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肆章 氷雪の国・スノーメイル

十七話、子供、か

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「…」


「どうした、フウカ。先程から黙っているが、調子でも悪いか?」


「いえ、そう言う訳ではないんですけど」


私の魔力探知で、春告の竜と思われる魔力反応を追って、かなりの場所まで来たけど…本当に不思議と言うか、不自然と言うか…


「…ヴィクトールさん。通常、精霊や神聖視されている魔獣の魔力は衰えないものなんです。何故なら彼等は長い者で数千年の時を生きているから」


「それがどうしたんだ」


「私達は此処まで春告の竜の魔力を追ってきました。そして気付いた事があります」


私の言葉の続きをヴィクトールさんが待っている。私は頭の中で言葉を整理すると、再び口を開いた。


「春告の竜の魔力がとても不安定なんです」


「不安定…?魔力は確かに揺らぐが、それでも一瞬の筈だ。それが色濃く残っているのか?」


「一番最初に行った場所はとても強い魔力が残っていました。でも…此処には微量の魔力しか残っていません。目撃情報の日付から見ても、先程の所より此方の方が新しいのにも関わらずです」


この仮説が正しければ、春告の竜の魔力が衰えている事になる。そうなれば、雪を溶かして春を呼ぶ魔力が残っていないんだ。それだと、春告の竜を無事見つける事が出来ても春は来ないから災厄を招いてしまう。


「…神聖視されている魔獣の魔力が衰えるのは寿命か、その信仰が薄くなり存在が消えつつある時だ。フウカはどう捉える」


「後者です。一度目の災厄が起こったのは六百年前。その時に先代の春告の竜が寿命を迎えた為に春が来なかったと考えると、今の春告の竜は六百年しか生きていない事になります。竜種の寿命は千年以上、つまりまだ寿命には早すぎるんです」


「確かにそうか…急激に信仰が減り、その分魔力の供給が少なくなった、と」


急激に少なくなった魔力に耐えられなくて、春告の竜が弱っている可能性が高いと私は考えてる。それに悪い噂がもっと広まってしまえば、春告の竜は神竜から邪竜に堕ちてしまう…早く何とかしないと…


「…此処も吹雪いて来たか。フウカ、一度宿へ帰るぞ。アレキサンダー達もそろそろ帰っている筈だ」


「…分かりました」


雪が酷くなる中、ヴィクトールさんの背中を追って行く。兄さん達の方には、何か進展があったのかな…早く春告の竜を助けられれば良いんだけど…


「フウカ、あまり思い詰めるな。確かに今はお前を頼るしかないが、それで潰れてしまえば終わりだぞ」


「はい、気を付けます」


「俺やアレキサンダーを頼れ。お前はまだ子供なんだ」


まだ…子供…集落に居た頃はそんな言葉を掛けて貰った事がなくて、師匠に会って初めて言われた言葉。母様も多分言ってくれていたんだろうけど…あまり覚えてない。でも、温かくなるから、嬉しいな…なんて。
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