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肆章 氷雪の国・スノーメイル

二十八話、これは現実か?

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「んあ…?寝てたのか…」


風華に弱音を吐露してから、体感だと数分。でも実際時計を見てみると、あれからもう数時間経っていた。ベッドサイドに居た筈の風華の姿が無くなってる。飯か?


「て言うか…静かすぎねえか?」


俺が居なくて静かなのは分かるが、レオンやせんせーが居てこんなに静まりかえってるなんて有り得るか?依頼…いや、今は夜中だ。そんな可能性は無い。せんせーは俺達を夜中に外に出す様な大人じゃねえからな。


「…おい!風華!」


ベッドからリビングに向かって声を張り上げても返事が無い。足は風華の魔術で治りかけてはいるけど、無理に動かしたらまた動かなくなるらしい。


「レオン!せんせー!マキア!」


どんなに名前を呼んでも、宿の中はシン…と静まっている。ヴィクトールがまだ寝てるから、風華もまだ宿に居る筈だ。なのに…何で…!


「クソッ…歩けないとか言ってる場合じゃねえな」


剣を鞘に仕舞ったまま、杖にしてリビングへと向かう。嫌な胸騒ぎがするんだ。


「風華?居るか?」


灯りの漏れているリビングへと顔を覗かせた。その瞬間、俺の体は床に転がり落ちた。支えが無くなった剣がカランと倒れたのも気付かない程に、目の前から目を離せない。


「は…?」


やっと喉から絞り出したのはそんな間抜けな声だった。声が震えて、体もそのまま身動きが取れない。


「ふ…か…?」


「これで全部か?」


「嗚呼。もう一匹は見つからねえから、また次の夜だ。そろそろ夜が明ける」


目の前には見慣れたイーブルギルドのロープ。そしてボロボロに痛め付けられた四人の姿だった。


「取り敢えず此奴等は闇市で、こっちは一回本部に連れ帰りだ。此奴は双子だから、どっちも揃わねえと意味が無え」


「…ッ!?」


気絶してる風華の髪を掴み上げて、乱暴に放り投げた。少し先に居る俺には目もくれない。見えてないってのか?


「しっかし、このパーティは宝の山だな。御使四人に有名な魔導人形、それに高名な魔術師と来た。しかも御使には双子と獣人…儀式か愛玩か…どっちにしろ地獄だな」


(動け…動けよ俺の体…風華達を助けねえとだろ!何で俺はこう言う時何も出来ない!!俺は何の為に強くなるって言ってんだよ!!)


必死に体を動かそうと藻搔くが、足が鉛の様になって動かない。段々と視界が狭くなる中で視たのは、薄汚い奴等のせせら嗤う表情だった。


「さ…にいさ…」


…やめてくれ…今の俺に風華の声を聞かせないでくれよ…


「兄さん…!」


俺は…結局彼奴を…


「兄さんご飯!!」


え…?
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