悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず

文字の大きさ
上 下
6 / 19
求婚、結婚

5

しおりを挟む
「キルケ、食事の準備を頼む」

ヨルア・ルウがそう声をかけると、キルケは元気よく返事をしてキッチンへと消えていった。
そして魔法でも使っているのか、驚くほどすぐに温かい料理が運ばれてきた。

「この子の料理は絶品ですよ。あなたもきっと気に入る」

そう言って注がれたワイングラスを持った。
私も真似をしてグラスを持つ。

「我が妻の到着を祝って」

そう言ってグラスを傾けた。
私はその時初めてワインを飲んだが、口に合わない。
そっとテーブルに戻す。

「あの…ヨルア・ルウ様、
ひとつお伺いしてもよろしいですか?」

「僕たちは夫婦になるんです。そんなに固くならないで、名前だけで呼んでください」

「では、ヨルア…さん?」

「なんですか?リコ」

満足そうにニコニコと笑うヨルアに、ずっと抱いていた疑問を投げかける。

「何故私と結婚をするのですか?
私は魔力も持たない後ろ楯もない孤児の小間使いです。
あなたのような著名な魔法使いには、もっと相応しい娘さんがいくらでもいるように思うのですが…」

「…あなたは覚えていますか?
ずっと昔、僕たちが出会ってた日のことを」

「え、ええ。
大怪我をしているヨルアさんを私は確かに助けました。でも…」

「僕はあの日から決めていたんです。
あなたを妻にするとね」

えぇ…

そのとき、私はまだ9歳だ。
そんな少女の頃からずっと妻にしようと思っていたなんて…

それは、その…

ちょっと、

変態的では…?

私はヨルアの予想外の返答に戸惑って、質問に答えてもらったにも関わらず返事を返せないでいた。
ヨルアはまたにっこりと笑いかけてきた。

「さあ、せっかくのお料理が冷めてしまいます。食べましょう」

きっとその料理は美味しかったのだろうが、私は緊張や強張りでちゃんと味わうことはできなかった。
食事を終えた頃、ヨルアがキルケに何かを耳打ちした。すると、どこからともなく箱を大ぶりな持ってきた。

「贈り物です」

キルケが箱を開けて中を見せてくれた。
中には白いレースのあしらわれた、綺麗なナイトドレスが入っている。

「わあ、きれい…」

「気に入ってもらえてよかった…!
ぜひ今夜着てください。僕は準備をして寝室で待っています」

そう言って、私の手にキスをすると2階へ行ってしまった。

「リコ様、身を清めるお手伝いをします
こちらへ」

キルケに手を引かれてやってきたのは浴室だ。
これはあとから聞いたことだが、キルケには性別がないらしい。

「ああ見えてご主人様にも何度か縁談の話はあったんですよ」

私の背中を丁寧に洗いながら語りだす。

「まあ大抵は貧乏な没落魔法族の娘でしたけど。
それでも、妻はあなただとご主人様は心に決めて断り続けてたのです」

「…10年もひとりの相手を想い続けられるものかしら?
男盛りの殿方が、一度しか会っていないのに…」

私の問いにキルケは少しためらってから、口を開いた。

「召し使いで魔物の私が言うのもナンですが、ご主人様は愛に恵まれずに育ったお方です。
他の人とは、愛の形が異なっているかもしれませんね」

そう言われるとなんだか不安になってくる。

私はナイトドレスに袖を通した。
柔らかくて、さらさらとしていてとても着心地が良い。
きっと上等なドレスなのだろう。

2階の寝室の扉をそっとあける。
ダイニングと同じように、ダブルベッドとサイドテーブルがあるだけの簡素な部屋だ。
魔法使いの家というと、物が多く溢れ返ってるイメージだけど、ここはどうにも違うらしい。
サイドテーブルでなにかごそごそとやっていたヨルアは私の気配に気がついて振り向いた。

「…似合ってますよ、とても綺麗だ」

私の手を取り、抱き寄せると匠にベッドまで誘導した。小柄な私をすっぽりと覆い隠すようにその大きな身体が包む。

「あ、あのっ、ちょっと待ってください…」

心の準備は整っていなかった。
しかし、ヨルアは私のことを寝具に押し倒す。

「僕はもう10年も待ちました」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...