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ビビアンの実家の伯爵家は巷でも有名な富豪である。
なので、きっとすぐに目にしたレオノーラと同じドレスが縫えるよう、ある程度の布も確保しているのだろう。
実際、ビビアンの目自体はよいのだ。
見ただけでレオノーラのコーディネートを覚え、細かいデザインを盗み、それを家に常駐しているお針子に伝えられているのだから、頭もいいのではないかとレオノーラは思っている。
その努力の方向性が間違っているのがもったいないのであったが。
着てきたドレスをカバンにいれさせ、まるっきり違うドレスで現れたレオノーラを、ビビアンが火の点くような視線で見つめているのを感じるが、それを無視してお茶会の席に現われた。
あっという間にレオノーラの周囲には人が集まってきた。
ファッションに詳しいレオノーラのアドバイスを聞きたくて待ち構えていたのだ。レオノーラの色彩感覚やバランスのアドバイスを守るとぐっと自分が引き立つことを知っているから。
しばらく歓談し、そろそろ帰ろうかという頃だった。
小さく黄色い悲鳴が聞こえた。それは羨ましそうなため息に変わって場に広がっていく。
その様子に気づいたレオノーラがそちらを見ると、見覚えのある長身の男性が自分に向かってまっすぐ歩いてきていた。
「あらフィリップ……迎えに来てくれたの?」
「もちろん」
今日は女性だけの集まりだが、さりげなく自分の男を見せびらかして牽制する場でもある。
婚約者や兄などに迎えに来させて、自分と縁があるということをアピールしたりするのだ。
レオノーラの場合は、フィリップが勝手に迎えに来ているだけであって、自分から頼んだりするようなことはしない。
フィリップは伯爵家の令息で幼なじみであり、いわゆるレオノーラの取り巻きの一人であった。
幼馴染で親同士も知り合いという立場を活かして、フィリップは周囲の取り巻きより頭1つ分飛び出たようにレオノーラに近い距離感の男ではあったが、レオノーラと恋人同士というわけではない。
フィリップはレオノーラに近づくと腕を出し、エスコートをする。
「今日も綺麗だね」
「ふふ、ありがとう」
レオノーラは目の端でビビアンを捕らえる。そのどこか悔しそうな表情を見て、ふっと思った。
(ビビアンって、フィリップのことが好きなのかしら)
フィリップがレオノーラにぞっこんなのは昔から有名な話だが、容姿端麗で将来は伯爵家を継ぐことが運命づけられている彼を慕う女性は多いだろう。
ビビアンはフィリップが惚れているレオノーラの真似をしてれば、彼の好みの女になれて、フィリップの恋人になれるとでも思っているのだろうか。
(でも、私には関係ないわね)
それはあくまでもフィリップとビビアンの問題で、レオノーラが関与するものではないのだから。
しかし、しばらくすると、そうもいっていられない状況になってしまった。
『ビビアンのドレスのデザインをレオノーラが盗んだり、ファッションの真似をいつもしている』と、ビビアンが吹聴しだしたのだ。
「なんでそんな真似を私がしなければならないの?」
レオノーラは呆れてその噂を無視していたが、ビビアンの家の発言力もあり、まことしやかな噂となって周囲に流れだしてしまった。
レオノーラの方がいつも一歩先んじて装っていることなど、二人を比べて注視している人でないと気づけない。
しかも、とうとう問題に直面せざるを得ない時がきた。
レオノーラとビビアンの両方ともが招待され、参加した宮中園遊会で、二人が着ている海のように鮮やかな藍色のドレスがまるっきり同じだったのである。
「これはブティックで仕立てさせた新作のマーメイドラインのドレスよ! デザインを盗んだわね!」
そう声高に言いビビアンはレオノーラを強く非難する。
レオノーラの方は、どこで自分のドレスのデザインが漏れたのかしら、きっとゴミ捨て場辺りだろうと呑気に思っていた。
レオノーラはビビアンのようにブティックで作らせたわけでなく、自分でデザインをして、自分の家で仕立てさせたドレスなので、オリジナルのデザインであるという証拠を持つわけではない。
あまりにも堂々としたビビアンの態度に、周囲がざわついた。
