上 下
153 / 177

第百五十三話 重なる想い

しおりを挟む
前話の自動魔法は六大魔法のみにしか存在しないは誤りです。すみませんでした。





「帝国皇族の独占する魔法因子、か。ということはニール君、君は……」

 何かに確信を得た表情で一筋の血で赤く色づいた頬を撫でるハルレシオ。

 まあ、バレるよな。
 《デュアル》の魔法因子は帝国皇族のみ習得しているのは帝国ならずとも有名な話だ。

「ああ、アンタの想像通りだと思うぜ」

「……君が護衛に守られていることは知っていた」

「なに?」

 影の護衛は他へ情報を漏らさない隠密行動が原則だが、公爵家の情報網に引っ掛かったか。
 やはり侮れないな。
 まあ、面会を申し出た時点で出向いてくる相手の素性ぐらい調べもするか。

「君の詳しい素性までは調べきれなかったがね。……ただ、凄腕の護衛を配する必要のある要人であることは容易く推測できた。なにせ君を守る護衛たちは存在こそわかっていても身元も何もわからない。一切の正体を悟らせない者たちだったからね」

 そうだろう。
 オレの自慢の護衛たちだ。

 帝国を飛び出したオレに着いてきてくれた掛け替えのない仲間たち。

「唯一オークションで姿を現した剣士風の護衛しか我々は確認できていない。彼が姿を表さなければ……あるいは君が要人だとわからなかったかもしれないな」

(ゼクシオぉ。アイツ……あの場では仕方ないとはいえ、しっかり目撃されてるじゃねぇか!)

(フッ、相変わらず笑わせてくれる奴だ)

「時の皇帝には皇子四人、皇女一人の子供たちがいたはずだが……君はその一人と言うことか」

「オレの存在は割と隠されていると思ったんだがそうでもないのか? 特に大々的には発表されてなかったはずだが……」

「皇子がもう一人いると知った時の皇帝の動揺振りは凄まじかったそうだからね。それに、人の口に戸は立てられないものだ。それが一国を治める統治者の血縁の発見ともなれば少なからず情報は漏れる」

 フージッタも同じようなことを言ってたけどどうもあの親父が動揺するなんて考えられないんだけどな。

「そして、あの魔法こそ君の切り札ということか。――――中級複合魔法因子、《デュアル》」

「ああ、あんまり見せびらかすようなもんじゃないけどな」

 中級複合魔法因子、《デュアル》。

 難度こそ中級に位置するが魔法因子の中でも特別なもの。

 魔法を同一地点に二重に展開する。
 ただそれだけのシンプルな魔法因子。
 だがその効果は他の魔法因子とは一線を画す。

 《デュアル》は威力、速度、射程、全てを倍化させる。

 欠点は高い魔力消費量と不安定さだけか、使い手の修練具合によって魔法が不発に終わることもある。
 しかしそれに見合ったメリットは十分ある。

 高い魔法制御の力が必要なためオレも完璧に使用できる訳ではないが、ギガントアントイーターに使用した時よりも修練を積んできた。
 中級魔法なら問題なく使用できる。

 これを晒すことにはリスクもある。
 ……だが、それでもオレは勝ちたい。

「お前に勝つためにはこれしかなかった。オレのすべてを曝け出さなければお前には勝てない」

「光栄だね。私をそれほど高く評価してくれるとは」

「当然だろ」

 爽やかに微笑むハルレシオ。
 だが内側には闘志が煮えたぎっている。
 オレと同じように。

「…………」「…………」

 誰の合図でもなくオレたちは戦いを再開する。
 オレの手札は見せた。

 後は決着をつけるだけだ。

「【フォトンダガー・ディレイ5】」

「ん……なるほどな」

 《フォトンダガー》を複数方面に向かうように配置するハルレシオ。
 さっきの反省を踏まえて移動先を捉えるつもりか。

「身体強化!」

 もう声に出す必要のない闘気による身体強化をあえて叫ぶ。
 なんとなくだが気合いが入った。

 地を踏みしめ走る。

 向かうは当然ヤツの懐。

「行くぜ、べイオン! 【クォーツバレット・デュアル2】!」

 牽制にしては豪快な二重に展開した水晶の弾丸。
 魔法因子を加える前とは比べものにならない速度で空を飛翔する。
 本来六大魔法の中でも質量のある土属性魔法は速度で劣るはずなのに、最速と名高い光属性魔法に匹敵する高速。

「ぐ……」

(防ぐのも逸らすのも精一杯のようだな。ニール、このまま畳み掛けろ! 《フォトンスフィア》を展開させるな!)

「おう! 【クォーツアロー・デュアル3】!」

 接近しながら放つのは手数を増して撹乱するための魔法。
 威力は多少落ちても魔法を使わせる隙は与えない。

 なにより《フォトンスフィア》は厄介すぎる。
 展開されれば《デュアル》の複合魔法因子を加えた魔法でも突破できない可能性が高い。

「【フォトンボール5】」

 広範囲にばら撒かれた形成魔法。
 着弾と同時に内包した光子が破裂して衝撃を与える。
 だが、これはチャンスだ。
 弾道スレスレを駆け抜け一気に接近する。

「らあああああーー!!」

 べイオンを叩きつける瞬間、魔力の高まりを感じた。
 これは……。

「【フォトンスプレッド3】」

「っ、【クォーツシールド】」

 痛ってえな。
 至近距離からの拡散魔法。
 展開した盾では胴体だけで手足まで防ぎきれなかった。

 ついでと言わんばかりに《ディレイ》で遅らせていた魔法が向かってくる。
 く……これはなんとか回避できた。

「このっ、待ち構えていやがったな」

「当たり前さ。君なら私の光子魔法の弾幕を容易く乗り越えてくる。さて……隙が出来たようだ。【フォトンスフィア】」

「またかよ」

 余裕ある笑みを崩さないハルレシオの頭上に展開した光の集まり。
 これで振り出しに戻ったな。
 あの円球の影響範囲では魔法はアイツまで届かない。

(だが、いまのお前には関係ない。そうだろう?)

「その《フォトンスフィア》……魔法は止められても闘気による攻撃は止められないんだろ」

 確信があった。

 いまのオレには動揺も油断も慢心もない。
 ただコイツを乗り越えるという決意だけがある。

「……ああ、この自動湾曲光子魔法は魔力による攻撃のみを屈折させ、静止させる。闘気には無力さ」

「やっぱりな」

「だが、だからと言って簡単に私を攻略できるとは思わないことだ。この魔法の影響下なら以前として君の魔法は私には届かない」

 問題はそれだ。
 
 だが、気づいたこともある。
 べイオンの言っていたハルレシオの見せていない力。
 アイツは……。

「闘気」

「なに?」

「そういえばお前、闘気って使ってないよな」

「……」

「ハッ、図星かよ」

 べイオンはこのことを言っていたのか!

「なら勝機はある」

「……確かに私は闘気の扱いは拙い。だがこの勝負負けるつもりはない!」

「オレもだよ!」

 互いに叫ぶ。

 想いは一つ。

「【フォトンブラスト・スピン】!!」

「……【闘技:衝打波】!!」

 交錯し重なる想い。

 決着はもう目の前にあった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...