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変化、恋
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「んん…」
鉛の入ったように重い身体を持ち上げる。
昨日のことは途中から記憶がない。疲れ果てて途中で失神するように眠ってしまったのだろう。
窓の外を見ると、日の傾きからみて正午過ぎだろう。
私はきっちりとナイトドレスを着ており、隣には誰もいなかった。
まるで昨日のことが夢のようだが、全身の倦怠感はその可能性を否定している。
再び私はベッドにもぐった。薬のせいとは言え、初めてだったと言うのにあんな風に乱れてしまうなんて恥ずかしい。
ヨルアと顔を合わせるのもつらいほどだ。
コンコン、と扉のノックする音がした。
私は寝たふりを続ける。
「奥様?起きましたかー?」
キルケの声だった。
少しほっとして起き上がる。
「…ん、今起きたところです」
「お食事はどうされますか?
よくお休みだったので朝は起こしませんでしたが」
お腹は空いていた。
「いただいてもよろしいですか?」
「もちろんですとも!
それにしてもご主人様今朝は相当にご機嫌で。
昨晩はさぞ良いことがあったのでしょうねえ」
知ってか知らずかそんなことを言いながら、私の着替えを手伝う。
私は思わずうつむいた。
「…ヨルアさんはどちらに?」
「…朝からお出かけです、お忙しい方ですからね。夕方にはお戻りになるかと」
少しの間は顔を合わせなくて済むようでほっとする。その隙に心を整えておこう。
下に降り、朝食とも昼食ともつかない食事をとる。
「お食事のあとはなにをなさいます?
なにかお手伝いすることはありますか?」
「実は私も困っていたのです。
今まではお掃除や夕食の下ごしらえや買い出しをしていたのですが、この家はどこもピカピカですし街からも遠いし…。
むしろなにかお手伝いできることはないですか?」
「とんでもない!雑務は私の仕事です。
奥様にそんなことさせたらご主人様に怒られてしまう」
そう言ってからキルケは頬に手を当ててなにか考える仕草をした。
そして思い付いたかのように口を開く。
「ではこの家を奥様好みに飾り付けてはいかがですか?
この通り、少し殺風景ですからね」
ガランとした部屋を見渡した。
「そんなことをしてヨルアさんの気に触ったりしないでしょうか…?」
「まさか!しないですよう、そんな心の狭いお方じゃありません」
そう自信満々に言う。
そこまで言うならやろうかなと言う気持ちになった。この先ずっと住む家だ、快適に過ごしたい。
「じゃあ、そうしようかしら…」
「貰い物の布やら絨毯やらなんやら色々ありますからね、奥様のお気に召すものがあるかも。そして足りない分は街にお買い物にいきましょう!」
キルケは素早く魔法を使って食事の後片付けをすると、それらの入っている物置の場所を教えてくれた。
「こちらがご主人様の仕事部屋です、危険だから入らないほうがいいですね。物置はこっちですよ」
中は色んなものが雑多に置かれてはいるが、物置とは思えないほど清潔だった。
埃ひとつない。キルケの仕事は完璧のようだ。
それにしても、随分上等な調度が揃っている。
「凄い…」
スベロア絨毯を手に取る。簡略化された植物の柄が見事に編まれており、丈夫だが柔らかく光沢のある絨毯だ。
他国の工芸品で、最高品質のものは王室にすら使われ、高価ゆえに貴族さえも所持している人は少ない。
「魔法使いはこんなものを貰えるのですか…!スベロア絨毯だなんて旦那様でも持ってなかったです」
「まあ…ご主人様は異例でしょうね。
そのことについてご説明するのは、私には少々荷が重くございます。
奥様もいつか、知る日がきますよ」
「そう…ですか」
キルケは含みをもってそう言った。
このことについての深追いはあまりしない方が良さそうだ。私の直感がそう判断した。
「それにしてもこんな素敵な調度品は私は見たことがありません、ぜひ使わせて貰いましょう」
「はい!お手伝いいたします!」
鉛の入ったように重い身体を持ち上げる。
昨日のことは途中から記憶がない。疲れ果てて途中で失神するように眠ってしまったのだろう。
窓の外を見ると、日の傾きからみて正午過ぎだろう。
私はきっちりとナイトドレスを着ており、隣には誰もいなかった。
まるで昨日のことが夢のようだが、全身の倦怠感はその可能性を否定している。
再び私はベッドにもぐった。薬のせいとは言え、初めてだったと言うのにあんな風に乱れてしまうなんて恥ずかしい。
ヨルアと顔を合わせるのもつらいほどだ。
コンコン、と扉のノックする音がした。
私は寝たふりを続ける。
「奥様?起きましたかー?」
キルケの声だった。
少しほっとして起き上がる。
「…ん、今起きたところです」
「お食事はどうされますか?
