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3巻
3-3
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◇ ◇ ◇
温泉なるものに初めて浸かった羅刹は、その熱さに少し驚いたものの、全身から余計な力が抜けていく心地よさを感じていた。
たかが風呂だと思っていたが、違うらしい。どういう理屈なのか理解できないが、このお湯は心が安定したり、肌がきれいになったり、胃腸の働きが活発になるのだとか。最近ますます食べる量が増えてきた子供たちの胃腸には必要なさそうだが。
ただ、心が安定するというのはわかる気がした。
なにも考えずに、ぼーっと浸かっていると、怒りや苦しみや悲しみといった負の感情が流されていく。
――いや、違うか。お湯のせいではなく、美空がいるからか。
家事と子供たちの育児を押しつけたいがために雇ったのだが、彼女の言葉はいちいち羅刹を揺さぶってくる。
あんなに素っけなくしていたのに、彼女は羅刹のために泣き、そして憤る。誰かになにかしてもらうという経験に乏しい羅刹は、最初は戸惑ったものの、誰にも隙を見せてはいけないと張りつめていた心がほぐれていくような感覚を味わっている最中だ。
美空は羅刹の弱みを見ても笑ったりしないし、バカにしたりもしない。そんな信頼関係が彼女との間に築けているのは、うれしい誤算だったのかもしれない。
屋敷に来てからずっと走り通しの美空に少し休息をと、子供たちには『美空は旅館で休むんだ』と伝えた。わかったのかわかっていないのか『はぁい』という威勢のよい返事をしていたのだが、どうやら一応理解しているらしいことがさっき確認できた。
休ませるといっても、彼女の力なしでの大移動は難しく、道中は手を借りた。せめて旅館にいる間は自分が動こうと思っているが、子供たちが頼りにしているのは美空のほう。散々育児を放棄してきた自覚はあるので致し方ない。
父や母と過ごした記憶がほとんどないのもあって、四人とどうかかわっていいのかずっとわからなかった。けれど、美空の様子を観察しているうちに、少しずつ理解してきた。
羅刹に足りないのは……多分、子供たちと一緒に笑ったり泣いたりする共感力だ。
美空は、たいして面白くないと思うようなことでも、四人と一緒に全力で楽しんで笑っているし、誰かが擦り傷でも作ろうものなら、まるで自分がけがをしたかのように眉をひそめて手当てをしている。そして、絶対にしてはならないことをしでかしたときは、完全に鬼になる。それも、彼らが危険な目に遭わないようにするためだ。
感情の振り幅が大きくてせわしないと最初は思っていたけれど、子供たちにはそれがわかりやすいらしい。
羅刹には大声をあげて笑ったり、涙を流したりというのは難しいのだが、それに気づいてからは、できるだけ子供たちの感情に寄り添えるように努力しているつもりだ。といっても、美空の十分の一にも満たないだろうが。
風呂から上がって部屋に戻ると、美空が脱ぎ散らかしてあった子供たちのコートをハンガーにかけていた。
「だから、休めと言っただろ。コートなんて放っておいても死にゃしない」
羅刹は美空から葛葉の赤いコートを取り上げて言った。
「そうですけど、なにもしないのも落ち着かなくて」
風呂に入ったせいか、髪を高い位置でひとつにまとめた美空の首筋がほんのり赤く染まっている。それに気づいた羅刹は、なんとなく気まずくなり視線をそらした。
「掃除も洗濯も料理もしなくていいなんて、家政婦失格ですね」
苦笑しながら座布団に座った彼女は、そんなふうに漏らす。
「あいつらが必要としてるんだから、失格じゃないだろ」
羅刹も隣に腰を下ろし、寝相が悪すぎていつの間にか場所が入れ替わっている四人を見て言った。
「私がいないとご飯を食べられないからしょうがないですよ」
「本気で言ってる?」
最初はそうだったかもしれないが、もうそれだけの存在ではないのは明白だ。
「そう思ってないと、寂しくなっちゃうでしょ」
美空の言葉の意味がすぐには理解できず、羅刹は首をひねった。しかし、いつか来る別れのときを想像しているのだとわかり、言葉をなくす。
