君へと駆ける青い春

たがわリウ

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左胸の痛みの正体は

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屋上なんて初めて来たけど心地よいものなんだな、と思いながら隣から視線を外さない。
二度目の誘いも断られてしまったけど、今度はまだ隣にいてくれることにほっとしつつ再び口を開く。

「昨日なんで公園にひとりで来たの?」
「……猫を探してたんだよ」
「猫?」
「飼ってる猫がいなくなっちまって」
「ふーん。タマ?」
「ちげぇよ、シロだ」

夜の暗い公園に現れたことに疑問を持っていたが、答えを聞いて納得する。
律儀に答えてくれる顔は深刻さが滲んでいて大切な存在なのだと伝わってくる。

「見つかったの?」
「いや、まだだ」
「白い猫なの?目の色は?」
「目は青だ。なんでだよ」
「俺知り合い多いから、皆に聞いてみるよ」

さっそく近場に住んでいる人に連絡してみようと制服のポケットから取り出したスマフォは、伸びてきた手で抑えられる。

「自分で探すし、お前の知り合いに頼る気はねぇ」

苦い顔つきに、俺の知り合い、イコール、昨日のサラリーマンのような関係の人だと思っていることがわかった。
本当にその通りだから、何も言わずにスマフォをポケットに戻す。

「じゃあな」

緩められていた空気が、張り詰めたものに変わる。
昨日のような怒りはなかったものの、結局智也くんは、俺に背を向けて歩いて行ってしまった。



ぴんぽーん、と鳴ったチャイムで来客を知る。
今家には自分しかいないため他に出てくれる人はいないが、面倒で居留守を使うか数秒悩む。
しかし俺の考えを見越したかのように、ぴんぽんぴんぽんと何度も鳴らされるチャイムが煩くて玄関に急いだ。

「あ、やっと出た。はい」

ドアを開けた先には何故か大月がいた。
その事実を飲み込む前に俺に押し付けられた物体にさらに混乱する。

「この子がタマで合ってた?」
「タマじゃなくてシロな」

とっさに受け取った俺の腕の中で、数日ぶりのシロがみゃあと鳴く。
もしかしたらという不安を抱きながら探しまわっていたというのに、あまりにもあっさりとした再会に呆然とする。

「なんで……」
「シロちゃんは智也くんの大事な家族なんでしょ?」

どうして家がわかったのかとか、どこでシロを見つけたのかとか聞きたいことは色々あったが、正直な答えは返ってこないだろうと他のことを訊ねた俺に、大月はただ微笑んだ。
いつもの軽い調子とは違う、素直な微笑みに、何故か左胸に痛みが走る。
なんだ、今の、と困惑する俺から大月は数歩離れた。

「シロちゃんもお家に帰れたし、俺も帰るよ」

あっさりと帰ると言う大月に驚いた顔を向ければ、なに?という声が返った。

「いや、シロを見つけた代わりに相手しろって言われるのかと……」
「なにそれ、俺そんなに酷いやつじゃないよ」

可笑しそうに笑う大月に、また左胸がずき、と疼く。
何故だかわからないが、耳のあたりに熱が広がった。

「じゃあね」
「……大月」

帰ろうと後ろを向いた大月が、俺の声で振り返る。
初めて名前を呼んだからか、色気のあるタレ目が嬉しそうに細められた。

「ありがとな」
「どういたしまして」

ブレザーを脱いで袖を捲っているワイシャツはところどころ汚れていた。
何故大月が俺のことをこんなに構うのか未だにわからないが、大月へ抱いている俺の印象が変わったのは、頭の隅でわかっていた。
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