よくお休みだったので朝は起こしませんでしたが」
お腹は空いていた。
「いただいてもよろしいですか?」
「もちろんですとも!
それにしてもご主人様今朝は相当にご機嫌で。
昨晩はさぞ良いことがあったのでしょうねえ」
知ってか知らずかそんなことを言いながら、私の着替えを手伝う。
私は思わずうつむいた。
「…ヨルアさんはどちらに?」
「…朝からお出かけです、お忙しい方ですからね。夕方にはお戻りになるかと」
少しの間は顔を合わせなくて済むようでほっとする。その隙に心を整えておこう。
下に降り、朝食とも昼食ともつかない食事をとる。
「お食事のあとはなにをなさいます?
なにかお手伝いすることはありますか?」
「実は私も困っていたのです。
今まではお掃除や夕食の下ごしらえや買い出しをしていたのですが、この家はどこもピカピカですし街からも遠いし…。
むしろなにかお手伝いできることはないですか?」
「とんでもない!雑務は私の仕事です。
奥様にそんなことさせたらご主人様に怒られてしまう」
そう言ってからキルケは頬に手を当ててなにか考える仕草をした。
そして思い付いたかのように口を開く。
「ではこの家を奥様好みに飾り付けてはいかがですか?
この通り、少し殺風景ですからね」
ガランとした部屋を見渡した。
「そんなことをしてヨルアさんの気に触ったりしないでしょうか…?」
「まさか!しないですよう、そんな心の狭いお方じゃありません」
そう自信満々に言う。
そこまで言うならやろうかなと言う気持ちになった。この先ずっと住む家だ、快適に過ごしたい。
「じゃあ、そうしようかしら…」
「貰い物の布やら絨毯やらなんやら色々ありますからね、奥様のお気に召すものがあるかも。そして足りない分は街にお買い物にいきましょう!」
キルケは素早く魔法を使って食事の後片付けをすると、それらの入っている物置の場所を教えてくれた。
「こちらがご主人様の仕事部屋です、危険だから入らないほうがいいですね。物置はこっちですよ」
中は色んなものが雑多に置かれてはいるが、物置とは思えないほど清潔だった。
埃ひとつない。キルケの仕事は完璧のようだ。
それにしても、随分上等な調度が揃っている。
「凄い…」
スベロア絨毯を手に取る。簡略化された植物の柄が見事に編まれており、丈夫だが柔らかく光沢のある絨毯だ。
他国の工芸品で、最高品質のものは王室にすら使われ、高価ゆえに貴族さえも所持している人は少ない。
「魔法使いはこんなものを貰えるのですか…!スベロア絨毯だなんて旦那様でも持ってなかったです」
「まあ…ご主人様は異例でしょうね。
そのことについてご説明するのは、私には少々荷が重くございます。
奥様もいつか、知る日がきますよ」
「そう…ですか」
キルケは含みをもってそう言った。
このことについての深追いはあまりしない方が良さそうだ。私の直感がそう判断した。
「それにしてもこんな素敵な調度品は私は見たことがありません、ぜひ使わせて貰いましょう」
「はい!お手伝いいたします!」
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