あやかしの世の平穏がいつ訪れるのか、誰にもわからない。万が一にも羅刹の父が敗れるようなことがあれば、元通りにはならないだろう。
ただし、明日父が大蜘蛛を倒す可能性だってあるのだ。
妖狐のふたりはすでに両親を失っているため、この先どうすべきか慎重に考える必要がある。あとのふたりの両親は、どこにいるのかも、はたまた生きながらえているのかも今はわからないが、家族のもとに返すのが最善だろう。
彼女はそれを重々承知していて、別れのときが来るのを寂しく感じているのだ。
「いつか別れるときが来ても、美空が必要な人であることには変わりないんじゃねえの?」
「えっ?」
「あいつらは、そんなにバカじゃねぇ。お前からもらった愛情は忘れないだろ。あの四人がこれから生きていくのに、美空からもらったものが土台になるんだ。あいつらにとって、永遠に必要な存在なんだぞ」
柄にもないことを言ってしまったと少々ばつが悪いが、どうしても美空を励ましたい気分だった。
それにしても、こんな話をしている自分が信じられない。美空に出会うまで、愛情というものを否定していたからだ。
「そっか……」
言いたいことは伝わったようで、美空はようやく頬を緩めた。
それから三十分ほどして相模が目覚めると、桂蔵、葛葉が次々と起きた。
「みしょらー。ここどこ?」
ビビりの相模はいつもと違う光景に驚いたらしく、美空の胸に飛び込んでいく。
やはり彼女は子供たちにとって必要な存在だ。彼らがもっとも頼れる場所を作れている。
「大丈夫よ。電車に乗って旅行に来たでしょう?」
「しょーだった」
ホッとした様子の相模は、ようやく美空から離れた。
「お茶ー」
どんなときも物怖じしない葛葉は、羅刹が注いだお茶を喉を鳴らしながら飲んでいる。腰に手を当てて飲む様子は勇ましい限りで、彼女が唯一の女子だということを忘れそうになる。
葛葉の真似をして隣で桂蔵がお茶を飲み始めた頃、蒼龍が物音に気づいてようやく目を覚ました。
「ごはん?」
「さっき食べたでしょう?」
美空がクスクス笑った。
「あのね、近くに神社があるんだって。お参りに行ってみる?」
美空が提案すると、途端に四人の目が輝く。
「いくぅ」
「はやくぅ」
「どこ?」
「じんじゃ、なに?」
美空の周りをピョンピョン跳ねながら興奮気味に問う彼らを見ていると、きっとこういうのが幸せと言うのだろうと羅刹は思った。
自分にもこんな時間があればよかったのに。
そんなふうに嫉妬してしまうほど、四人の笑顔が弾けている。
もう失われた時間は戻ってこない。これから美空と子供たちと、幸せを作っていけばいい。
そう前向きに考えられるようになったのは、きっと美空のおかげだ。
「葛葉ちゃん、コート着て!」
いち早く飛び出していこうとする葛葉は、美空の言葉なんて聞こえていない。羅刹は仕方なく捕まえて抱き上げた。
「コートだ」
「わすゅれてたー」
行動力があるので他の三人のまとめ役には最適だが、猪突猛進なところはなんとかしてほしい。
四人はコートを纏うと、我先にと出ていこうとする。
「待て。知らないところで迷子になったら、美空に会えなくなるぞ」
脅し半分、本気半分。ちょっとした隙にいなくなるのだから、油断ならない。
羅刹がくぎを刺すと、一番聞いていてほしい葛葉は右から左に流し、相模が顔を引きつらせた。
「みしょらいなくなるのいやぁ」
「美空がいなくなるんじゃなくて、お前たちだ。家の近所じゃないから、帰り道もわからないだろ」
羅刹があきれながら言うと、桂蔵が続いた。
「らしぇつは会える?」
「はっ、俺?」
「しょう。らしぇつに会えないのもいやぁ」
意外な言葉に動揺して目が泳ぐ。
「そ、そうか」
「よかったですね」
美空がニマニマ笑いながらひじで突くので、眉間にしわが寄る。
「はあっ?」
「照れちゃって」
言い返す言葉がなく羅刹が視線を背けると、美空はしゃがんで子供たちの目線に合わせてから話し始めた。
「きちんとお約束を守れば、羅刹さんも私も一緒にいられるからね。羅刹さんは、皆の心配をしてるんだよ。知らないところで迷子になると怖いよね。だから、ちゃんと手をつないで、勝手に走っていかないこと。お約束できる人!」
