勘違いストーカー野郎のせいで人生めちゃくちゃにされたけれど、おかげで玉の輿にのれました!

麻宮デコ@ざまぁSS短編

文字の大きさ
上 下
1 / 3

しおりを挟む
タニア(18)……メルテ子爵令嬢。
 
ルーシュ(18)…タニアの幼馴染で騎士。思い込みが強い。
 

***

 
「なぜ、タニアが婚約しているんだ! 俺以外の男と!」
「ルーシュ!?」
 
 行方不明になっていた幼馴染のルーシュが帰ってきたという噂をタニアが耳にしたのは昨日のことだった。

 ああ、本当に無事だったのね、と家族で安堵のため息をついていたところ、当の本人にいきなり怒鳴りこまれた。
 
 ルーシュは実家のシード家でタニアの現状でも聴いたのだろうか。
 肩を怒らせて玄関の扉を破壊しかねない勢いで飛び込んできた。

 ルーシュが怒っている理由も、彼がこんなに興奮している理由もわからず、タニアだけでなくメルテ子爵家全体でぽかんとしてしまった。
 タニアの父親であるメルテ子爵からも「二人の間でなにか約束でもしていたのか?」とタニアは質問をされたが、心当たりのないタニアからしたら大きく首を横に振るしかない。
 
 ルーシュは騎士の家の子で幼い時からタニアと仲が良かった。

 ルーシュが騎士になった暁にはタニアは彼と結婚するのだろうなとぼんやりと思っていたし、家同士も近く親も仲が良かったため、親もその心づもりがあったと思う。

 しかし、そんな矢先、ルーシュが出奔した。彼が13歳の話である。
 家に書き置き1つない状態で出て行ったのである。
 
 それまでタニアとルーシュは仲がいい幼馴染同士ではあったけれど、恋人同士というわけではなかった。それにルーシュもタニアにも何も言い置いていなかった。
 タニアの家族はルーシュと連絡が取れなくなったタニアが意気消沈していたのを覚えている。

 いつ帰ってくるかもわからないルーシュを、恋人でもないタニアが待つ理由もないので、親はタニアに家格も歳も合う男性を婚約者として紹介し、タニアもそれを受け入れたのである。
 適齢期前には婚約を調ととのえて、結婚に向けて準備をするのは貴族の娘として当たり前のことなのに、なぜ部外者であるルーシュがなぜこうも怒っているのだろうとそろって首を傾げるのも当然だっただろう。

 しかしルーシュをなだめようとしても、そもそも彼は聞く耳自体を持っていなかった。
 
「誰と婚約しているかは知らないが、そんな男と結婚するのはやめるんだ」

 その一点張りなのである。タニアの方も「勝手なことを言って」と腹が立ってくる。

「どういう権利があって、そんなことを貴方がいうの?」

 そうルーシュに言うのは当然だっただろう。しかしルーシュは逆に「何をわからないことを」とタニアの方を責めてきて、自らを被害者のような顔をしている。

「君と結婚するのはずっと前から決まっていたことだろ」
「私たち、別に恋人でもなんでもなかったじゃない! 貴方の家からもそういう申し入れなかったし」
「そんなこと言わなくてもわかるだろ。俺は君と結婚するために、騎士としての訓練を受けて、それから各地を修行して回ってたのに」
「そんなことを言われても知らないわよ! 貴方は私に待っててくれ、とも言わなかったじゃない。もう私は婚約しているのよ。家同士のことなんだから諦めてちょうだい」

 タニアとしてはそう言うしかない。
 実際、たとえタニアとルーシュが過去に思いあっていた恋人同士だったとしても、今の状況では同じことを言っていただろう。

 しかし、ルーシュは暗い目をしたまま、じっとタニアを見据えるだけで、タニアの言葉に首を縦に振らなかった。

「俺は君のためにこの5年苦労してきたのに……俺は認めない……君は俺のものだ」

 そうぶつぶつ言って、ふらふらと帰っていってしまった。

 そして次の日から、ルーシュによるタニアへの、そしてメルテ子爵家と婚約者への執拗な粘着と嫌がらせが始まったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄と言われてもっ!~人違いですわぁ~

紫宛
恋愛
※素人作品です、ゆるふわ設定、息抜き作品、手直しするかも……。よろしくお願いいたします※ 婚約破棄と言われましたが、どちら様? 私は、あなたとは婚約しておりませんわ! わたくしの話を聞いて下さいませ!!

そのフラグをへし折りまくっていることに気づかなかったあなたの負け

エビフライ
恋愛
卒業パーティーで、婚約破棄を言い渡されたアリエッタ。 しかし、そこにアリエッタの幼馴染の男が現れる。 アリエッタの婚約者の殿下を奪った少女は、慌てた様子で、「フラグは立っているのに、なんで?」と叫ぶ。 どうやら、この世界は恋愛小説の世界らしい。 しかし、アリエッタの中には、その小説を知っている前世の私の人格がいた。 その前世の私の助言によって、フラグをへし折られていることを知らない男爵令嬢は、本命ルート入りを失敗してしまったのだった。

悪役令嬢は格下令嬢に婚約者を奪われる――――と思ったら、そんなことはなかった。

宵宮祀花
恋愛
流行りの悪役令嬢ものを書こうとしたら、異世界版限界オタクの日常みたいになったお話。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

王子がイケメンだなんて誰が決めたんですか?

しがついつか
恋愛
白の国の王子は、余り器量が良くない。 結婚適齢期にさしかかっているというのに未だに婚約者がいなかった。 両親に似て誠実、堅実であり人柄は良いのだが、お見合いをした令嬢達からは断られてばかりいた。 そんな彼に、大国の令嬢との縁談が舞い込んできた。 お相手は、帝国の第二皇子の元婚約者という、やや訳ありの御令嬢であった。

ヒロイン様、こちらをお読みいただけますか?

miyumeri
恋愛
ゲームの世界に転生したヒロイン。逆ハー狙いで頑張ってるけど、悪役令嬢に呼び出され なんだか怪しい雲行きに。 初めての投稿です。 本当に初めて小説(のようなもの)を書きました。 優しい心持でお読みいただければ幸いです。

【完結】婚約破棄されるはずが、婚約破棄してしまいました

チンアナゴ🐬
恋愛
「お前みたいなビッチとは結婚できない!!お前とは婚約を破棄する!!」 私の婚約者であるマドラー・アドリード様は、両家の家族全員が集まった部屋でそう叫びました。自分の横に令嬢を従えて。

処理中です...