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はじまり
9歳と23歳 と7歳 ①
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「頼むシュヤン」
「嫌です」
「お前しかいないんだ」
「嫌です。使用人に頼んでください」
シュヤンの薄い肩をぐっと掴んで圧をかけてくる筋肉だるまな兄…フェイを冷たくあしらう。
「あのやんちゃ小僧は使用人の手におえん。あの子もお前には多少聞き分け良いだろう」
シュヤンは今、甥子のおもりを押し付けられそうになっている。
「嫌です。今日はオルドルフの家に行く日なんです」
この頃にはシュヤンは動植物の研究をしながら薬の開発などの仕事をしていた。これが中々成功し、シュヤンの存在は見直されつつあった。
収入や財力は兄とそう差はない。しかしその分休日は貴重だ。
甥の面倒など見たくない、マリアと過ごしたい。
「まあそう言わずに。俺もたまには嫁と二人きりのデートをして機嫌を取らなきゃいかんのだ。わかるだろ?
それにほら、うちの小僧はお前の許嫁と年が近い。良い遊び相手になるだろう」
「余計に嫌です」
シュヤンは全力で拒否をしていたが、結局フェイは無理やり息子を置いていった。
兄のこう言う強引なところが特に嫌いだ。
そして7歳になるこの甥子、アンバーは凄まじい悪ガキだ。
「シュヤン覚悟!」
そう叫びながら室内で棒切れを振り回す。
シュヤンはそれを適当にかわしながら考える。
極力マリアとアンバーを出会わせたくない。何か間違いがあるといけないし、マリアが怪我させられたら大変だ。でも自分もマリアに会いたいし…かと言って置いていくわけにもいかず…。
結局悩みに悩んだ末、シュヤンは仕方なくアンバーを連れてオルドルフ家を訪れた。
「あらシュヤン君、その子は?」
「甥子のアンバーです。兄におもりを押し付けられて連れてきてしまいました、すみません」
アンバーは案外大人には人見知りする内弁慶で、シュヤンの陰に隠れている。
「いいのよ、マリアには近い年齢のお友達がいないから嬉しいわ」
マリアは学校には通っておらず、メグの親戚のオリビアという女性に読み書きや勉強を習っていた。
「シュヤンさんいらっしゃい!」
シュヤンの声を聞きつけてマリアが自分の部屋から飛び出してきた。この頃のマリアはシュヤンに大変よく懐いている。
「ねえ森にピクニックに行きませんか?今日も来ると思ってオリビアとサンドイッチを作ったの」
「マリアさんのサンドイッチを食べられるなんて嬉しいな」
今日来ない選択をしなくてよかったとシュヤンは思うが、こうなってくるといよいよアンバーが邪魔者だ。
そんな思いとは裏腹に、マリアを見ると子供だから安心したのかアンバーが前に出てきた。
「お前、人狼なのか?」
(このクソガキ…)
シュヤンは出会って早々失礼な質問をするアンバーに心の中で悪態をつく。
「すみませんマリアさん。コイツ礼儀がなってなくて…」
「気にしません。初めまして、私は人狼のマリア。あなたは?」
マリアはまだ小さいアンバーのために少し身を屈めて優しく微笑んだ。
なんて良い子に育っているんだろう。
「俺はアンバー。なあ人狼なら狼になれるのか?やってみろよ!」
シュヤンはアンバーの頭を手の平でぐっと掴み「いい加減にしろ」と低い声で圧をかけた。大声で怒鳴られ慣れている彼には案外これが効く。
「ごめんなさい、私血が薄いから完璧な狼にはなれないの。…むむむ…」
そう言ったマリアは目をぎゅっとつぶって力をこめる。すると、頭からピョコンと狼の耳が飛び出した。
「私にはこれが精一杯」
「すげー!!」
「…」
この姿を見るのはシュヤンも初めてだった。
(なにこれ可愛すぎる…)
「嫌です」
「お前しかいないんだ」
「嫌です。使用人に頼んでください」
シュヤンの薄い肩をぐっと掴んで圧をかけてくる筋肉だるまな兄…フェイを冷たくあしらう。
「あのやんちゃ小僧は使用人の手におえん。あの子もお前には多少聞き分け良いだろう」
シュヤンは今、甥子のおもりを押し付けられそうになっている。
「嫌です。今日はオルドルフの家に行く日なんです」
この頃にはシュヤンは動植物の研究をしながら薬の開発などの仕事をしていた。これが中々成功し、シュヤンの存在は見直されつつあった。
収入や財力は兄とそう差はない。しかしその分休日は貴重だ。
甥の面倒など見たくない、マリアと過ごしたい。
「まあそう言わずに。俺もたまには嫁と二人きりのデートをして機嫌を取らなきゃいかんのだ。わかるだろ?
それにほら、うちの小僧はお前の許嫁と年が近い。良い遊び相手になるだろう」
「余計に嫌です」
シュヤンは全力で拒否をしていたが、結局フェイは無理やり息子を置いていった。
兄のこう言う強引なところが特に嫌いだ。
そして7歳になるこの甥子、アンバーは凄まじい悪ガキだ。
「シュヤン覚悟!」
そう叫びながら室内で棒切れを振り回す。
シュヤンはそれを適当にかわしながら考える。
極力マリアとアンバーを出会わせたくない。何か間違いがあるといけないし、マリアが怪我させられたら大変だ。でも自分もマリアに会いたいし…かと言って置いていくわけにもいかず…。
結局悩みに悩んだ末、シュヤンは仕方なくアンバーを連れてオルドルフ家を訪れた。
「あらシュヤン君、その子は?」
「甥子のアンバーです。兄におもりを押し付けられて連れてきてしまいました、すみません」
アンバーは案外大人には人見知りする内弁慶で、シュヤンの陰に隠れている。
「いいのよ、マリアには近い年齢のお友達がいないから嬉しいわ」
マリアは学校には通っておらず、メグの親戚のオリビアという女性に読み書きや勉強を習っていた。
「シュヤンさんいらっしゃい!」
シュヤンの声を聞きつけてマリアが自分の部屋から飛び出してきた。この頃のマリアはシュヤンに大変よく懐いている。
「ねえ森にピクニックに行きませんか?今日も来ると思ってオリビアとサンドイッチを作ったの」
「マリアさんのサンドイッチを食べられるなんて嬉しいな」
今日来ない選択をしなくてよかったとシュヤンは思うが、こうなってくるといよいよアンバーが邪魔者だ。
そんな思いとは裏腹に、マリアを見ると子供だから安心したのかアンバーが前に出てきた。
「お前、人狼なのか?」
(このクソガキ…)
シュヤンは出会って早々失礼な質問をするアンバーに心の中で悪態をつく。
「すみませんマリアさん。コイツ礼儀がなってなくて…」
「気にしません。初めまして、私は人狼のマリア。あなたは?」
マリアはまだ小さいアンバーのために少し身を屈めて優しく微笑んだ。
なんて良い子に育っているんだろう。
「俺はアンバー。なあ人狼なら狼になれるのか?やってみろよ!」
シュヤンはアンバーの頭を手の平でぐっと掴み「いい加減にしろ」と低い声で圧をかけた。大声で怒鳴られ慣れている彼には案外これが効く。
「ごめんなさい、私血が薄いから完璧な狼にはなれないの。…むむむ…」
そう言ったマリアは目をぎゅっとつぶって力をこめる。すると、頭からピョコンと狼の耳が飛び出した。
「私にはこれが精一杯」
「すげー!!」
「…」
この姿を見るのはシュヤンも初めてだった。
(なにこれ可愛すぎる…)
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