「はーい」
笑顔が戻った四人は、声をそろえて返事をした。
羅刹はもちろん子育ての経験はないが、美空もそうだ。それなのに、美空の子供たちの扱い方に感心する。
羅刹を悪者にせず、具体的にどうすればいいのか示して子供たちの不安も解消したうえ、しっかり約束もさせる。完璧なのではないだろうか。
かかわり方がわからないからと、彼女に任せきりだったことを反省した。もちろん口には出さないが。
「しゅっぱつするおー」
葛葉が声高らかに叫ぶと、あとの三人も笑顔で続いた。
羅刹は葛葉と相模、美空は桂蔵と蒼龍という組み合わせで手をつなぎ、林の中の緩く長い坂を上がっていく。
「きのこ!」
桂蔵が木から生えているきのこを見つけて駆け寄った。
「たべゆ?」
すぐに食と直結するのは蒼龍だ。
「ぼくきらいー」
相模は味噌汁のなめこが苦手で、顔をしかめている。
「多分ヒラタケだけど、きのこは毒を持っているものが多いから――」
「毒!」
美空の言葉を聞いた四人は、一斉に距離をとった。
「そうなの。だからそのままにしておこうね。食べられるきのこは、旅館の人が出してくれるよ」
「きのこいやー」
相模が再び食い下がると、美空は「そうだね」と彼の頭を撫でてやっていた。
様々な食材を食卓に並べる美空だが、あまり嫌いなものを強要しない。ひと口は食べさせてみるもののどうしても無理なときは『いつか食べられるようになるから』と言って下げるのだ。
どうやら人間は学校で給食というものがあるらしいが、美空はそこで苦手なねぎを食べるように強要されて、ますます嫌いになったようだ。ところが大人になって自分で調理したらおいしいと思うようになったとか。
そうした経験から、今は楽しく食べられる時間を大切にしていると話していた。
「いちごしゃん!」
目を輝かせて叫ぶのは葛葉だ。あとの三人の興味が一斉にそちらに向く。
「本当だね。キイチゴかな……」
スーパーで売っているいちごよりずっと小さなそれは、みずみずしくておいしそうに見える。
「フユイチゴみたいだね。あんまりおいしくはないんだって」
すぐにスマホで調べた美空がそう伝えると、子供たちは残念そうな顔をしたものの「きれいだねー」と観察を始める。
彼らのうしろでそれを見ている羅刹の隣に美空がやってきた。
「羅刹さんの言う通りでした」
「なにが?」
「特別なことをしなくても、子供たち楽しそう」
「そうだな」
その子供たちを見て美空が顔をほころばせているのが、羅刹はうれしかった。
ひなびた神社の境内は凛とした空気が張り詰めていて、ずっとふざけていた子供たちの表情が引き締まる。「神社には神さまがいるんだよ」と美空が簡単に説明していたが、なにか感じるものがあるのだろうか。
しかし「神さま、こにちは!」と葛葉が元気いっぱいに挨拶をすると、あとの三人も白い歯を見せて続く。
「こんちにはー」
「こんにちはー」
「ちわー」
どうやら初めての場所に少し緊張していただけらしい。
美空がひとりずつ五円玉を渡すと、それを賽銭箱に投げて願いを口にした。
「ごはんいっぱい食べたいなぁ」
蒼龍はやはり食いしん坊だ。
「ひこーきのりたいよー」
羽を持つ天狗の相模は、電車の次は飛行機を希望しているらしい。
「みしょらとらしぇつ、いっしょいいー」
桂蔵がそう願うので驚いていると、葛葉も続く。
「いっしょいいー」
「そーりゅーも」
「しゃがみも」
全員がにこにこと美空や自分を見て口々に言うので、胸の奥のほうが温かくなるのを感じた。
こんな世界があるとは。
明日死ぬかもしれないという恐怖と闘い続けた幼少の頃。こんなに苦しいのなら、いっそいなくなってしまいたいと願ったこともあった。でも、こうして生きていられることがどれだけ幸せか、子供たちと美空が教えてくれた。
「そうだな。一緒がいいな」
羅刹も賽銭を投げてつぶやいた。
子供たちをこれほど愛おしいと感じたのは初めてだった。様々な憎しみであふれていた心が、浄化されていくかのようだ。
ふと美空に視線を向けると、目を潤ませている。
いつか来る別れのときを考えているのか、それとも純粋に今の言葉が胸に響いたのかわからないが、公園で倒れていた彼女を拾って本当によかった。