なので、きっとすぐに目にしたレオノーラと同じドレスが縫えるよう、ある程度の布も確保しているのだろう。
実際、ビビアンの目自体はよいのだ。
見ただけでレオノーラのコーディネートを覚え、細かいデザインを盗み、それを家に常駐しているお針子に伝えられているのだから、頭もいいのではないかとレオノーラは思っている。
その努力の方向性が間違っているのがもったいないのであったが。
着てきたドレスをカバンにいれさせ、まるっきり違うドレスで現れたレオノーラを、ビビアンが火の点くような視線で見つめているのを感じるが、それを無視してお茶会の席に現われた。
あっという間にレオノーラの周囲には人が集まってきた。
ファッションに詳しいレオノーラのアドバイスを聞きたくて待ち構えていたのだ。レオノーラの色彩感覚やバランスのアドバイスを守るとぐっと自分が引き立つことを知っているから。
しばらく歓談し、そろそろ帰ろうかという頃だった。
小さく黄色い悲鳴が聞こえた。それは羨ましそうなため息に変わって場に広がっていく。
その様子に気づいたレオノーラがそちらを見ると、見覚えのある長身の男性が自分に向かってまっすぐ歩いてきていた。
「あらフィリップ……迎えに来てくれたの?」
「もちろん」
今日は女性だけの集まりだが、さりげなく自分の男を見せびらかして牽制する場でもある。
婚約者や兄などに迎えに来させて、自分と縁があるということをアピールしたりするのだ。
レオノーラの場合は、フィリップが勝手に迎えに来ているだけであって、自分から頼んだりするようなことはしない。
フィリップは伯爵家の令息で幼なじみであり、いわゆるレオノーラの取り巻きの一人であった。
幼馴染で親同士も知り合いという立場を活かして、フィリップは周囲の取り巻きより頭1つ分飛び出たようにレオノーラに近い距離感の男ではあったが、レオノーラと恋人同士というわけではない。
フィリップはレオノーラに近づくと腕を出し、エスコートをする。
「今日も綺麗だね」
「ふふ、ありがとう」
レオノーラは目の端でビビアンを捕らえる。そのどこか悔しそうな表情を見て、ふっと思った。
(ビビアンって、フィリップのことが好きなのかしら)
フィリップがレオノーラにぞっこんなのは昔から有名な話だが、容姿端麗で将来は伯爵家を継ぐことが運命づけられている彼を慕う女性は多いだろう。
ビビアンはフィリップが惚れているレオノーラの真似をしてれば、彼の好みの女になれて、フィリップの恋人になれるとでも思っているのだろうか。
(でも、私には関係ないわね)
それはあくまでもフィリップとビビアンの問題で、レオノーラが関与するものではないのだから。
しかし、しばらくすると、そうもいっていられない状況になってしまった。
『ビビアンのドレスのデザインをレオノーラが盗んだり、ファッションの真似をいつもしている』と、ビビアンが吹聴しだしたのだ。
「なんでそんな真似を私がしなければならないの?」
レオノーラは呆れてその噂を無視していたが、ビビアンの家の発言力もあり、まことしやかな噂となって周囲に流れだしてしまった。
レオノーラの方がいつも一歩先んじて装っていることなど、二人を比べて注視している人でないと気づけない。
しかも、とうとう問題に直面せざるを得ない時がきた。
レオノーラとビビアンの両方ともが招待され、参加した宮中園遊会で、二人が着ている海のように鮮やかな藍色のドレスがまるっきり同じだったのである。
「これはブティックで仕立てさせた新作のマーメイドラインのドレスよ! デザインを盗んだわね!」
そう声高に言いビビアンはレオノーラを強く非難する。
レオノーラの方は、どこで自分のドレスのデザインが漏れたのかしら、きっとゴミ捨て場辺りだろうと呑気に思っていた。
レオノーラはビビアンのようにブティックで作らせたわけでなく、自分でデザインをして、自分の家で仕立てさせたドレスなので、オリジナルのデザインであるという証拠を持つわけではない。
あまりにも堂々としたビビアンの態度に、周囲がざわついた。
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