悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず

文字の大きさ
上 下
16 / 19
決意、行動

4

しおりを挟む
完璧に準備の整い、あとは決行するだけ…となったその翌日のことだった。

私宛にユヒア・エデンピトから屋敷へ招く手紙届いたのだ。

「こんなタイミングで…
危険だ。何かあるに違いない」

ヨルアはそう忠告してきた。

「断れば怪しまれてしまうかも…。
それに、むしろ好都合かもしれません」

「好都合…?」

「心配は無用です。
この日の深夜、旅立ちましょう」

3日後、その日はやってきた。
「心配無用」とは言ったが、実は打った手だては賭けに近い。失敗する可能性も十分にあった。
でも、大丈夫と自分に言い聞かせて家を出て馬車に乗る。
ユヒア・エデンピトの屋敷は宮殿に程近い位置にあるので、数時間はかかった。

「ようこそ、ルウ夫人」

「この度はお招きありがとうございます、ユヒア・エデンピト様」

エデンピトはいつも通りの無機質な微笑みで私を迎え入れる。
私は警戒心を悟られないようにしながら案内されるまま屋敷の奥、客間へと進んだ。

「先日お伺いしたときに飲んだお茶が渋かったものだから、美味しいお茶を飲んでいただきたくてご招待したのよ」

薫り高い、高級そうな紅茶がカップに注がれる。

「それはありがとうございます」

時折嫌味を交えながらの長い間、他愛のない世間話をしていた。
そろそろ帰宅したいことを伝えようとしたとき…

「…ところで貴女、最近書物をかき集めているらしいわね?国外のものとか」

そんな質問で空気がピリリと張り積める。

「ええ、良くご存じですね」

冷静を装って応える。

「私のもとには色々と情報がまわってくるのよ。
色々とね…」

「社会勉強ですわ。私、卑しい身分出身なので、主人に恥をかかせないように」

「それに、家財を色々と売り払ってるという話も聞いたわ」

「物置のにやってるものが多くて。上等な調度品ばかりだからそのままにしておくのは可哀想だと思いまして」

彼女はふふふふふっと笑ったかと思うと、指をひとふりした。
すると、私の手足が見えない縄で椅子に縛られる。

「!?」

「正直に白状なさい。何を企んでいるの?」

「…ご、誤解です!
私なにも企んでなんか…離してください!」

「まあいいわ。アリアス」

「はい、お師匠様」

彼女がそう一声かけるとアリアスが部屋に入ってきた。
ツキリア家にいた頃からかなり印象が変わった。
目はキツくつり上がり、顔色もあまり良くない。

「私、暴力は嫌いなの」

そう言って私の前まで歩いてくると、息がかかるほど顔を寄せる。
甘い香水の香りが鼻をくすぐった。

「だから、貴女の紅茶に惚れ薬を3滴垂らしたわ」

「惚れ薬…?」

顎を掴まれる。

「一般には出回らないほど濃度を高めた違法魔法薬よ。まあ、私は特例で許されてるケド
貴女は次に口づけを受けた相手に身も心も陶酔してしまう。
ひとつの質問に10答えてくれる正直な良い子になるわ。
でも…」

パッと突き放された。

「貴女の言う通り、卑しい身分の子に陶酔されても迷惑だわ。
だからアリアス、やりなさい」

「…」

アリアスはただ押し黙ってそこにいる。
私は今、折角芽生えた愛を踏み潰されようとしている…。
心の底から怖かった。

「そんなことしたらヨルアさんが何するかわからないですよ!!」

「大丈夫よ、貴女はアリアスの言いなりになる。
薬を盛られたことを彼に言うことはないわ。
彼は貴女が心変わりしたと思い傷心…
しばらく落ち込むでしょうけど、妙な計画も辞めるでしょう」

彼女は愉悦の表情を浮かべながらアリアスの背中に回る。

「さあ、やりなさい。
愛しのメイドも手に入るわよ」

「や、やめてください…アリアス様…お願い…」

下を向きながらそう懇願するが、無慈悲にもアリアスは私の顎を強引に上げる。

「アリアス様…」

「すまない…」

唇が、重なった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...