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肆章 氷雪の国・スノーメイル

二十六話、肝が冷えた…

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「兄さん!ヴィクトールさん!しっかり意識持って!」


「フウカ、どうする?戻るか!?」


「…」


どうしよう…今から超特急で宿に戻っても、間に合わないかもしれない…それに宿に戻ってからお風呂を沸かしたり、兄さん達を着替えさせたりしないと…ううん、時間が無い。


「此処でどうにかします。アルさんは二人の顔色や状態を確認して下さい!」


「此処でか!?確かに時間は掛かるが戻った方が…」


「間に合わない可能性が高いんです」


私の必死な声で状況を察したのか、アルさんはそれ以上何も言わずに、兄さんとヴィクトールさんの側に付いてくれた。私は二人に意識を向けたまま魔力を込める。


「先ずは風魔術と炎魔術を合わせて二人の服を乾かす…そして魔法障壁を張って温かい風が逃げない様に塞いで…お湯を作って…」


「お前、そんな一気にやったら!」


「アルさんは魔法結晶でマキア達に連絡をお願いします。二人なら直ぐに私達の場所が分かる筈なので」


今は集中しててアルさんの顔を見る事は出来ないけど、声色からして凄く心配そうな顔をしてくれているのは分かった。御免なさい、身勝手で…でも、最善はこれしか思い浮かばない。


「一気に体を温めるとヒートショックを起こすから、ぬるま湯からゆっくり…徐々に炎魔術の勢いを上げて強く…」


一気に魔力を使って複数の魔術を同時使用してるから、体が負荷に耐えられなくて自分の額に冷や汗が流れるのが分かった。でも、魔力暴走は起こしてないからきっと大丈夫…


「洞窟内の気温は少しずつ上がってる…服も…うん、乾いてる」


「フウカ、マキアとレオンはすぐに来てくれるらしい…ってお前ちょっと待て!」


「ぇ…」


アルさんに思い切り腕を引っ張られて、杖から手が離れた。でも、力が入らなくてそのまま座り込んでしまう。やらかしたかもしれない。


「お前ヴィクトールとライハより顔色悪くなってんぞ!一回休め。此奴等だって、さっきより幾分も顔色が良い」


「…まだ駄目です。回復魔術を掛けないと…」


「そんな事言ってお前が倒れたら元も子もないんだぞ!回復魔術なら今直ぐじゃなくても大丈夫だ。お前は休め。目覚めた時にフウカがひっでえ顔色で倒れてたら、此奴等も失神するからよ」


アルさんに肩を掴まれて諭される。焦ってた心が段々と落ち着くのが分かった。


「…すみません、落ち着きました」


「おう、取り敢えず此奴等をどうするか…」


「天使!!!」


「…此奴は…」


意味不明な事を叫んで起きた兄さんを見て、呆れてより安心が勝つ日が来るとは思わなかったな…あの時、倒れ込んだ兄さんを見て私も気が動転しちゃって…起きてくれて、良かった…ッ。
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