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参章 芸術の国・アーティオン

三十二話、兄さんはやっぱり凄いね

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「…うん…大丈夫だよ…ありがとう、シルフ、ウンディーネ」


私が悩んでいる事を心配したシルフとウンディーネが慰めてくれてる。大丈夫?大丈夫?って心配そうに尋ねてきてるんだよ。


「氷の精霊…セルシウスとも会いたいね…これ以上二人に負担をかける訳にはいかないから」


私が練習してる氷の神力は、本来氷の精霊であるセルシウスに力を貸して貰わないと使えないんだけど、今はウンディーネの水をシルフの風で凍らせる事で使ってるから、二人にも普通より負担が掛かってる。


「風華、入って良いか?」


「…うん、いいよ」


ノックの後に枕を持った兄さんがズカズカと部屋に入って来た。


「どうしたの?」


「んー?マキアから風華が悩んでたって聞いてな!久し振りに一緒に夜更かししようぜ!」


「…そっか」


ベッドのスペースを空けると、すぐにそのスペースに兄さんが横になった。


「こうするのも久し振りだろ?前はさ、俺達が寝れない時はししょーの部屋に突撃したり」


「あったね。兄さんが思い切り師匠のお腹に乗って怒らせたやつ」


「後悔はない」


兄さんは横になったまま他愛無い話を私に振ってくれる。私もそれにただ答えるだけって言う時間が続いた。


「明日の飯は…炒飯かな」


「兄さんちゃんと作れるのに、何であんまりやらないの?」


「風華とマキアの飯が美味すぎるから」


真顔で即答してくる兄さんには、本当に敵わないと思ってる。今だって私が思い悩んでいるからこうやって下らなくて、優しい話をしてくれてる。守られてばっかりだな…私…


「…なあ風華」


「何?」


「これからの事、また今度ゆっくり話し合いたいんだけどさ、一個言いたい事と言うか…したい事があって」


ずっと天井を見つめていた兄さんが私の方へと寝返りを打って、目を合わせた。


「今、せんせー達の居場所をマキアに探して貰ってる。もし見つかったら、せんせー達の所に行かないか?今回の件、もしかしたら身の危険があるかもしれない。頼れる人を作っておきたいんだ」


「…ヴィクトールさん達の所…」


ヴィクトールさんは、アレキサンダーさんと一緒に依頼を受けて各地に行ってるらしいけど…確かに…あの人達の近くなら安心は出来ると思う。師匠が居れば一番良いんだろうけど…


「…うん、私も行きたい」


「そっか!なら、明日此処のギルドの奴等とも相談して決めようぜ。俺達のやる事」


「そうだね。明日はキャシーさんとシュピーゲルさんも来るみたいだから」


兄さんが笑うと、私も自然に口角が上がる。私が寝返りを打って、仰向けになって目を閉じると、兄さんが優しく頭を撫でてくれた。あったかくて、安心する手…これなら眠れそう…
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