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第四話 勇気をここに
しおりを挟む「不味いな。押されてる……」
視線の先にはオーガの耐久力に押されて、劣勢になりつつある女騎士。
彼女の作り出したファルシオンは確実に傷をつけるが、決定打にはなっていない。
なによりラーツィアを庇って立ち回っていた時に、吹き飛ばされて怪我をしていたようだ。
段々と動きに陰りが見える。
どうする?
ラーツィアを助けた以上、十分に関わってる。
ここであの女騎士だけ見捨てて逃げるのか?
それじゃあ後味が悪い。
だが、オレの恩恵は『消毒液』。
手の平一杯の量を作り出すのが限界。
一体なんの役に立つ?
……せめて、もっと大量に出せるなら押し流してやるのに。
「クソっ、オレに魔力があれば……」
オレが嘆いたその瞬間、後ろからラーツィアが話しかけてくる。
「アル様」
「え?」
「ア、アルコ様だから、アル様です。そ、その……ダメですか?」
ラーツィアが上目遣いで見詰めてくる。
おいおい、こんな時なのに可愛いな。
「い、いや駄目じゃない。……それでどうした?」
俺の問いにラーツィアは一つの指輪を差し出した。
「先程魔力が足りないとおっしゃっていましたよね」
「ああ」
「ならこちらの指輪を」
「これは?」
「吸魔の指輪。わたしの……他の方より多い魔力を抑えるためのものです」
「魔力……」
「余剰な魔力を吸収し、蓄積しておく指輪。この宝石の中には、魔力が蓄えられているはずです。アル様が指輪を使えば……」
渡された指輪を見る。
精緻な装飾に緑の宝石の嵌め込まれた白金の指輪。
女性用なのかサイズが小さい。
小指ならなんとかいけるか?
「アル様、どうかレオパルラを助けて下さい。彼女はこんなわたしについてきてくれた唯一の騎士。彼女を失うことなんて考えられません! どうか、どうかお願いします!」
オレは何をしているんだろう。
ここに来たのは偶然だ。
たまたま森に響く轟音を聞きつけてここまで来た。
すぐ目の前で、華奢な女の子が深く助けを懇願している。
「……そんなにお願いされても……オレの恩恵は……」
迷いがある。
長年“万年Dランク”、“ゴミ恩恵”と呼ばれてきた蔑みの言葉がオレの思考を鈍くする。
自分自身に対する疑心が心を支配する。
果たして指輪の魔力とやらでなにか変わるのか?
ほんの少し量が増えるくらいなんじゃないか?
騎士が戦って苦戦するようなオーガに勝てるのか?
ただ無様に死ぬだけじゃないのか?
「アル様ならできます」
根拠のないラーツィアの言葉に迷いが晴れた気がした。
そうだ。
あの時だって。
オーガの目の前でラーツィアを抱えて逃げた時だって……楽しかったじゃないか。
久々にスカッとした出来事だった。
執拗にラーツィアを狙って襲ってきた奴相手に、オレみたいな予想もしない伏兵がその目標を奪ってやった。
冒険者として自由を体感していた。
助けたい相手を助けられた。
いつから忘れていたんだ。
孤児院の絵本で冒険譚を見て憧れた気持ちを……。
自由を体現する冒険者を夢見た気持ちを。
「……」
指輪を嵌める。
白金の指輪を左手の小指に……。
「ぐぅぅ……」
「アル様っ! どうかなさったのですか? とても苦しそうなお顔です!」
「……そうか、そういうことだったのか。……オレは理解が足りなかったんだ」
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