悪い魔法使い、その愛妻

三糸タルト

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決意、行動

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「まさか、アリアス様も…」

「ははっ、王宮付き魔法使いはただの"飾り"に過ぎませんよ。見た目が良くてそこそこ魔法の使える奴が選ばれる。
象徴として、みんなが魔法使いに憧れるようにね。
殺し向きの奴は陰の魔法使いとして国に雇われるんです」

エデンピトを毛嫌いする理由がやっとわかった。
彼女はきっと手を染めていないのだ。
温かい家庭を望むヨルアにとって、それがどんなに妬ましいものか。

「どうです?リコはこんなクソみたいな国の、クソみたいな仕事をする僕を愛せますか?」

自虐的な笑みを浮かべてそう質問してきた。
私はとても悲しくなり、彼の額にキスをする。

「愛しますよ」

ヨルアから笑みは消えた。
彼もただただ辛そうな、悲しそうな顔をしてうつむく。

「ご主人様、入浴の準備ができました。
お召し物をこちらに」

キルケがそう言うとのそのそと立ち上がり、浴室へ入っていった。
私は彼が先ほどまで座っていた椅子に腰かける。
とんでもない話を聞いてしまった。

私にとって、彼の罪や、国家の陰謀や、平和の存続なんてどうでもいい。

今後、どうやって彼を幸せにするかが重要だ。

彼がこの仕事を続ける限り、それは叶わないのは確実だ。
行動を起こさない限り…。

…脱却の糸口は2つだ。

・仕事を辞める
・国のあり方を変える

前者は、どこまで可能だろうか。
恐らくこちらから「辞める」と言ってもこの仕事は重要機密だ。国家は簡単にそれを許さないだろう。下手したら消される可能性も高い。
となると、亡命する必要が出てくる。
問題は知識だ。私には他国に関する知識が一切無いと言っても過言ではない。
どこが平和で、ヨルアの望みを叶えられるのか調べる必要がある。

後者は、あまり現実的ではない。
この事実をバラまき、国民に訴え国のあり方を変えるという志事態は悪くない。根本的な解決になる。だが、もし運良く国の法律に乗っ取って話し合いで解決に導くとしたなら何年かかってしまうんだろう。
ひとつの法律を変えることで20年かかった記録もある。革命を起こして国vs民になれば犠牲も多く出てしまう。

「…」

私は少し考えてから立ち上がり、キルケを探す。
庭で血のついた服を処分していた。

「キルケさん、近日中で構いません。
国外に関する情報の載った書物をかき集めてください。
国内で作られたものはだめです、正しい歴史や時事の書かれているものでお願いします」

国内のものは情報操作されている可能性が高い。
ヨルアを傷付けるこの国を、私は一切信用しないことにした。

「かしこまりました…
しかし、一体何に使うのですか?」

私の企みなど知るわけもないキルケは不思議そうに首をかしげている。

「闘うのよ」

愛に狂った孤児の小娘は、国に反抗すると決心していた。
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