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肆章 氷雪の国・スノーメイル

十一話、ヴィクトールさんも大概だと思う

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「体調はどうだ」


「大丈夫です。まだ少し魔力がグルグルしていますけど」


「それは大丈夫と言わん。もう少し休んでおくと良い」


ヴィクトールさんがベッドの傍のテーブルに二つのマグカップを置いた。カップからは湯気が立っていて、温かいのがわかる。


「これか?ホットミルクだ。メープルシロップを入れてある」


「メープルシロップ…」


「蜂蜜が主流なのは分かっているが、俺はどうにも此れが好きでな」


一口飲んでみると、メープルシロップ特有の味が広がる。蜂蜜とはまた違うけど、これも凄く美味しい。


「フウカ、お前と鍛錬をするに当たって一つ条件が出来た」


「…?条件ですか?」


「嗚呼。ライハと会うな」


一瞬意味が理解出来なかった。言われた条件、それは兄さんと会うな。言葉は分かる、意味も分かる。けれど理由が分からない。


「あの、理由は」


「彼奴は今後、お前が鍛錬すると止めに来る可能性がある。何よりお前が強くなる事を望んでいない。自分が守ると言う自己満足で動いているからな」


「…」


そうだよね、兄さんは口癖みたいに私を守る私を守るって言ってる。母様が空に還ってから、それはより頻度を増して、しかも最近は危ない目に遭う事が多いから余計に拍車を掛けているんだと思う。


「お前もライハに遠慮して鍛錬に身が入らなくなると思ってな。無理矢理ではあるが、接近禁止令を出す事にした」


「でもそれって大変なんじゃ…」


「嗚呼、だから今日にでもアレキサンダーに相談するつもりだ。フウカの意思もライハの意思も強いのを知っているだからこそ強硬手段に出た」


ヴィクトールさんは身勝手にこんな事を言う人じゃないから、接近禁止令にも意味があるのは分かってる。でも…一番長く兄さんと離れてた時間はリリーフィエに居た頃にお互いヴィクトールさんとアレキサンダーさんに鍛錬をお願いしてたあの時間だけ…一日単位で離れた事が実は私達は無い。


「良い訓練になるんじゃ無いか?この先旅を終えてギルドなりに所属するのであれば、互いに違う任務に入り、数日…長ければ数年会えないなんてザラにある。今の内に慣れておくと、その時に対応が出来る」


「…分かりました。ヴィクトールさん、引き続きご指導の程、よろしくお願いします」


「嗚呼、良く決断した。俺はフウカを尊重しよう。幾らライハが煩く騒いでも絶対にお前の邪魔はさせない。フウカの望む通りにお前を強くする」


兄さんには申し訳ない…けど、私だって守る側に立ちたい。


「全く、ライハは過保護で困るな。さっきも噛み付いてきた」


「あはは…」


そうは言ってるけど…割とヴィクトールさんも私に対して普通よりかなり甘い気がするのは気の所為…かな。
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