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夫婦のはじまり
16歳と30歳 ①
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ついにこの日がやってきた。
シュヤンとマリアの婚礼の儀式の日だ。
この日を境にマリアは家から少し離れた田舎の屋敷にシュヤンと住むことになる。
マリアは不安でいっぱいだった。
シュヤンは悪い人ではないが、だいぶヤバい人だ。
ひとつ屋根の下で暮らすとなると…
大丈夫だろうか。
オリビアに手伝って貰いながら花嫁衣装に着替える。
「マリア様、とてもお似合いですよ」
「ありがとう…」
「不安なのですか?」
「ええ…まあ」
オリビアは浮かない顔のマリアを心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫。シュヤン様はとても優しいお方です。きっと幸せにしてくれますよ」
そう言って微笑むが、彼女はシュヤンの表の顔しか知らないのだ。
12歳まではとても優しい憧れのお兄さんだったが、この数年でだいぶ印象が変わった。
(あの人変態なのだわ…)
人狼だからと言って蔑み虐げられるよりはマシなのは確かだが…。
そんなことを思っていると、もう儀式の始まる時間だ。
緊張と不安が混じりあって少し気分が悪い。
オリビアが先に式場に向かい、ひとり小部屋で待機しているとコンコンというノックをしてからシュヤンが入ってきた。
普段以上にきっちりと整え後ろに撫で付けられた黒髪に、完璧に仕立て上げられた黒いタキシード。純白のレースのドレスに銀髪のマリアとは何もかも対照的だ。
「行きましょうか」
いつもの煙に巻くためのへらへらした笑いではなく、初めて見るような心からの穏やかな微笑みを浮かべながらマリアの手を取る。
変態でマリアの不安の元凶である人物なはずなのに、何故だかマリアの緊張はじんわりとほどけ、ただ彼に従った。
不覚にも(?)少し、カッコいいなと思った。
「とても綺麗だ」
歩きながらもマリアを見つめる彼は優しい声でそう言う。
式場の扉が開かれる前、マリアの手をぎゅっと強く握り、
「大丈夫、僕に全部任せたらいい」
と言った。
扉を開くと、タオニ家の親族を中心に大勢の人がいて頭が真っ白になった。
だから式のことはあまり覚えていない。
目の前で司祭様がなんか話してて、指輪をつけられて、紙に名前を書いて、ブドウ酒を口に含んだ。
そんな断片的な記憶しかない。
夢のような催眠状態のような変なふわふわした感じだ。
そして長かったのか短かったのかもよくわからない式が終わり、今日から住む屋敷で花嫁衣装から着替えたところでやっと我に返った。
「マリア様…じゃない、奥様大丈夫ですか?」
オリビアがそう尋ねる。
マリアは無理を言って屋敷の使用人としてオリビアを雇ったのだ。
「うん、なんだか今夢から覚めたみたいな気持ちです」
「とてもよく頑張りましたね」
オリビアがよしよしと頭を撫でた。
甘えるようにマリアに抱きつく。少しは安心した。
「本来ならここで初夜について女中頭がご説明するのが伝統ですが、生憎私には経験がありません」
初夜という言葉に先ほどの安心は一瞬で砕け散る。
「でも大丈夫です、旦那様は優しい方ですもの」
お門違いなことを承知な上で、なにも知らないオリビアを憎らしく思った。
シュヤンとマリアの婚礼の儀式の日だ。
この日を境にマリアは家から少し離れた田舎の屋敷にシュヤンと住むことになる。
マリアは不安でいっぱいだった。
シュヤンは悪い人ではないが、だいぶヤバい人だ。
ひとつ屋根の下で暮らすとなると…
大丈夫だろうか。
オリビアに手伝って貰いながら花嫁衣装に着替える。
「マリア様、とてもお似合いですよ」
「ありがとう…」
「不安なのですか?」
「ええ…まあ」
オリビアは浮かない顔のマリアを心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫。シュヤン様はとても優しいお方です。きっと幸せにしてくれますよ」
そう言って微笑むが、彼女はシュヤンの表の顔しか知らないのだ。
12歳まではとても優しい憧れのお兄さんだったが、この数年でだいぶ印象が変わった。
(あの人変態なのだわ…)
人狼だからと言って蔑み虐げられるよりはマシなのは確かだが…。
そんなことを思っていると、もう儀式の始まる時間だ。
緊張と不安が混じりあって少し気分が悪い。
オリビアが先に式場に向かい、ひとり小部屋で待機しているとコンコンというノックをしてからシュヤンが入ってきた。
普段以上にきっちりと整え後ろに撫で付けられた黒髪に、完璧に仕立て上げられた黒いタキシード。純白のレースのドレスに銀髪のマリアとは何もかも対照的だ。
「行きましょうか」
いつもの煙に巻くためのへらへらした笑いではなく、初めて見るような心からの穏やかな微笑みを浮かべながらマリアの手を取る。
変態でマリアの不安の元凶である人物なはずなのに、何故だかマリアの緊張はじんわりとほどけ、ただ彼に従った。
不覚にも(?)少し、カッコいいなと思った。
「とても綺麗だ」
歩きながらもマリアを見つめる彼は優しい声でそう言う。
式場の扉が開かれる前、マリアの手をぎゅっと強く握り、
「大丈夫、僕に全部任せたらいい」
と言った。
扉を開くと、タオニ家の親族を中心に大勢の人がいて頭が真っ白になった。
だから式のことはあまり覚えていない。
目の前で司祭様がなんか話してて、指輪をつけられて、紙に名前を書いて、ブドウ酒を口に含んだ。
そんな断片的な記憶しかない。
夢のような催眠状態のような変なふわふわした感じだ。
そして長かったのか短かったのかもよくわからない式が終わり、今日から住む屋敷で花嫁衣装から着替えたところでやっと我に返った。
「マリア様…じゃない、奥様大丈夫ですか?」
オリビアがそう尋ねる。
マリアは無理を言って屋敷の使用人としてオリビアを雇ったのだ。
「うん、なんだか今夢から覚めたみたいな気持ちです」
「とてもよく頑張りましたね」
オリビアがよしよしと頭を撫でた。
甘えるようにマリアに抱きつく。少しは安心した。
「本来ならここで初夜について女中頭がご説明するのが伝統ですが、生憎私には経験がありません」
初夜という言葉に先ほどの安心は一瞬で砕け散る。
「でも大丈夫です、旦那様は優しい方ですもの」
お門違いなことを承知な上で、なにも知らないオリビアを憎らしく思った。
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