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壱章 始まりの街・ステンリア

三十四話、さようなら、ステンリア。またいつか

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「忘れ物はない?寝てる皆には後からボクが説明しておくよ」


「おう。ありがとな。マキア、ちゃんと街を見とけよ。暫くはお別れだからな」


「そうですね。街の情景は私のメモリーに記録されていますが、生まれた街を今一度…メモリーに上書きする気持ちで見つめ直します」


明け方で空が白み始めた時間帯に私達は此処を発つ。大勢に見送られるとまた泣いちゃうからね。だから今お見送りしてくれてるのはジャック一人。私達の隣にはマキアさんがいる。


「はいこれ。フランシスコさんが渡してくれってさっき届けてくれたよ。昨日の送別会の途中に帰ってから仕込んだパンを朝一で焼いて持ってきてくれたんだ。二人の好きなジャムも入ってるから、道中で食べてって」


「そう…御礼…言いそびれちゃったな」


「またおいでよ。栗鼠の隠れ家のお得意様メニューの名付け親なんだから」


「嗚呼。あんな美味いパン、きっと彼処以外に存在しねえよ。リリーフィエのパンも美味かったけど、フランシスコの爺ちゃんのパンは別格だ!」


大きめのバスケットに沢山の種類のパンとジャム瓶が入ってる。良い匂い…本当に焼き立てで持ってきてくれたんだ…


「二人は次、何処の街へ行くの?」


「エンジームに行くつもりだ」


「エンジーム!蒸気機関とか蒸気の熱エネルギーが利用されてる蒸気の国だね!!ステンリアは始まりの街とか始まりの国とか大層な名前で呼ばれてるけど、実際そんなものじゃないからね。蒸気の国かぁ…ボクも映像越しに見るのを楽しみにしてるよ!」


蒸気の国、エンジーム。名の通り蒸気の熱エネルギーを利用した機関が多く存在し、作られてる国。行き方は簡単。ステンリアの駅に停車する列車の中に一つだけかなり変わった黒い煙突の様な物がある列車があるの。それに乗って行くとエンジームに着く。二時間くらいかな?


「此処とは違う技術で溢れかえってるからね。エンジームは。きっと驚くよ!あ、そろそろ機関車が来ちゃうね。ホームに行かないと」


「おう。何から何までありがとな!」


「それはこっちの台詞だよ。それに、ボク達の本領発揮はこれからなんだから!」


大きく胸を張るジャックを見ていると、自然と頬が緩む。ステンリアは本当に素敵な街で素敵な人が沢山居たけど、師匠は居なかったな…ジャックはああ言ってたけど、此処程始まりの街に相応しい場所は無いと思うな…


「寂しくなるなぁ…また絶対に来てくれる?」


「嗚呼、マキアを送り届けないとだしな!今度は俺達が声高らかに御使だって言えるくらいになってくるさ!」


「強くなって帰ってくるから。私も兄さんも…マキアさんも」


ホームに着いたのがギリギリだったからか、目の前に目的の列車が停まってて、兄さんとマキアさんと慌てて乗り込んで窓から顔を出す。


「…ッ…ぅ…ま、またね!!三人とも!!今度は通信機越しだけど…ってああ!!」


「んだよ!?」


「こ、これ渡すの忘れてた!!」


もう発車しかけてる列車に合わせて走りながらジャックが私に何かを投げて来た。何これ?


「通信結晶だよ!!それとマキアを繋げて連絡して!やり方は彼女が知ってるから!もっと説明したかったけどごめんね!!また!!」


「…最後の最後まで騒がしい奴だな。アイツ」


「そうだね。でも、居ないと寂しいかも」


手の中で光る通信結晶ともう小さくなっているジャックを交互に見つめる。衝動的に、兄さんと一緒に彼に手を振った。窓から身を乗り出して大きく。


「却説、今日からまた新しい場所だな!」


「うん。楽しみだね。兄さん、マキアさん」


次の街ではどんな出会いがあるかな…楽しみだな…師匠も…いるといいんだけど。



【No.1・始まりの国 ステンリア】

滞在期間 二ヶ月

特徴 ジャックは否定してたけど、普通に始まりの国に相応しい場所だと俺は思う。良い奴等が多くて、大好きな街だ!

特産物 小麦

人々 皆お人好しで優しい奴等。また来るって約束もした!

記載者 彼岸雷葉

記載場所 ステンリア・エンジーム行きの列車内
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