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肆章 氷雪の国・スノーメイル

三十六話、嫌な感じがする

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「…可笑しい」


「どうされました?」


「こんなに雪道を歩いているのにセルシウスの姿が一人も見当たらない。それに____」


体に纏わりつく様な嫌な雰囲気がする。さっきまでは何とも無かったのに…何だろう、雪崩の前兆…?でも、それならセルシウスは活発に動いている筈だし…


「雪崩等の自然災害は予測されておりませんが…」


「…」


「念の為、早めに切り上げて宿に戻りましょう。こう言う時は一度、皆様に情報を共有してから作戦を立てて…」


駄目な気がする。今進まないと…全てが手遅れになる様な気がしてならない。でも、兄さん達にも知らせたほうが_____


「…ッ!?」


「フウカ様!?どうしたんですか?」


「頭が…ッッ」


急に頭をキーンッと言う鋭い痛みと、ノイズの様な耳障りな音が意識を支配した。何かが訴えてくる様な、そんな激しい痛みと音。それに耐えかねた私の体はいとも簡単に地面に倒れる。


「フウカ様!」


「…せる、しうす…?」


セルシウスが私の側を落ち着いた様子で飛んでいる。それを見ていると、心做しが頭痛とノイズが治る気がした。


「…着いて行けば良いの?」


「いけません!宿に…!」


「お願いマキア。宿に戻って兄さん達に伝えて。何とか出来るかもしれないけど、終わったら私は動けないから後はよろしくって」


セルシウスが忙しなく私にこっちにおいでと声を掛けて来る。きっと、竜が危ないんだろう。何と無くだけど直感で分かる。


「…出来ません」


「お願い。竜と国を助けたいの」


「…ご無事でいて下さい。じゃないと私は…私を許せません」


マキアの真っ直ぐな目が私を射抜いた。私もその目を真っ直ぐ見据えて頷き返す。私だって無策な訳じゃない。怪我をする予定は無いよ。


「すぐに戻って来ます」


「お願い。場所はセルシウスの気配を兄さんに辿ってもらって。後は多分…レオンもどうにか出来る筈」


「分かりました。それでは」


私はセルシウスの方に駆け出し、マキアは宿の方へと飛んで行った。こう話していた間にも頭痛は強くなって、嫌な感じも強くなっている。体に鳥肌が立って、嫌な物があると全てが拒絶を表している。


「大丈夫。案内お願い」


頭痛や嫌な気配を全て振り切って、セルシウスの案内通りに進む。足場が悪いけど、セルシウス達が助けてくれてるからか、普通の地面と同じ様に走る事が出来てる。


「セルシウス!兄さんが来たら、サポートしてあげて!」


その声に応える様に、セルシウス達が手を振ってくれた。この山道にいる子達がどうにかしてくれるなら安心だね。さあ、私は私に出来る事をしに行こうか。
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