――ニャー。
――ニャァァァ。
「タマ?」
そのとき、かすかに猫の鳴き声が聞こえてきて、相模が反応している。
「タマではないけど、どこかに猫さんがいるね」
美空も気づいたようだ。
子猫のようなか細い声と、親猫だろうか。少し太い鳴き声が会話を交わしているかのように交互に林にこだまする。その鳴き声がどこか悲しげで、かつ緊迫感が漂っている気がした羅刹は、即座に天知眼で周囲を調べた。この力を使えば、遠くを見通したり過去や未来を見たりできるのだ。けれど、生い茂る木々が邪魔をして猫を見つけられない。
それならばと、羅刹は相模に話しかけた。
「相模、猫がどこにいるか空から探せるか?」
もしやカラスに狙われているのではないかと思ったのだ。
羅刹の言葉にうなずいた相模は、瞬時に天狗の姿に変化すると空にはばたく。
「相模、あっちの方角だ」
鳴き声がする南西のほうを指さすと、彼は小さな羽をはばたかせて飛んでいった。
「猫しゃん、だいじょぶ?」
桂蔵が泣きそうなのは、以前子猫がカラスの犠牲になったところを見ているからだろう。
「相模がきっと見つけてくれる」
もうあのときの相模とは違う。必ず見つけるというような強い意思を持った目をして飛び立った彼が、きっと探し出すと羅刹は信じた。
緊張が張り詰める中、しばらくすると相模が戻ってきた。
「来たぁ」
「しゃがみぃー」
子供たちは、空に向かって手を振っている。全員相模に期待しているのだ。
「見つかったか?」
うまく地面に着地した相模に尋ねると、顔を引きつらせた彼はうなずく。
「池……おみ、おみじゅ」
「まさか、落ちたのか?」
焦ってうまく話せない彼に尋ねると、二度首を縦に振った。
――これはまずい。
気温の低い今、一刻も早く助けなければ死んでしまう。
「案内できるか?」
「うん」
了承した彼は、再び空に飛び立った。
羅刹たち一行は、相模の進む方角へ林の中の細い一本道を進む。
「美空、俺は先に行く。子供たちを頼む」
「わかりました。気をつけて」
三人を美空に託した羅刹は、走りだした。
相模の飛ぶスピードについていけるのは、車より速く走れる羅刹だけ。美空たちは気になるものの、一本道なので迷うことはなさそうだ。
進むにつれ鳴き声が大きくなっていく。羅刹は、高いほうの鳴き声がかすかに震えているのに気づいた。
「ねこしゃん」
相模が叫んだ瞬間視界が開け、目の前に池が現れた。池はさほど大きくないが、キジトラ柄の子猫が木片に乗って池を漂っている。湖畔で悲しげに鳴いている母猫は、助けに行ったものの断念したのだろう。体がぐっしょり濡れていた。
羅刹は着ていたコートで母猫を包んだあと、上空にいる相模に声をかける。
「相模、近づいて助けられるか?」
以前、カラスから子猫を助けた彼なら、きっとやってくれると期待が高まる。
「はぁい!」
威勢のよい返事をした相模は、早速高度を下げて子猫に近づいた。
「待て。一旦離れて」
羅刹が叫んだのは、相模の羽が作る風で水面が激しく波打ち、子猫の乗る木片が大きく揺れだしたからだ。
「ねこしゃーん」
うまくいかなかったからか、相模が半べそをかいているが、彼のせいではない。
「俺が助ける。大丈夫だ」
羅刹は冷たい水に足を踏み入れた。膝まで浸かりながら近づいていったものの、子猫が羅刹に恐怖を抱いたらしい。激しい鳴き声をあげながら暴れだす。
「動くな、落ちるぞ」
そう言いながら、そーっと一歩前に進むと、いきなり深くなり、腰まで浸かってしまいひどく焦った。
このままでは子猫は池に落ちてしまう。こうなったら、怖がられようとも泳いで近づくべきかもしれないと体勢を整えたそのとき。
「羅刹さん、あとは任せてください」
追いついた美空の声が聞こえてきて、振り向いた。
「その手があったか」
美空に指示されたのだろう。蛟の姿になった蒼龍が、すさまじい勢いで池の水をがぶがぶと飲み始めたのだ。
腰まであった水がみるみるうちに膝まで減り、羅刹は足を進めた。怖がる子猫が木片から落ちる寸前に手が届き、しっかり抱きしめる。
「大丈夫だ。なにもしない」
ミャーミャーとか細い声をあげて震える子猫に声をかけたあと、美空たちのもとに戻った。
