13 / 19
決意、行動
1
しおりを挟む
それから1週間、私は毎日が薔薇色であった。
好きな人と暮らすというのはこんなにも楽しいものなのか。
世界が色鮮やかに、輝いて見える。
しかし、異変は突然訪れた。
ヨルアはしばしば外に仕事に行き、夜に帰ってくる。行き先は教えてくれない。
その日もそうだったが、いつにも増して帰りが遅かった。
「ヨルアさん、どうしたのでしょう…」
窓を覗く。今夜は新月だから外は真っ暗だった。
「ごく稀に帰らない日がございます。
心配しすぎても奥様の身体の毒になりますよ。
今夜は先にお休みになられた方がよろしいかと」
そう言ってキルケは肩掛けをかけてくれたが、心配な気持ちは薄れない。とても眠れそうになかった。
「もう少しだけ待ちます」
「ではお茶でもお淹れしますね」
キルケの淹れてくれたのは珍しくハーブティーだった。スッとした草花の香りが鼻を抜け、少しリラックスする。
そのお陰か、しばらくすると私はうとうととしてきて堪らずに眠りに落ちてしまった。
何か凄まじい気配を感じてハッと目を覚ます。
キルケが運んでくれたのかベッドの上にいたが、隣には誰もいない。
どのくらい寝てしまったかわからないが、外はまだ暗い。時間は深夜を回っているはずだ。ベッドから出て下に降りた。
この先で見たものに、私は思わず声を失った。
「!!!」
家の玄関には血まみれのヨルアがいた。
ただ呆然と、虚ろな顔で立ち尽くしていた。
「ヨルアさん…!そんな…っ!!大丈夫ですか?」
駆け寄ると、彼はやっと私に気がついたのかいつものように優しい微笑みを浮かべる。
ただその中には殺気が存在し、狂気を感じた。
「大丈夫です、これは僕の血じゃありません」
引きずるような足取りで部屋の中に進むと、どっさりと椅子に座り込む。
「ただ少し疲れた…」
キルケは慣れたように、お湯とタオルを持ってきて彼の顔の汚れを拭こうとしたが、ヨルアがそれを制した。
「リコがやってください、あのときみたいに」
キルケからそれを受け取り、恐る恐るそっと拭く。
なんだかとても怖かった。
「あのときも、あなたは震えていましたね」
何が面白いのか彼はクックと笑う。
「…何があったのです……」
「なに、敵を殺しただけですよ」
「敵って…誰です?」
この国では争いは禁じられている。
国内の如何なる諍いも中立をはさみ話し合いで解決しなくてはならない。
戦争とも無縁の国だ。
だから、本来は敵などいないはずだ。
「誰かは知りません。そこまで教えてもらってない。強いて言うなら国王陛下と誰かの敵だ」
「国王陛下…?」
「あなた方は何も知らないで、のうのうと生きてきたんですよね」
血に汚れた手で私の頬を撫でる。
「どういうことですか?」
「あなたは、"この国は魔法で守られているから戦争の多いこの世界でも平和なのだ"という戯言を本当に信じていたのですか?」
嘲笑うような口調に、疑うこともしたことがなかった私は何も返せなかった。
「そんなわけないじゃないですか…戦争なんてありゃしない」
「ではあなたの敵とは…?」
「我がヨモリギ王国が他国から我が王国がなんて呼ばれているか教えてあげましょうか?
…"暗殺の王国"です。
そして、それを引き受けてるのが僕。
陰の魔法使いさ」
衝撃の事実だった。
学校で習うようなことはまるっきり嘘ということになる。
「なぜ…なぜそんな…国王陛下はそんな嘘を…」
「偽善者、という面もあるけど、
ただ一番は魔法使いをこれからも増やすためですよ。魔法使いは暗殺者に向いている。
でも誰も、殺しを我が子にさせたい人なんていないでしょう」
彼はなぜか、嗤っていた。
好きな人と暮らすというのはこんなにも楽しいものなのか。
世界が色鮮やかに、輝いて見える。
しかし、異変は突然訪れた。
ヨルアはしばしば外に仕事に行き、夜に帰ってくる。行き先は教えてくれない。
その日もそうだったが、いつにも増して帰りが遅かった。
「ヨルアさん、どうしたのでしょう…」
窓を覗く。今夜は新月だから外は真っ暗だった。
「ごく稀に帰らない日がございます。
心配しすぎても奥様の身体の毒になりますよ。
今夜は先にお休みになられた方がよろしいかと」
そう言ってキルケは肩掛けをかけてくれたが、心配な気持ちは薄れない。とても眠れそうになかった。
「もう少しだけ待ちます」
「ではお茶でもお淹れしますね」
キルケの淹れてくれたのは珍しくハーブティーだった。スッとした草花の香りが鼻を抜け、少しリラックスする。
そのお陰か、しばらくすると私はうとうととしてきて堪らずに眠りに落ちてしまった。
何か凄まじい気配を感じてハッと目を覚ます。
キルケが運んでくれたのかベッドの上にいたが、隣には誰もいない。
どのくらい寝てしまったかわからないが、外はまだ暗い。時間は深夜を回っているはずだ。ベッドから出て下に降りた。
この先で見たものに、私は思わず声を失った。
「!!!」
家の玄関には血まみれのヨルアがいた。
ただ呆然と、虚ろな顔で立ち尽くしていた。
「ヨルアさん…!そんな…っ!!大丈夫ですか?」
駆け寄ると、彼はやっと私に気がついたのかいつものように優しい微笑みを浮かべる。
ただその中には殺気が存在し、狂気を感じた。
「大丈夫です、これは僕の血じゃありません」
引きずるような足取りで部屋の中に進むと、どっさりと椅子に座り込む。
「ただ少し疲れた…」
キルケは慣れたように、お湯とタオルを持ってきて彼の顔の汚れを拭こうとしたが、ヨルアがそれを制した。
「リコがやってください、あのときみたいに」
キルケからそれを受け取り、恐る恐るそっと拭く。
なんだかとても怖かった。
「あのときも、あなたは震えていましたね」
何が面白いのか彼はクックと笑う。
「…何があったのです……」
「なに、敵を殺しただけですよ」
「敵って…誰です?」
この国では争いは禁じられている。
国内の如何なる諍いも中立をはさみ話し合いで解決しなくてはならない。
戦争とも無縁の国だ。
だから、本来は敵などいないはずだ。
「誰かは知りません。そこまで教えてもらってない。強いて言うなら国王陛下と誰かの敵だ」
「国王陛下…?」
「あなた方は何も知らないで、のうのうと生きてきたんですよね」
血に汚れた手で私の頬を撫でる。
「どういうことですか?」
「あなたは、"この国は魔法で守られているから戦争の多いこの世界でも平和なのだ"という戯言を本当に信じていたのですか?」
嘲笑うような口調に、疑うこともしたことがなかった私は何も返せなかった。
「そんなわけないじゃないですか…戦争なんてありゃしない」
「ではあなたの敵とは…?」
「我がヨモリギ王国が他国から我が王国がなんて呼ばれているか教えてあげましょうか?
…"暗殺の王国"です。
そして、それを引き受けてるのが僕。
陰の魔法使いさ」
衝撃の事実だった。
学校で習うようなことはまるっきり嘘ということになる。
「なぜ…なぜそんな…国王陛下はそんな嘘を…」
「偽善者、という面もあるけど、
ただ一番は魔法使いをこれからも増やすためですよ。魔法使いは暗殺者に向いている。
でも誰も、殺しを我が子にさせたい人なんていないでしょう」
彼はなぜか、嗤っていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる