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タニア(18)……メルテ子爵令嬢。
ルーシュ(18)…タニアの幼馴染で騎士。思い込みが強い。
***
「なぜ、タニアが婚約しているんだ! 俺以外の男と!」
「ルーシュ!?」
行方不明になっていた幼馴染のルーシュが帰ってきたという噂をタニアが耳にしたのは昨日のことだった。
ああ、本当に無事だったのね、と家族で安堵のため息をついていたところ、当の本人にいきなり怒鳴りこまれた。
ルーシュは実家のシード家でタニアの現状でも聴いたのだろうか。
肩を怒らせて玄関の扉を破壊しかねない勢いで飛び込んできた。
ルーシュが怒っている理由も、彼がこんなに興奮している理由もわからず、タニアだけでなくメルテ子爵家全体でぽかんとしてしまった。
タニアの父親であるメルテ子爵からも「二人の間でなにか約束でもしていたのか?」とタニアは質問をされたが、心当たりのないタニアからしたら大きく首を横に振るしかない。
ルーシュは騎士の家の子で幼い時からタニアと仲が良かった。
ルーシュが騎士になった暁にはタニアは彼と結婚するのだろうなとぼんやりと思っていたし、家同士も近く親も仲が良かったため、親もその心づもりがあったと思う。
しかし、そんな矢先、ルーシュが出奔した。彼が13歳の話である。
家に書き置き1つない状態で出て行ったのである。
それまでタニアとルーシュは仲がいい幼馴染同士ではあったけれど、恋人同士というわけではなかった。それにルーシュもタニアにも何も言い置いていなかった。
タニアの家族はルーシュと連絡が取れなくなったタニアが意気消沈していたのを覚えている。
いつ帰ってくるかもわからないルーシュを、恋人でもないタニアが待つ理由もないので、親はタニアに家格も歳も合う男性を婚約者として紹介し、タニアもそれを受け入れたのである。
適齢期前には婚約を調えて、結婚に向けて準備をするのは貴族の娘として当たり前のことなのに、なぜ部外者であるルーシュがなぜこうも怒っているのだろうとそろって首を傾げるのも当然だっただろう。
しかしルーシュをなだめようとしても、そもそも彼は聞く耳自体を持っていなかった。
「誰と婚約しているかは知らないが、そんな男と結婚するのはやめるんだ」
その一点張りなのである。タニアの方も「勝手なことを言って」と腹が立ってくる。
「どういう権利があって、そんなことを貴方がいうの?」
そうルーシュに言うのは当然だっただろう。しかしルーシュは逆に「何をわからないことを」とタニアの方を責めてきて、自らを被害者のような顔をしている。
「君と結婚するのはずっと前から決まっていたことだろ」
「私たち、別に恋人でもなんでもなかったじゃない! 貴方の家からもそういう申し入れなかったし」
「そんなこと言わなくてもわかるだろ。俺は君と結婚するために、騎士としての訓練を受けて、それから各地を修行して回ってたのに」
「そんなことを言われても知らないわよ! 貴方は私に待っててくれ、とも言わなかったじゃない。もう私は婚約しているのよ。家同士のことなんだから諦めてちょうだい」
タニアとしてはそう言うしかない。
実際、たとえタニアとルーシュが過去に思いあっていた恋人同士だったとしても、今の状況では同じことを言っていただろう。
しかし、ルーシュは暗い目をしたまま、じっとタニアを見据えるだけで、タニアの言葉に首を縦に振らなかった。
「俺は君のためにこの5年苦労してきたのに……俺は認めない……君は俺のものだ」
そうぶつぶつ言って、ふらふらと帰っていってしまった。
そして次の日から、ルーシュによるタニアへの、そしてメルテ子爵家と婚約者への執拗な粘着と嫌がらせが始まったのである。
ルーシュ(18)…タニアの幼馴染で騎士。思い込みが強い。
***
「なぜ、タニアが婚約しているんだ! 俺以外の男と!」
「ルーシュ!?」
行方不明になっていた幼馴染のルーシュが帰ってきたという噂をタニアが耳にしたのは昨日のことだった。
ああ、本当に無事だったのね、と家族で安堵のため息をついていたところ、当の本人にいきなり怒鳴りこまれた。
ルーシュは実家のシード家でタニアの現状でも聴いたのだろうか。
肩を怒らせて玄関の扉を破壊しかねない勢いで飛び込んできた。
ルーシュが怒っている理由も、彼がこんなに興奮している理由もわからず、タニアだけでなくメルテ子爵家全体でぽかんとしてしまった。
タニアの父親であるメルテ子爵からも「二人の間でなにか約束でもしていたのか?」とタニアは質問をされたが、心当たりのないタニアからしたら大きく首を横に振るしかない。
ルーシュは騎士の家の子で幼い時からタニアと仲が良かった。
ルーシュが騎士になった暁にはタニアは彼と結婚するのだろうなとぼんやりと思っていたし、家同士も近く親も仲が良かったため、親もその心づもりがあったと思う。
しかし、そんな矢先、ルーシュが出奔した。彼が13歳の話である。
家に書き置き1つない状態で出て行ったのである。
それまでタニアとルーシュは仲がいい幼馴染同士ではあったけれど、恋人同士というわけではなかった。それにルーシュもタニアにも何も言い置いていなかった。
タニアの家族はルーシュと連絡が取れなくなったタニアが意気消沈していたのを覚えている。
いつ帰ってくるかもわからないルーシュを、恋人でもないタニアが待つ理由もないので、親はタニアに家格も歳も合う男性を婚約者として紹介し、タニアもそれを受け入れたのである。
適齢期前には婚約を調えて、結婚に向けて準備をするのは貴族の娘として当たり前のことなのに、なぜ部外者であるルーシュがなぜこうも怒っているのだろうとそろって首を傾げるのも当然だっただろう。
しかしルーシュをなだめようとしても、そもそも彼は聞く耳自体を持っていなかった。
「誰と婚約しているかは知らないが、そんな男と結婚するのはやめるんだ」
その一点張りなのである。タニアの方も「勝手なことを言って」と腹が立ってくる。
「どういう権利があって、そんなことを貴方がいうの?」
そうルーシュに言うのは当然だっただろう。しかしルーシュは逆に「何をわからないことを」とタニアの方を責めてきて、自らを被害者のような顔をしている。
「君と結婚するのはずっと前から決まっていたことだろ」
「私たち、別に恋人でもなんでもなかったじゃない! 貴方の家からもそういう申し入れなかったし」
「そんなこと言わなくてもわかるだろ。俺は君と結婚するために、騎士としての訓練を受けて、それから各地を修行して回ってたのに」
「そんなことを言われても知らないわよ! 貴方は私に待っててくれ、とも言わなかったじゃない。もう私は婚約しているのよ。家同士のことなんだから諦めてちょうだい」
タニアとしてはそう言うしかない。
実際、たとえタニアとルーシュが過去に思いあっていた恋人同士だったとしても、今の状況では同じことを言っていただろう。
しかし、ルーシュは暗い目をしたまま、じっとタニアを見据えるだけで、タニアの言葉に首を縦に振らなかった。
「俺は君のためにこの5年苦労してきたのに……俺は認めない……君は俺のものだ」
そうぶつぶつ言って、ふらふらと帰っていってしまった。
そして次の日から、ルーシュによるタニアへの、そしてメルテ子爵家と婚約者への執拗な粘着と嫌がらせが始まったのである。
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