Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

文字の大きさ
上 下
64 / 93

Change

しおりを挟む
 千晶は起き上がると服についた土埃を手で払う、その悠然とした態度に鬼頭は不思議そうな表情を浮かべた。

 鬼頭が千晶の顔を見ると殴り飛ばしたはずの頬に跡も腫れもなく、千晶の足下には薄い岩の破片が落ちていた。

(なるほど、岩の魔力を鎧のように纏ったのか。)

 千晶の様子を見るに鬼頭があれだけの猛攻を仕掛け、千晶に与えたダメージは無に等しいものであった。

 しかし鬼頭は落胆することなくファイティングポーズをとる。

(なら何度でも拳を叩き込んでやる、今は俺が圧倒してんだ。この勢いで行けば・・・!)

 そう思った鬼頭は大地を蹴り一瞬で千晶の目の前に迫る、しかし千晶の表情に焦りはなかった。

「それだけか?」

 突然、千晶に問いかけられるが構わず鬼頭は正拳突きを放つ。が、岩の壁に阻まれ千晶が杖で地面を叩くと鬼頭の脚が砂に捉えられ、そのまま投げ飛ばされる。

 そして受け身をとった鬼頭に千晶は上空を指差し、次のように言った。

「他になにかあるのなら、出し惜しみはやめておけ。でなければお前は次の俺の攻撃で負ける。」

 鬼頭が上を見上げると空には公園で最初に戦った時に千晶が作ったものと同じ岩のピラミッドがあった。

 以前は脚を砂で捉えられ回避することが出来なかった、しかし今は先程のように闘気で砂を吹き飛ばすことができる。

 鬼頭はそう思い黒い闘気を膨張させる、しかし突然身体がガクッと下に沈み足下を見ると地面に沼が形成されていた。

 脚からゆっくりと沼に沈んでいき、慌てる鬼頭を見て進は驚愕の表情を浮かべた。

「バカな、ここに沼なんてなかったはず───」


 進はまさかと思いながら千晶を見ると、千晶は笑みを浮かべ右手を空高くかざしていた。

 千晶は戦いの中で自分の繰り出す攻撃に対して鬼頭がどういった反応アクションを起こすのかを観察していた。

 そして以前とは違い、鬼頭は脚を砂で拘束してもそれを解く術があった。そこで千晶は砂よりも拘束力があり、尚且つ鬼頭の機動力を奪うのに適した"沼"に彼の足下の地形を変えて拘束したのだ。

「俺の魔力の属性は、大地そのものだ。地形を変える程度のこと、造作もないんだよ。」

 そう言って千晶が右手の指をパチンと鳴らすと頂点を下に向けたピラミッドが鬼頭に向けて落下していく。

(またなのか・・・!また俺は、凡人は、天才アイツに負けるのか・・・!)

無理に抜け出そうともがいた結果、腰の高さまで沼に沈んだ鬼頭は身動きが取れず、落下してくるピラミッドをただ睨みつけることしかできない自身の無力さを恨んだ。

「おおおおおおおおぁぁ!!!」

 ついには怒りの咆哮をあげ涙を流す、次第に鬼頭のあげる咆哮が人外じみたものへと変わっていく。

『あああ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

 黒い闘気が鬼頭の感情の昂りに呼応するかのように急激に膨張しはじめる、そして右腕にはまるで異形が持つ巨大な爪を形成し、左肩からは不気味な肌色の長い腕が生える。

 そして膨張した闘気は鬼頭を拘束する沼を地面ごと抉り取ると辺りへ吹き飛ばす、沼から脱出した鬼頭は再び上空のピラミッドを睨みつけると大地を蹴り飛翔する。

 下を向いているピラミッドの頂点を右腕の巨大な爪で鷲掴み咆哮をあげながら力を入れ握りしめる、するとピシピシと音を立てながらピラミッドにヒビが入りはじめ、鬼頭の右腕の爪がピラミッドの頂点を握り潰すと同時に轟音をたてながらピラミッドは崩壊した。

 ピラミッドの残骸は辺りに落下していき砂塵を巻き上げる、千晶は桐江きりえのもとへと瞬時に駆けつけ彼女を守った。

 ピラミッドの崩落が止みやがて砂塵も晴れると桐江の無事を確認し千晶はその場から離れた。


 千晶はピラミッドの残骸が散らばる戦場に戻り、そこに佇む鬼頭と再び対峙する。

 そして鬼頭の姿を目にした千晶はそのあまりの変化に驚きの表情を見せた。

「おいおいマジかよ・・・お前、その姿はまるで・・・」

 右腕の巨大な爪、左肩から生える不気味な肌色の長い腕、そして臀部からは長い尻尾が生えていた。目つきも人間のそれとはかけ離れており、まさに"異形"と呼んでも差し支えないほどの禍々しい姿へと変容を遂げていた。

