上 下
128 / 177

第百二十八話 魔獣殺しの大罪

しおりを挟む

「大罪、人? なにをいっている……」

(コイツ何を考えてる? 単なる言葉による揺さぶりか? それともクライに架空の罪でも着せるつもりか?)

 意味がわからなかった。

 黒フードが突然激昂し俺を糾弾する。

 神から賜りし瘴気獣?
 大量虐殺?
 神の試練の妨害?
 
 いずれも意味のわからない疑問しか湧かない内容ばかり。
 
「わからないか? 自らの罪の重さがァッ!!」

 もっと冷静に立ち回る奴といった印象だった黒フードが、感情を荒らげて言葉を紡ぐ。

 だが、寧ろその直情的な態度からはウソをいっていないように感じた。
 明らかにそれが実際に起こったことだと確信している素振り。

 いや――――まさか、そう信じ込んでいるのか?

「瘴気獣は神から齎された我らを導く聖獣だ。それを人の手で殺そうなどと、なんと罪深い行為。そして、オマエは先の迷わずの森で瘴気獣を大量虐殺した大罪人。故にこそ己の罪の重さを自覚しろ!」

「何をいっている。迷わずの森では複数の瘴気獣が無差別に暴れ回り、同じ瘴気獣同士ですら争っていたんだぞ。そして、私たちがどうこうするでもなく向こうから襲ってきたんだ。反撃して何が悪い。それに、あの場には数多くの瘴気獣こそいたが私たちは別に大量には倒していないぞ」

 度重なる意味不明な主張についに我慢できなくなったミストレアが、念話ではなく言葉にだして黒フードに反論する。

「だが、オマエたちは我らが聖獣を殺しただろう? 地上に混乱と破壊を齎すはずの四足獣を。聖獣の統率者足る獣を。だからこそ“孤高の英雄”などと大仰な異名で持て囃されている。そんな資格など無いにも関わらず!」

「それは……」

「イヤイヤ、何いってるんだろうねー。瘴気獣が聖獣ぅ? 向こうが無辜の人々を無差別に襲ってくるから悪いんでしょ。アイツらが何にもしないんならワタシたちも別に手を出さないのにさ」

「何を言う! オマエたちが彼らを攻撃するから、仕方なく反撃しているだけだ!」

 相容れない主張。
 黒フードは頑なに自分の意見を崩さない。
 あくまで俺たちが悪いと主張し続ける。

 ここまで考えが異なるとは……。

 フージッタさんも黒フードの無茶苦茶な言葉に呆れ辟易している。

「え~、じゃあ大人しくこっちが倒されろって言うの?」

「そうだ。聖獣相手に抵抗するなど愚の骨頂。彼らの手で殺されるならソイツの天命がそこで尽きただけのことだ! いや寧ろ、ソイツは運がいいんだろうな。神の使いである聖獣に手ずから殺される。選ばれたといってもいい」

 言葉がでない。
 
 襲ってくる瘴気獣相手に黒フードは一切の抵抗は許されないと断言する。
 彼らを傷つけることも倒すことも断じて否だと。

(……こんな奴がいるのか? 瘴気獣の被害がいままでどれだけあったと思ってる。大陸各地のどこでだって目撃されない場所はないといわれているんだぞ)

 ミストレアが念話で憤る。
 だが、その声音には理解できない者に対する困惑の色が浮かんでいた。

 俺もそうだ。
 こんな考えの人物にはいままで出会ったことがない。
 
 最初はどこか飄々として小馬鹿にしてくるような相手だったはずの黒フード。
 それがいまや自ら主張を声高に叫び、こちらの意見には耳を傾ける様子は微塵もない。
 自身の考えに一切の疑いがないのが断言する口調に表れていた。

「今回もそうだ! 神の試練により降臨した魔獣たちを有無を言わさず殺害する暴挙。神が直々に石版にまで記して下さった魔獣たちの降臨だぞ。なぜそれを台無しにする!」

「いや~、あのスライムの大波は防がないとどれだけ被害が出たかわからないでしょ」

「ああ、騎士団やオマエたち冒険者のせいで大量の魔獣たちが死んでいった。……止められていなければ私が自らオマエたちを殺したいくらいだ。それぐらい醜悪で不愉快な光景だったよ」

 ……止められていなければ?
 いや、いまはそれどころじゃない。

「……それでエクレアに奇襲を仕掛けてきたのか?」

「ん? ああ、あの小娘か? 本当は“孤高の英雄”などと呼ばれて喜んでいるオマエの方が良かったんだが……つい、隙だらけだったのでね。魔が差してしまったよ」

「コイツッ」

「…………」

「クククッ、そんな恨みがましい目で見るな。無事だったんだろう? もっともあれが仮に直撃したとしてもあの小娘はすぐには死ななかっただろう。かなり手加減したからな。だが……オマエたちの慌てる姿を見るのは楽しかったよ」

 黒フードから垣間見える口元は悪意に歪んでいる。
 嗤っていた。
 エクレアの傷つく姿を、俺たちが悲しむ姿を想像して愉悦に浸っていた。

「う~ん、こういうのが狂ってるって言うのかなー」

「心外だな。オマエたちが可笑しいんだ。神からの寵愛を蔑ろにするオマエたちが! 騎士団も許せるものではないが、特に冒険者と呼ばれる者たち。魔獣の命を奪い、皮を剥ぎ、胸を切り裂き魔石を掠め取る。素材と称してその体躯をバラバラに解体し、辱め、全てを貪る悪鬼共。罪深い。ああ、罪深い連中だ。……見るに堪えないよ」

 高らかに自らの主張に酔う黒フード。
 ……なんなんだコイツは。

「さて、大罪人であるオマエとの接触は禁じられていたが……口程にもなかった。そうだな。ここでもう少し魔獣たちの味わった痛みをその身で直に感じて貰おうか」

「我が導師よ。……本当にいいのか? このまま戦闘を続けて」

「シャルドリード。忠告は有り難いが、せっかく彼らからこんな森の中まで来てくれたんだ。例え私が誘ったのだとしてもね。もう少しおもてなしをしてあげるべきだろう」

「そうか……我が導師がそのように言うのなら構わない。だが、彼らは少し知りすぎた。痛みを知って貰うにしても、そこの獣人の女は要らんのではないか?」

 自らの円環杖の天成器と会話する黒フード。
 口調こそ冷静さを取り戻しているが話している内容はあまりに危険に満ちている。

「ああ、そうそう。先程の種明かしをしよう。そのご自慢の天成器で私の氷河魔法の障壁が壊せなかった理由を」

 手の内を自ら明かそうとする黒フード。
 そと態度からは自分の魔法への相当な自信が窺えた。

「《イムーバブル》。魔法をその場に固定して展開する代わりに魔法自体の威力と耐久力を引き上げる不動の魔法因子。これを障壁魔法に加えれば氷河魔法の元々の高い耐久力と相まってさらに堅固な障壁を作り出せる。そうだ、生半可な攻撃では私の氷河は砕けない。――――さあ、それを知ったうえでどう対処するのかな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...