悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず

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求婚、結婚

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ここヨモリギ王国は平和な国だ。

小さい島国ながらも、国民の半数以上が魔法使いという他国にはない特徴がある。
魔法で国を守ることで、戦争の耐えないこの時代でも豊かで平和な生活を確保しているそうだ。

学のない私には外国に関する知識があまりないので、よくわからないが。

私はツキリア家という古い魔法使い一族に仕える孤児の小間使いだった。
幼い頃に母を亡くし、路頭に迷っていたところを旦那様に拾われた。
旦那様はお優しい方で、私に温かい食事と寝床、そして仕事を与えてくださった。

お世話になったツキリア家にずっとお仕えするのが私の使命だと、そう思っていたのだが…
運命の日は突然にやって来た。

それは、よく晴れた心地の良い日のことだ。

「リコ、すまないが至急ロシュの店で茶菓子を買ってきてくれないか?急だが来客があるんだ」

「かしこまりました」

「待て!リコ!私も行く!」

旦那様からおつかいを頼まれた時、誰かが階段をかけ降りてきた。
ご子息のアリアスだ。

「私の客だ。だから茶菓子も私が選ぼう」

17歳になるアリアスは一族の中でも強く優秀な魔法使いだが、旦那様が男手ひとつでやや甘やかして育てたからか子どもっぽさがイマイチ抜けない。

彼の性格上、「召し使いの仕事だから」と断っても聞かなそうだとわかったので、私はその申し出を受け入れることにした。

「では参りましょうか」

私の隣をアリアスは意気揚々と歩きだす。
随分とご機嫌だ。

「アリアス様に来客とは珍しいですね、
どんな方がいらっしゃるのですか?」

そう尋ねるとよく聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせて自慢げな笑みを浮かべる。

「王宮付き魔法使いのユヒア・エデンピト様だ!
数多いる弟子志願者の中から私を選び、本日直々に面会してくださるのだ!」

「まあ、そんな偉い方が!」

ユヒア・エデンピト、"純白の魔法使い"という異名を持つ上級の王宮付き魔法使いだ。
気高く聡明でその扱う魔法は力もさることながら、しなやかで美しいと聞く。

「それじゃあ、最高のお茶菓子とお茶をお出ししなければなりませんね」

「だから私がお供に来たのだ」

甘いものが苦手で菓子の名前なんてよく知らないであろうアリアスはそう言った。
ロシュの店に入ると、ふわりと甘く芳しい香りが鼻いっぱいに広がる。
私はこの匂いが大好きだ。

「リコおはよう!坊っちゃんと一緒とは珍しい。
何が欲しいんだい?」

店主のロシュが明るく出迎える。
恰幅の良いこの店主は少し魔法が使えるらしく、だからかここのお菓子は街で一番美味しい。

「特別なお客様が来るんです。
いちばん上等なものはどれ?」

「そうだなあ、ファッジはどうだい?
他とは違う特別なミルクとナッツを使っているからね。世界一だよ」

ナッツとレーズンの混ぜ込まれたチョコレートファッジが目の前に差し出される。
濃厚な良い香りだ。

「アリアス様、いかがでしょう?」

そう振り向くと、お菓子の入ったガラスケースを覗き首をかしげていたアリアス様は、

「うん、それにしよう」

とだけ言った。
やはりよくわかっていないようだ。

「じゃあこれくださいな」

ファッジを買って店を出る。
アリアスは特になにもしていないが、相変わらずご機嫌なので良しとしよう。

「しかし、私がユヒア様の弟子になったら私も王宮の近くに住むことになる。
そうするとお前も寂しくなるな」

「えっ?ああ、まあそうですね」

私が拾われてからずっと一緒に暮らしてきたのでアリアスとも長い付き合いだ。初めて会った時、彼はまだ3歳だった。
その頃ツキリア家は奥様を亡くしたばかりで、私は寂しかったであろうアリアスの遊び相手として拾われた側面もある。
だから、もしアリアスがお屋敷から離れるようなことがあれば寂しいのかもしれない。

突然の思い付きやわがままに振り回されなくて済むというメリットもあるが。

「安心しろ!ちゃんと手紙を書いてやるからな」

そう言って頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。

時々ツッコミどころはあるが、明るくて自信満々で、どこか憎めない坊っちゃんだ。

しかし、彼のこの性格が原因で私の運命は今日、大きく動くのだ。
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