「羅刹さん、こんなに濡れて……」
温泉なるものに初めて浸かった羅刹は、その熱さに少し驚いたものの、全身から余計な力が抜けていく心地よさを感じていた。
たかが風呂だと思っていたが、違うらしい。どういう理屈なのか理解できないが、このお湯は心が安定したり、肌がきれいになったり、胃腸の働きが活発になるのだとか。最近ますます食べる量が増えてきた子供たちの胃腸には必要なさそうだが。
ただ、心が安定するというのはわかる気がした。
なにも考えずに、ぼーっと浸かっていると、怒りや苦しみや悲しみといった負の感情が流されていく。
――いや、違うか。お湯のせいではなく、美空がいるからか。
家事と子供たちの育児を押しつけたいがために雇ったのだが、彼女の言葉はいちいち羅刹を揺さぶってくる。
あんなに素っけなくしていたのに、彼女は羅刹のために泣き、そして憤る。誰かになにかしてもらうという経験に乏しい羅刹は、最初は戸惑ったものの、誰にも隙を見せてはいけないと張りつめていた心がほぐれていくような感覚を味わっている最中だ。
美空は羅刹の弱みを見ても笑ったりしないし、バカにしたりもしない。そんな信頼関係が彼女との間に築けているのは、うれしい誤算だったのかもしれない。
屋敷に来てからずっと走り通しの美空に少し休息をと、子供たちには『美空は旅館で休むんだ』と伝えた。わかったのかわかっていないのか『はぁい』という威勢のよい返事をしていたのだが、どうやら一応理解しているらしいことがさっき確認できた。
休ませるといっても、彼女の力なしでの大移動は難しく、道中は手を借りた。せめて旅館にいる間は自分が動こうと思っているが、子供たちが頼りにしているのは美空のほう。散々育児を放棄してきた自覚はあるので致し方ない。
父や母と過ごした記憶がほとんどないのもあって、四人とどうかかわっていいのかずっとわからなかった。けれど、美空の様子を観察しているうちに、少しずつ理解してきた。
羅刹に足りないのは……多分、子供たちと一緒に笑ったり泣いたりする共感力だ。
美空は、たいして面白くないと思うようなことでも、四人と一緒に全力で楽しんで笑っているし、誰かが擦り傷でも作ろうものなら、まるで自分がけがをしたかのように眉をひそめて手当てをしている。そして、絶対にしてはならないことをしでかしたときは、完全に鬼になる。それも、彼らが危険な目に遭わないようにするためだ。
感情の振り幅が大きくてせわしないと最初は思っていたけれど、子供たちにはそれがわかりやすいらしい。
羅刹には大声をあげて笑ったり、涙を流したりというのは難しいのだが、それに気づいてからは、できるだけ子供たちの感情に寄り添えるように努力しているつもりだ。といっても、美空の十分の一にも満たないだろうが。
風呂から上がって部屋に戻ると、美空が脱ぎ散らかしてあった子供たちのコートをハンガーにかけていた。
「だから、休めと言っただろ。コートなんて放っておいても死にゃしない」
羅刹は美空から葛葉の赤いコートを取り上げて言った。
「そうですけど、なにもしないのも落ち着かなくて」
風呂に入ったせいか、髪を高い位置でひとつにまとめた美空の首筋がほんのり赤く染まっている。それに気づいた羅刹は、なんとなく気まずくなり視線をそらした。
「掃除も洗濯も料理もしなくていいなんて、家政婦失格ですね」
苦笑しながら座布団に座った彼女は、そんなふうに漏らす。
「あいつらが必要としてるんだから、失格じゃないだろ」
羅刹も隣に腰を下ろし、寝相が悪すぎていつの間にか場所が入れ替わっている四人を見て言った。
「私がいないとご飯を食べられないからしょうがないですよ」
「本気で言ってる?」
最初はそうだったかもしれないが、もうそれだけの存在ではないのは明白だ。
「そう思ってないと、寂しくなっちゃうでしょ」
美空の言葉の意味がすぐには理解できず、羅刹は首をひねった。しかし、いつか来る別れのときを想像しているのだとわかり、言葉をなくす。
あやかしの世の平穏がいつ訪れるのか、誰にもわからない。万が一にも羅刹の父が敗れるようなことがあれば、元通りにはならないだろう。
