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弐章 蒸気の国・エンジーム

二十一話、兄さんには…うん、内緒かな…

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「ごめんねフウカちゃん。今日もライハ君と調査だったんでしょ?」


「うん。でも、マキアも着いて行ってくれてるし、何より兄さんなら私が居なくても実力的には問題無いから。だったら私は自分が出来る事をやった方が効率も良いし」


「お互い信頼してるんだね。じゃあ早速だけどかなり進展があったんだ。それに良い知らせだけじゃない」


…謎生物達の新情報…良い知らせじゃなくても何かが分かるかもしれない。これは、今私しか出来ない事かもしれないから、少しでも多く情報が知りたい。


「分かった。お願いジャック」


「…うん。まず、前に回収してもらった石とあのガルムもどき。ボク達はフェイクガルムって呼んでる。その二つの成分が全て一致した。つまりは同じものって事」


「でもあのフェイクガルムは見た事ない形をしていたし、倒せなかったよ。フィアスボアは倒してからこの石が出てきたし…」


フェイクガルムは叩いても叩いても粒子になって倒せなかったけど、フィアスボアは図体が大きかっただけで問題なく攻撃を入れられた。


「そう。其処なんだ。だからボク達は一つの仮説を立てた。まず前提として、この石には、何個かの強力な呪いが掛かっていた」


「呪いが…」


「その中に狂化。そして不死身の呪いが大きく出てたんだ」


狂化に不死身…確かにそれはあのフェイクガルムの特徴と大きく似てる…


「ボク達が立てた仮説はこうだよ。何ならの理由であの石を取り込んだ魔獣が、時間をかけてあの石に乗っ取られて姿形を変えて凶暴化したんじゃないか。フウカちゃんはどう思う?」


「ステンリアにフェイクガルムが居た理由が分からない。彼奴の特性的にステンリア…しかもあんな長閑で平和な田舎の森に生息出来る筈がないの。だから…」


「故意的に誰かが…って事かい?」


確証は無いけど。突然変異したかもしれないけど、それでもあの場所のフェイクガルムがあんなに強いわけが無い。


「何より、そんな呪いの石があるならかなり話題にもなってる筈だし、収集対象だよ。それでもセフィロンも知らなかったし、全然話が上がって無い。不自然だよ」


「確かにね。突然現れたにしても謎が多すぎるんだ。呪いが強すぎて即席で作った封呪カプセルが壊れたし…それにボク達は呪いは専門外なのもあって、分かったのが特に強かった二つだけなんだ」


「成程ね。でも、かなり進んだと思う。ゼロより全然」


…それより、さっきから何かが引っ掛かる…不死身に…凶暴化…凶暴化…?


「…ねえジャック」


「何だい?」


「その石って一体の魔獣が取り込んで其処から周りに広がったりする?」


これは外れてて欲しい仮説。もし合ってたら…かなり不味そう。


「…うん。呪いが強すぎて多少なりとも影響が出る筈だよ。どうして?」


「今回エンジームで起きてる、魔獣の凶暴化…それがその石の所為だとしたら?それにあの石は回収したのに、まだ凶暴化が止まってない」


「…!元凶がまだ居るって事になる…」


…それに、もしあのガルムが完全に石に侵された姿だとしたら?あのフィアスボアは…


「あのフィアスボアは攻撃が通じた。だったらまだ完全に石の呪いが回ってないと思う。あのフェイクガルムが完全体だとしたら…その呪いに掛かった奴が仮に…群れの…フィアスボア全体のボスだとしたら…」


「…倒せない上に広がっていく…待ってて、すぐに呪いの効力を調べるよ。広がるのか留まるのか…少し待ってて!」


すぐにジャックからの通信が切れて、部屋から音が消えて、私の息の音だけ聞こえてる…どうか…この予想が外れていますように…
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