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決意、行動
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完璧に準備の整い、あとは決行するだけ…となったその翌日のことだった。
私宛にユヒア・エデンピトから屋敷へ招く手紙届いたのだ。
「こんなタイミングで…
危険だ。何かあるに違いない」
ヨルアはそう忠告してきた。
「断れば怪しまれてしまうかも…。
それに、むしろ好都合かもしれません」
「好都合…?」
「心配は無用です。
この日の深夜、旅立ちましょう」
3日後、その日はやってきた。
「心配無用」とは言ったが、実は打った手だては賭けに近い。失敗する可能性も十分にあった。
でも、大丈夫と自分に言い聞かせて家を出て馬車に乗る。
ユヒア・エデンピトの屋敷は宮殿に程近い位置にあるので、数時間はかかった。
「ようこそ、ルウ夫人」
「この度はお招きありがとうございます、ユヒア・エデンピト様」
エデンピトはいつも通りの無機質な微笑みで私を迎え入れる。
私は警戒心を悟られないようにしながら案内されるまま屋敷の奥、客間へと進んだ。
「先日お伺いしたときに飲んだお茶が渋かったものだから、美味しいお茶を飲んでいただきたくてご招待したのよ」
薫り高い、高級そうな紅茶がカップに注がれる。
「それはありがとうございます」
時折嫌味を交えながらの長い間、他愛のない世間話をしていた。
そろそろ帰宅したいことを伝えようとしたとき…
「…ところで貴女、最近書物をかき集めているらしいわね?国外のものとか」
そんな質問で空気がピリリと張り積める。
「ええ、良くご存じですね」
冷静を装って応える。
「私のもとには色々と情報がまわってくるのよ。
色々とね…」
「社会勉強ですわ。私、卑しい身分出身なので、主人に恥をかかせないように」
「それに、家財を色々と売り払ってるという話も聞いたわ」
「物置の肥やしにやってるものが多くて。上等な調度品ばかりだからそのままにしておくのは可哀想だと思いまして」
彼女はふふふふふっと笑ったかと思うと、指をひとふりした。
すると、私の手足が見えない縄で椅子に縛られる。
「!?」
「正直に白状なさい。何を企んでいるの?」
「…ご、誤解です!
私なにも企んでなんか…離してください!」
「まあいいわ。アリアス」
「はい、お師匠様」
彼女がそう一声かけるとアリアスが部屋に入ってきた。
ツキリア家にいた頃からかなり印象が変わった。
目はキツくつり上がり、顔色もあまり良くない。
「私、暴力は嫌いなの」
そう言って私の前まで歩いてくると、息がかかるほど顔を寄せる。
甘い香水の香りが鼻をくすぐった。
「だから、貴女の紅茶に惚れ薬を3滴垂らしたわ」
「惚れ薬…?」
顎を掴まれる。
「一般には出回らないほど濃度を高めた違法魔法薬よ。まあ、私は特例で許されてるケド
貴女は次に口づけを受けた相手に身も心も陶酔してしまう。
ひとつの質問に10答えてくれる正直な良い子になるわ。
でも…」
パッと突き放された。
「貴女の言う通り、卑しい身分の子に陶酔されても迷惑だわ。
だからアリアス、やりなさい」
「…」
アリアスはただ押し黙ってそこにいる。
私は今、折角芽生えた愛を踏み潰されようとしている…。
心の底から怖かった。
「そんなことしたらヨルアさんが何するかわからないですよ!!」
「大丈夫よ、貴女はアリアスの言いなりになる。
薬を盛られたことを彼に言うことはないわ。
彼は貴女が心変わりしたと思い傷心…
しばらく落ち込むでしょうけど、妙な計画も辞めるでしょう」
彼女は愉悦の表情を浮かべながらアリアスの背中に回る。
「さあ、やりなさい。
愛しのメイドも手に入るわよ」
「や、やめてください…アリアス様…お願い…」