ただし、明日父が大蜘蛛を倒す可能性だってあるのだ。
妖狐のふたりはすでに両親を失っているため、この先どうすべきか慎重に考える必要がある。あとのふたりの両親は、どこにいるのかも、はたまた生きながらえているのかも今はわからないが、家族のもとに返すのが最善だろう。
彼女はそれを重々承知していて、別れのときが来るのを寂しく感じているのだ。
「いつか別れるときが来ても、美空が必要な人であることには変わりないんじゃねえの?」
「えっ?」
「あいつらは、そんなにバカじゃねぇ。お前からもらった愛情は忘れないだろ。あの四人がこれから生きていくのに、美空からもらったものが土台になるんだ。あいつらにとって、永遠に必要な存在なんだぞ」
柄にもないことを言ってしまったと少々ばつが悪いが、どうしても美空を励ましたい気分だった。
それにしても、こんな話をしている自分が信じられない。美空に出会うまで、愛情というものを否定していたからだ。
「そっか……」
言いたいことは伝わったようで、美空はようやく頬を緩めた。
それから三十分ほどして相模が目覚めると、桂蔵、葛葉が次々と起きた。
「みしょらー。ここどこ?」
ビビりの相模はいつもと違う光景に驚いたらしく、美空の胸に飛び込んでいく。
やはり彼女は子供たちにとって必要な存在だ。彼らがもっとも頼れる場所を作れている。
「大丈夫よ。電車に乗って旅行に来たでしょう?」
「しょーだった」
ホッとした様子の相模は、ようやく美空から離れた。
「お茶ー」
どんなときも物怖じしない葛葉は、羅刹が注いだお茶を喉を鳴らしながら飲んでいる。腰に手を当てて飲む様子は勇ましい限りで、彼女が唯一の女子だということを忘れそうになる。
葛葉の真似をして隣で桂蔵がお茶を飲み始めた頃、蒼龍が物音に気づいてようやく目を覚ました。
「ごはん?」
「さっき食べたでしょう?」
美空がクスクス笑った。
「あのね、近くに神社があるんだって。お参りに行ってみる?」
美空が提案すると、途端に四人の目が輝く。
「いくぅ」
「はやくぅ」
「どこ?」
「じんじゃ、なに?」
美空の周りをピョンピョン跳ねながら興奮気味に問う彼らを見ていると、きっとこういうのが幸せと言うのだろうと羅刹は思った。
自分にもこんな時間があればよかったのに。
そんなふうに嫉妬してしまうほど、四人の笑顔が弾けている。
もう失われた時間は戻ってこない。これから美空と子供たちと、幸せを作っていけばいい。
そう前向きに考えられるようになったのは、きっと美空のおかげだ。
「葛葉ちゃん、コート着て!」
いち早く飛び出していこうとする葛葉は、美空の言葉なんて聞こえていない。羅刹は仕方なく捕まえて抱き上げた。
「コートだ」
「わすゅれてたー」
行動力があるので他の三人のまとめ役には最適だが、猪突猛進なところはなんとかしてほしい。
四人はコートを纏うと、我先にと出ていこうとする。
「待て。知らないところで迷子になったら、美空に会えなくなるぞ」
脅し半分、本気半分。ちょっとした隙にいなくなるのだから、油断ならない。
羅刹がくぎを刺すと、一番聞いていてほしい葛葉は右から左に流し、相模が顔を引きつらせた。
「みしょらいなくなるのいやぁ」
「美空がいなくなるんじゃなくて、お前たちだ。家の近所じゃないから、帰り道もわからないだろ」
羅刹があきれながら言うと、桂蔵が続いた。
「らしぇつは会える?」
「はっ、俺?」
「しょう。らしぇつに会えないのもいやぁ」
意外な言葉に動揺して目が泳ぐ。
「そ、そうか」
「よかったですね」
美空がニマニマ笑いながらひじで突くので、眉間にしわが寄る。
「はあっ?」
「照れちゃって」
言い返す言葉がなく羅刹が視線を背けると、美空はしゃがんで子供たちの目線に合わせてから話し始めた。
「きちんとお約束を守れば、羅刹さんも私も一緒にいられるからね。羅刹さんは、皆の心配をしてるんだよ。知らないところで迷子になると怖いよね。だから、ちゃんと手をつないで、勝手に走っていかないこと。お約束できる人!」
「はーい」
笑顔が戻った四人は、声をそろえて返事をした。
羅刹はもちろん子育ての経験はないが、美空もそうだ。それなのに、美空の子供たちの扱い方に感心する。
