悪い魔法使い、その愛妻

三糸タルト

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変化、恋

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「…それで、この婚姻はいつまで続けるの?」

お茶を優雅に飲みながらエデンピトはそんな不思議な質問をしてきた。

「どういう意味だ」

「貴方は随分入れ込んでるみたいだけど、その子は魔力のないただの小娘…そんなの貴方の弱みにしかならないじゃない。
の邪魔になるんじゃないかと思ってね」

「余計なお世話だ…」

意外なことにエデンピトの言葉にヨルアは少し勢いを無くす。
事実も含まれるということなのだろう。
私は気まずくてお茶を啜る。少し渋い。

「飽きるまで抱いたら離縁なさいな。
そのときは私が魔法で奥様を純潔に戻して、うちの弟子と結婚させてあげるわ」

「無礼な!なんたる無礼!!!」

怒鳴ったのはキルケだった。

「なによ、冗談よ。冗談」

エデンピトはふふふと笑ってまたお茶を飲んだ。
それにしてもとんでもないことを言う人だ。
私は怒ったり慌てたりを通り越して唖然としてしまう。

「そんなくだらない冗談を言いにわざわざ家まで?
流石、は暇そうですね」

ユヒアが皮肉っぽくそう言うと初めて彼女は眉をピクリと動かしたが、すぐに元の柔らかな笑顔を作る。

「男の嫉妬は見苦しいわ。私の方が美しいのだから仕方がないでしょう。
でも、冗談とは言え悪い話ではないわよねぇ、奥様?こんな年上で恐ろしい男より、うちのアリアスのほうが良いわよねえ?」

「えっ…そんな…っ…夫は…」

突然とんでもない質問をふっかけられて私は答えに詰まった。

恐ろしくなんかはない。優しい人だ。とてもいい人だ。愛してくれる人だ。

そう思ったが、言葉を紡ぐ頭も口も回らなかった。

そのとき、
ガチャン!と大きな音がして私は畏縮する。
ヨルアが机を拳で叩いたのだ。

「調子に乗るなよ飾り物が」

低く絞り出すような声でそう言った。
机、いや、家全体がミシミシと音を立てて揺れ動く。
アリアスが立ち上がり対抗しようとしたが、エデンピトはそれを制した。

「からかってるだけよ。そんな本気で怒ることないじゃない。
お茶も不味いし、私たちはそろそろお暇するわ」

「…さっさと出ていけ」

立ち上がり、扉まで静々と歩いていたエデンピトだが振り返りヨルアを見上げた。

「それだけ大事な奥様なら、本当に手離すことを考えるべきだわ。
貴方の弱点として変なことに巻き込まれる前にね…。
じゃあ、お幸せにね」

彼女が投げキスをすると、白い光の蝶が何匹も舞い、それに目を眩ませているうちに彼女もアリアスも消えていた。
私は相変わらず呆然としていると、怒り狂った獣のような形相のヨルアが強く抱き締めてきた。

「離すものか…誰かにやるものか…」

そう独り言のように言って腕に力を込める。
ぎちぎちと私の身体を締め上げた。

「ヨ、ヨルアさん…苦しい…!」

私の声は彼の耳に届いていないようだ。

「ご主人様!奥様が…っ!」

それに気がついたキルケがヨルアの腕を引っ張るが、彼はそんなキルケを容赦なく突き飛ばす。

「キルケさんッ!」

「お前もそうなのかキルケ。
いつもいつもリコと親しげにして…今朝だって二人で何をしていた。僕からリコを奪う気なのか」

「そんな…っ!私はただご主人様と奥様をお慕いして、幸せになっていただきたく…」

「違うのヨルアさん!私たちはただ…
あ、そうだ!離して…!!」

そう言ってジタバタとすると彼の力が少し緩まったのでなんとかスルリと抜け出してキッチンに走る。
慌てて釜の扉を開いた。
少しこんがりしているが、焦げてはいなかった。
ふう、と息をついてパイを取り出す。

「私、その、ドレスや指輪のお礼がしたくて…
これを焼くのをキルケさんに手伝ってもらってたんです」

「僕に…?」

ヨルアの怒りは見えるようにみるみるうちにしぼんでいった。
落ち着きを取り戻した彼は顔を青くしてキルケに駆け寄る。

「すまないキルケ…!
僕、あんな酷いこと…」

「大丈夫です、わかっていただけたのなら…」

キルケはにこりと笑うと勢い良く立ち上がる。

「さあっ、折角ですし奥様のパイを焼きたてのうちにいただきましょう。
さっきはわざと渋いお茶を淹れたので、今度はとびきり美味しく淹れて見せます」

「頼むよ」

先ほどとはまるで別人のような、弱々しく脆い微笑みを浮かべる。

私は今日、彼の恐ろしい一面を見た。
しかし何故か私は彼のことをそのとき初めて愛おしいと感じたのだ。
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