは既にレティーシアが気づいたようなことは考えていたらしい。
 気の毒そうにレティーシアの疑問に答えてくれる。

「ここはスペハの町の孤児院だよ。隣国ダルメールの方が王都より近いくらい。王都からは馬で走っても五日はかかる距離にあるよ、……貴方の話を聞いて思ったんだけど、その王子様たちは貴方の魂は自分たちが管理できる場所に行かせる予定だったんじゃないかな。貴方が貴方という意識を取り戻し、レティーシアであるということを周囲に告げたら、それだけで貴方が王宮に連絡をつけられるような場所に。そこにいる誰かに聖女レティーシアの魂をのりうつらせようとした。けれど失敗した……そうだと思うんだけれど」

「…………」

 ファニーの考えを聴いて、レティーシアは頷く。
 きっとそうだろう。だからこそ安易に王宮を目指せ、などと言えたのだろうから。

「どこに行かされる予定だったか、それさえわかれば、そちらに繋がりを作ってもいいんじゃない? 王宮に直接連絡を取るより、そちらの方がまだマシな気がする……どこだったか心当たりある?」

 レティーシアは首を振った。

「わからないわ……レンブラント侯爵家か神殿か……。でも、レンブラント侯爵家は王太子が反逆罪で捕えていると言ってたから、きっと違うわね。神殿かしら」

 神殿なら全ての町にあるから、そこに連絡を取ることはできるだろう。
 しかし神殿の力の強さはそれぞれ。そこが王族と連絡を取ることができるとは限らないのだ。片田舎の神殿の発言なんて、あっという間に握りつぶされるだろうし。

 上手くいくのだろうかと考えていたレティーシアだったが、リラがファニーに声をかけた。

「ファニー、なんでそんな難しい顔してるの?」

 ファニーはどうやらレティーシアとは違うことを考えていたらしい。

「もしレティーシアさんの言うことが本当なら、なんでエルザのところにレティーシアさんの魂がきたんだろうって思ってる」

「どういうこと?」

「噂でしか知らないけど、第二王子は優秀な人なんでしょう? その人がここ一番というような、大魔術をなんで失敗してるのかなってさ」

「それは慌ててたからかと……」

 あの切羽詰まったような状況なら、何かしらの手違いがあってもおかしくないと思う、とレティーシアは記憶を振り返る。

「確かにそれはそうなんだけど、もしかして、エルザの方にその原因があるかもなって思って。エルザってもしかして、私たちが知らないなにかがあって、この孤児院にいるのかもしれないって考えたんだ。それと、ひいきされている理由もその辺りにあるのかもって」

「ひいき?」

「ああ、そうか。レティーシアさんは知らないもんね。もうわかっていると思うけど、エルザっていじめられてるんだよ。エルザがいじめられてる理由はここで特別扱いされてるからなんだ。エルザって院長に気に入られているの。そのやっかみでみんながエルザをいじめてた。エルザもそれに反抗しないから、どんどんエスカレートしてってるし」

 確かにエルザの中に入ってから、周囲の子たちからずっと何かしらの悪意を受けているのはわかっていた。しかし、そんなしょうもない理由だったなんて。

「私たちはエルザが可愛いから、院長にひいきされているって思ってたけど、もしかしたら隠された大きな理由がある……ちょっとその可能性あるかもよ? エルザが聖女の魂を引き寄せることのできる力と、孤児院の院長が特定の子供だけ丁重に扱っているということ。これらの間に関連がね」

「あの……ちょっといい?」

 レティーシアは手をあげて、ファニーの言葉を止めさせた。

 当たり前のように話が進んでいるが、レティーシアは知らない情報がまた入ってきてしまっている。

「なに?」
 
「……エルザって可愛いの?」

 レティーシアは自分の顔を指さした。
 ファニーとリラはその言葉を聞いて、何を言っているんだろうというように顔を見合わせていた。
 一人は大きくうんうん、頷き、もう一人は呆れたため息をついている。

「鏡、自分で見た方が早いと思うよ。ついでにここの案内もしてあげるよ」
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