羅刹を悪者にせず、具体的にどうすればいいのか示して子供たちの不安も解消したうえ、しっかり約束もさせる。完璧なのではないだろうか。
かかわり方がわからないからと、彼女に任せきりだったことを反省した。もちろん口には出さないが。
「しゅっぱつするおー」
葛葉が声高らかに叫ぶと、あとの三人も笑顔で続いた。
羅刹は葛葉と相模、美空は桂蔵と蒼龍という組み合わせで手をつなぎ、林の中の緩く長い坂を上がっていく。
「きのこ!」
桂蔵が木から生えているきのこを見つけて駆け寄った。
「たべゆ?」
すぐに食と直結するのは蒼龍だ。
「ぼくきらいー」
相模は味噌汁のなめこが苦手で、顔をしかめている。
「多分ヒラタケだけど、きのこは毒を持っているものが多いから――」
「毒!」
美空の言葉を聞いた四人は、一斉に距離をとった。
「そうなの。だからそのままにしておこうね。食べられるきのこは、旅館の人が出してくれるよ」
「きのこいやー」
相模が再び食い下がると、美空は「そうだね」と彼の頭を撫でてやっていた。
様々な食材を食卓に並べる美空だが、あまり嫌いなものを強要しない。ひと口は食べさせてみるもののどうしても無理なときは『いつか食べられるようになるから』と言って下げるのだ。
どうやら人間は学校で給食というものがあるらしいが、美空はそこで苦手なねぎを食べるように強要されて、ますます嫌いになったようだ。ところが大人になって自分で調理したらおいしいと思うようになったとか。
そうした経験から、今は楽しく食べられる時間を大切にしていると話していた。
「いちごしゃん!」
目を輝かせて叫ぶのは葛葉だ。あとの三人の興味が一斉にそちらに向く。
「本当だね。キイチゴかな……」
スーパーで売っているいちごよりずっと小さなそれは、みずみずしくておいしそうに見える。
「フユイチゴみたいだね。あんまりおいしくはないんだって」
すぐにスマホで調べた美空がそう伝えると、子供たちは残念そうな顔をしたものの「きれいだねー」と観察を始める。
彼らのうしろでそれを見ている羅刹の隣に美空がやってきた。
「羅刹さんの言う通りでした」
「なにが?」
「特別なことをしなくても、子供たち楽しそう」
「そうだな」
その子供たちを見て美空が顔をほころばせているのが、羅刹はうれしかった。
ひなびた神社の境内は凛とした空気が張り詰めていて、ずっとふざけていた子供たちの表情が引き締まる。「神社には神さまがいるんだよ」と美空が簡単に説明していたが、なにか感じるものがあるのだろうか。
しかし「神さま、こにちは!」と葛葉が元気いっぱいに挨拶をすると、あとの三人も白い歯を見せて続く。
「こんちにはー」
「こんにちはー」
「ちわー」
どうやら初めての場所に少し緊張していただけらしい。
美空がひとりずつ五円玉を渡すと、それを賽銭箱に投げて願いを口にした。
「ごはんいっぱい食べたいなぁ」
蒼龍はやはり食いしん坊だ。
「ひこーきのりたいよー」
羽を持つ天狗の相模は、電車の次は飛行機を希望しているらしい。
「みしょらとらしぇつ、いっしょいいー」
桂蔵がそう願うので驚いていると、葛葉も続く。
「いっしょいいー」
「そーりゅーも」
「しゃがみも」
全員がにこにこと美空や自分を見て口々に言うので、胸の奥のほうが温かくなるのを感じた。
こんな世界があるとは。
明日死ぬかもしれないという恐怖と闘い続けた幼少の頃。こんなに苦しいのなら、いっそいなくなってしまいたいと願ったこともあった。でも、こうして生きていられることがどれだけ幸せか、子供たちと美空が教えてくれた。
「そうだな。一緒がいいな」
羅刹も賽銭を投げてつぶやいた。
子供たちをこれほど愛おしいと感じたのは初めてだった。様々な憎しみであふれていた心が、浄化されていくかのようだ。
ふと美空に視線を向けると、目を潤ませている。
いつか来る別れのときを考えているのか、それとも純粋に今の言葉が胸に響いたのかわからないが、公園で倒れていた彼女を拾って本当によかった。
――ニャー。
――ニャァァァ。
「タマ?」
そのとき、かすかに猫の鳴き声が聞こえてきて、相模が反応している。
