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Reunion
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手足を捉えていた砂が解け、男は崩れ落ちるように倒れた。少年は次に朧を睨み、杖を向ける。
「アンタの方は話がわかりそうな感じだがどうする。戦うか?」
そう言いながら少年は朧の周囲をおびただしい量の砂で囲う、少年の合図ひとつで砂はあっという間に朧を呑み込むだろう。
「・・・やめておきましょう、そもそも私は長門さんと争いに来たわけではない。」
「賢明だな。」
そう言って少年が杖を下げると、砂も風と共に吹き飛んでいく。
「あなたのその魔力、ただの岩の魔力ではありませんね?」
「・・・へぇ。」
朧の言葉に少年は感嘆の声をあげる。人が扱う魔力には属性があることは千歳も知っている、千歳は風の属性、千尋は雷の属性というふうに。少年が魔力でやってみせたことといえば、岩の壁を作ったり砂で相手を拘束したり砂嵐を起こす。そして先程のように空中に巨大な岩のピラミッドを創造したり、どう考えてみても少年の魔力の属性は『岩』のはずなのだが。
「なんにせよ、私たちはこれにて退かせていただきます。これ以上の無益な戦いは避けたいのでね。」
そう言って朧が空間に手をかざすと、空間に裂け目が現れる。天翁が鬼恐山から立ち去った時に使用したものと同じである。
朧はその裂け目に男を放り投げ、裂け目の入口に手をかけると千歳と少年の方へ振り向く。
「少年、名は?」
「開賀 千晶だ。」
名を聞かれ、少しも警戒すること無く名乗る少年に朧は笑みを浮かべる。
「憶えておきましょう、開賀千晶。同胞の命を取らずに逃してくれたこと、心より感謝を。そして・・・。」
次に朧は千歳の目を真っ直ぐ見つめる。
「長門さん、今日は良い返事が聞けず残念です。ですが気が変わればいつでもお呼びください。いつかあなたと同志になれることを願っています。」
そう言うと朧は一礼し、空間の裂け目へと消えていく。千歳が霊写しの眼で周りを見ると、朧が張っていた人避けの結界も消えていた。
危機が去った事に安堵し、気が抜けた千歳は霊写しを解いた瞬間強い倦怠感に襲われ座り込む。その隣に紗奈も座り心配そうな表情で千歳の背中を優しくさする。千晶は杖を振り、戦いで荒れた場所を魔力で修復していた。
ーーーーー
ーーー
ー
公園の修復が終わると千晶が杖を握り潰し砂へと還しながら千歳と紗奈の前に歩み寄る、すると千歳は息を切らしながら立ち上がり千晶と向かい合う。
「御前、ほんとうに千晶か?」
「・・・あぁ。10年ぶりくらいだな、千歳。」
次の瞬間、千歳の左手が千晶の服の胸ぐらを掴む。その手は弱々しく震えていたが千晶はその手を払いのけることはしなかった。突然の光景に紗奈が慌てて千歳に駆け寄る。
「ち、ちぃちゃん!?なにをして・・・」
「いいんだ椎名さん。千歳や千尋、千悟には俺を殴る権利がある。」
千晶はそう言いながら千歳の目を真っ直ぐ見つめる、千歳は右手を握り締めその拳を構える。
「遠慮はするなよ?千歳。」
「・・・はぁ。」
数秒見つめ合い、千歳は俯いてひとつため息をつくと胸ぐらを掴んでいた左手を離し、握りしめていた右手の拳も緩める。
「・・・どこ行ってたんだよ、10年も。」
そして両手をだらんと下ろし千晶に問いかける、自分たちの知らない空白の10年を。
「アンタの方は話がわかりそうな感じだがどうする。戦うか?」
そう言いながら少年は朧の周囲をおびただしい量の砂で囲う、少年の合図ひとつで砂はあっという間に朧を呑み込むだろう。
「・・・やめておきましょう、そもそも私は長門さんと争いに来たわけではない。」
「賢明だな。」
そう言って少年が杖を下げると、砂も風と共に吹き飛んでいく。
「あなたのその魔力、ただの岩の魔力ではありませんね?」
「・・・へぇ。」
朧の言葉に少年は感嘆の声をあげる。人が扱う魔力には属性があることは千歳も知っている、千歳は風の属性、千尋は雷の属性というふうに。少年が魔力でやってみせたことといえば、岩の壁を作ったり砂で相手を拘束したり砂嵐を起こす。そして先程のように空中に巨大な岩のピラミッドを創造したり、どう考えてみても少年の魔力の属性は『岩』のはずなのだが。
「なんにせよ、私たちはこれにて退かせていただきます。これ以上の無益な戦いは避けたいのでね。」
そう言って朧が空間に手をかざすと、空間に裂け目が現れる。天翁が鬼恐山から立ち去った時に使用したものと同じである。
朧はその裂け目に男を放り投げ、裂け目の入口に手をかけると千歳と少年の方へ振り向く。
「少年、名は?」
「開賀 千晶だ。」
名を聞かれ、少しも警戒すること無く名乗る少年に朧は笑みを浮かべる。
「憶えておきましょう、開賀千晶。同胞の命を取らずに逃してくれたこと、心より感謝を。そして・・・。」
次に朧は千歳の目を真っ直ぐ見つめる。
「長門さん、今日は良い返事が聞けず残念です。ですが気が変わればいつでもお呼びください。いつかあなたと同志になれることを願っています。」
そう言うと朧は一礼し、空間の裂け目へと消えていく。千歳が霊写しの眼で周りを見ると、朧が張っていた人避けの結界も消えていた。
危機が去った事に安堵し、気が抜けた千歳は霊写しを解いた瞬間強い倦怠感に襲われ座り込む。その隣に紗奈も座り心配そうな表情で千歳の背中を優しくさする。千晶は杖を振り、戦いで荒れた場所を魔力で修復していた。
ーーーーー
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公園の修復が終わると千晶が杖を握り潰し砂へと還しながら千歳と紗奈の前に歩み寄る、すると千歳は息を切らしながら立ち上がり千晶と向かい合う。
「御前、ほんとうに千晶か?」
「・・・あぁ。10年ぶりくらいだな、千歳。」
次の瞬間、千歳の左手が千晶の服の胸ぐらを掴む。その手は弱々しく震えていたが千晶はその手を払いのけることはしなかった。突然の光景に紗奈が慌てて千歳に駆け寄る。
「ち、ちぃちゃん!?なにをして・・・」
「いいんだ椎名さん。千歳や千尋、千悟には俺を殴る権利がある。」
千晶はそう言いながら千歳の目を真っ直ぐ見つめる、千歳は右手を握り締めその拳を構える。
「遠慮はするなよ?千歳。」
「・・・はぁ。」
数秒見つめ合い、千歳は俯いてひとつため息をつくと胸ぐらを掴んでいた左手を離し、握りしめていた右手の拳も緩める。
「・・・どこ行ってたんだよ、10年も。」
そして両手をだらんと下ろし千晶に問いかける、自分たちの知らない空白の10年を。
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