下を向きながらそう懇願するが、無慈悲にもアリアスは私の顎を強引に上げる。
「アリアス様…」
「すまない…」
唇が、重なった。
私宛にユヒア・エデンピトから屋敷へ招く手紙届いたのだ。
「こんなタイミングで…
危険だ。何かあるに違いない」
ヨルアはそう忠告してきた。
「断れば怪しまれてしまうかも…。
それに、むしろ好都合かもしれません」
「好都合…?」
「心配は無用です。
この日の深夜、旅立ちましょう」
3日後、その日はやってきた。
「心配無用」とは言ったが、実は打った手だては賭けに近い。失敗する可能性も十分にあった。
でも、大丈夫と自分に言い聞かせて家を出て馬車に乗る。
ユヒア・エデンピトの屋敷は宮殿に程近い位置にあるので、数時間はかかった。
「ようこそ、ルウ夫人」
「この度はお招きありがとうございます、ユヒア・エデンピト様」
エデンピトはいつも通りの無機質な微笑みで私を迎え入れる。
私は警戒心を悟られないようにしながら案内されるまま屋敷の奥、客間へと進んだ。
「先日お伺いしたときに飲んだお茶が渋かったものだから、美味しいお茶を飲んでいただきたくてご招待したのよ」
薫り高い、高級そうな紅茶がカップに注がれる。
「それはありがとうございます」
時折嫌味を交えながらの長い間、他愛のない世間話をしていた。
そろそろ帰宅したいことを伝えようとしたとき…
「…ところで貴女、最近書物をかき集めているらしいわね?国外のものとか」
そんな質問で空気がピリリと張り積める。
「ええ、良くご存じですね」
冷静を装って応える。
「私のもとには色々と情報がまわってくるのよ。
色々とね…」
「社会勉強ですわ。私、卑しい身分出身なので、主人に恥をかかせないように」
「それに、家財を色々と売り払ってるという話も聞いたわ」
「物置の肥やしにやってるものが多くて。上等な調度品ばかりだからそのままにしておくのは可哀想だと思いまして」
彼女はふふふふふっと笑ったかと思うと、指をひとふりした。
すると、私の手足が見えない縄で椅子に縛られる。
「!?」
「正直に白状なさい。何を企んでいるの?」
「…ご、誤解です!
私なにも企んでなんか…離してください!」
「まあいいわ。アリアス」
「はい、お師匠様」
彼女がそう一声かけるとアリアスが部屋に入ってきた。
ツキリア家にいた頃からかなり印象が変わった。
目はキツくつり上がり、顔色もあまり良くない。
「私、暴力は嫌いなの」
そう言って私の前まで歩いてくると、息がかかるほど顔を寄せる。
甘い香水の香りが鼻をくすぐった。
「だから、貴女の紅茶に惚れ薬を3滴垂らしたわ」
「惚れ薬…?」
顎を掴まれる。
「一般には出回らないほど濃度を高めた違法魔法薬よ。まあ、私は特例で許されてるケド
貴女は次に口づけを受けた相手に身も心も陶酔してしまう。
ひとつの質問に10答えてくれる正直な良い子になるわ。
でも…」
パッと突き放された。
「貴女の言う通り、卑しい身分の子に陶酔されても迷惑だわ。
だからアリアス、やりなさい」
「…」
アリアスはただ押し黙ってそこにいる。
私は今、折角芽生えた愛を踏み潰されようとしている…。
心の底から怖かった。
「そんなことしたらヨルアさんが何するかわからないですよ!!」
「大丈夫よ、貴女はアリアスの言いなりになる。
薬を盛られたことを彼に言うことはないわ。
彼は貴女が心変わりしたと思い傷心…
しばらく落ち込むでしょうけど、妙な計画も辞めるでしょう」
彼女は愉悦の表情を浮かべながらアリアスの背中に回る。
「さあ、やりなさい。
愛しのメイドも手に入るわよ」
「や、やめてください…アリアス様…お願い…」
下を向きながらそう懇願するが、無慈悲にもアリアスは私の顎を強引に上げる。
「アリアス様…」
「すまない…」
唇が、重なった。
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