「タマではないけど、どこかに猫さんがいるね」
美空も気づいたようだ。
子猫のようなか細い声と、親猫だろうか。少し太い鳴き声が会話を交わしているかのように交互に林にこだまする。その鳴き声がどこか悲しげで、かつ緊迫感が漂っている気がした羅刹は、即座に天知眼で周囲を調べた。この力を使えば、遠くを見通したり過去や未来を見たりできるのだ。けれど、生い茂る木々が邪魔をして猫を見つけられない。
それならばと、羅刹は相模に話しかけた。
「相模、猫がどこにいるか空から探せるか?」
もしやカラスに狙われているのではないかと思ったのだ。
羅刹の言葉にうなずいた相模は、瞬時に天狗の姿に変化すると空にはばたく。
「相模、あっちの方角だ」
鳴き声がする南西のほうを指さすと、彼は小さな羽をはばたかせて飛んでいった。
「猫しゃん、だいじょぶ?」
桂蔵が泣きそうなのは、以前子猫がカラスの犠牲になったところを見ているからだろう。
「相模がきっと見つけてくれる」
もうあのときの相模とは違う。必ず見つけるというような強い意思を持った目をして飛び立った彼が、きっと探し出すと羅刹は信じた。
緊張が張り詰める中、しばらくすると相模が戻ってきた。
「来たぁ」
「しゃがみぃー」
子供たちは、空に向かって手を振っている。全員相模に期待しているのだ。
「見つかったか?」
うまく地面に着地した相模に尋ねると、顔を引きつらせた彼はうなずく。
「池……おみ、おみじゅ」
「まさか、落ちたのか?」
焦ってうまく話せない彼に尋ねると、二度首を縦に振った。
――これはまずい。
気温の低い今、一刻も早く助けなければ死んでしまう。
「案内できるか?」
「うん」
了承した彼は、再び空に飛び立った。
羅刹たち一行は、相模の進む方角へ林の中の細い一本道を進む。
「美空、俺は先に行く。子供たちを頼む」
「わかりました。気をつけて」
三人を美空に託した羅刹は、走りだした。
相模の飛ぶスピードについていけるのは、車より速く走れる羅刹だけ。美空たちは気になるものの、一本道なので迷うことはなさそうだ。
進むにつれ鳴き声が大きくなっていく。羅刹は、高いほうの鳴き声がかすかに震えているのに気づいた。
「ねこしゃん」
相模が叫んだ瞬間視界が開け、目の前に池が現れた。池はさほど大きくないが、キジトラ柄の子猫が木片に乗って池を漂っている。湖畔で悲しげに鳴いている母猫は、助けに行ったものの断念したのだろう。体がぐっしょり濡れていた。
羅刹は着ていたコートで母猫を包んだあと、上空にいる相模に声をかける。
「相模、近づいて助けられるか?」
以前、カラスから子猫を助けた彼なら、きっとやってくれると期待が高まる。
「はぁい!」
威勢のよい返事をした相模は、早速高度を下げて子猫に近づいた。
「待て。一旦離れて」
羅刹が叫んだのは、相模の羽が作る風で水面が激しく波打ち、子猫の乗る木片が大きく揺れだしたからだ。
「ねこしゃーん」
うまくいかなかったからか、相模が半べそをかいているが、彼のせいではない。
「俺が助ける。大丈夫だ」
羅刹は冷たい水に足を踏み入れた。膝まで浸かりながら近づいていったものの、子猫が羅刹に恐怖を抱いたらしい。激しい鳴き声をあげながら暴れだす。
「動くな、落ちるぞ」
そう言いながら、そーっと一歩前に進むと、いきなり深くなり、腰まで浸かってしまいひどく焦った。
このままでは子猫は池に落ちてしまう。こうなったら、怖がられようとも泳いで近づくべきかもしれないと体勢を整えたそのとき。
「羅刹さん、あとは任せてください」
追いついた美空の声が聞こえてきて、振り向いた。
「その手があったか」
美空に指示されたのだろう。蛟の姿になった蒼龍が、すさまじい勢いで池の水をがぶがぶと飲み始めたのだ。
腰まであった水がみるみるうちに膝まで減り、羅刹は足を進めた。怖がる子猫が木片から落ちる寸前に手が届き、しっかり抱きしめる。
「大丈夫だ。なにもしない」
ミャーミャーとか細い声をあげて震える子猫に声をかけたあと、美空たちのもとに戻った。
「羅刹さん、こんなに濡れて……」
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