 この鬼頭の予期せぬ変化に進も驚き戸惑う。

「なんだ、この変化は・・・私はこんなの知らないぞ・・・」


 そして鬼頭は千晶を視界に捉えると口角を上げてニヤリと笑いながら大地を蹴り、真っ向から千晶に突進する。

 右腕の爪を無造作に振るうと千晶は岩の壁で防ぐが、爪は岩の壁を簡単に砕き千晶を襲う。千晶はギリギリ回避するが鬼頭は身を翻し尻尾を鞭のようにしならせて振るう。

 尻尾の打撃を杖でなんとか防ぐがあまりの衝撃に後ずさる。

(パワーもスピードも、"人間離れ"なんてレベルじゃねぇな。とんでもねぇもん作りやがってあの親父・・・!)

 心の中で恨み言を言いながら進を見ると、千晶には父がなぜかうろたえてるように見えた。

「どこで・・・なにを、間違えたんだ。私は、私は・・・」

 進は小声でつぶやきながら異形に近い存在へと変異した鬼頭を見つめていた。



『こんなはずではなかった。』



 そう心の中で繰り返しながら、進は己の過去を思い返す。

─────
───


 私の妻は幼い頃から身体が弱かった、幼なじみである私は彼女が他の子達のように元気に外で遊べないのを不憫に思っていた。

 幼い頃から彼女に恋心を抱いていた私は他の子達と外で遊ぶことはせず、彼女の家で一緒に本を読んだり彼女が休んでいる間に学校で起きたりしたことを話したりして楽しく遊んでいた。

 時折、家の塀の向こうから子供達の元気に走る音や楽しそうな声が聞こえた時、彼女はふと羨ましそうな表情を浮かべ、それを見る度に私の心は締め付けられたように痛んだ。

 年月が経ち中学に上がっても彼女の体質は改善されず学校を休みがちになり、彼女自身も半分諦めていたようにも見えた。

 中学でも相変わらず私は彼女の家で彼女に勉強や宿題を教えたり、観たテレビ番組の話などをして遊んでいた。

 彼女のご両親も幼なじみである私が変わらず娘と仲良く遊んでいるのがありがたかったらしく、そして彼女は私と遊んでいる時が一番元気だと私を歓迎してくれていた。

 そんなある日、彼女が突然私に問いかけてきた。

「進くんは、私と遊んでて楽しい?」

「え、当たり前じゃないか、君は僕の一番の友達さ。」

 "なぜそんなことを聞くのだろう?"そんなことを思いながら読んでいた本から視線を外し、私が彼女の目を見つめて質問に答えると彼女は安堵の表情を浮かべた。

「私って外に出られないじゃない?千晶くんは男の子だから、外で遊びたいんじゃないかなって。」

 彼女の言葉を聞き、私は"そんなことか"とため息をついた。

「僕はあまり運動が得意じゃなくてね、それに・・・僕は君と一緒にいるのが好きなんだ。」

 言い終えたあとでなにか恥ずかしいセリフを言ったような気がして私は彼女の顔を見ると、彼女の頬はほんのりと赤く染まっていた。つられて私まで恥ずかしくなり読んでいた本で顔を隠した。

 そしてほんの数秒の沈黙のあと、彼女が口を開いた。

「それって、私のことが好きってこと・・・?」

 彼女の言葉に返す照れ隠しの言葉も思い浮かばず、私は本を閉じて机の上に置き、紅潮した顔で彼女と向き合った。

「そ・・・そうさ、僕は君のことが前から好きだったさ。」

 そしてまっすぐな好意を彼女に伝えた、彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたがすぐに顔を俯かせた。

「それって、私の身体が弱くて・・・"可哀想だ"と思ったから?」

「違う!」

 彼女の言葉を私は即座に、シンプルに否定した。私は同情や哀れみという、そんな不純な感情で彼女を好きになったわけでは断じてないからだ。

「僕は君の、静かで優しい性格が好きだ!もし君が自分の身体の弱さを負い目に感じているのなら、僕が"変えて"みせる!」

 私が彼女の前で声を張り上げたことなどその時まではなかった、彼女の唇が小さく震え両眼から涙を流しながら一言つぶやいた。

「ありがとう。」

 その時から私と彼女の関係が親友から恋人に"変わった"。

 読んでいた本は漫画から医学書に、そして医学書から科学書へと"変わった"。

 そして医者を志していた私は科学者になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

処理中です...