イロ、芽吹く

たがわリウ

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持て余す苛立ち

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傾けたグラスの中で、からんと音が鳴る。
晋哉が疲れを溜めた時に利用するバーは、今日もほどよい客の入り具合だった。うるさくは無いが静かすぎもしない。
酒が通った喉の熱さを感じながら、晋哉の頭にはある言葉が蘇った。
カタギじゃねぇんだ──。
数時間前に聞いた櫻井の言葉。晋哉が返した、カタギだから綺麗というわけではない、という考えは本心だった。
この世界にいる晋哉は、カタギの人間が自分たちと同じように、時にはそれ以上にえげつない行為をするのを見てきた。見たからといって気にとめたことは無いが。
今では若頭の晋哉だが、組に来る前はIT企業で働いていた。当時はそこが東泉組のフロント企業である事を知らず、周りの人間もカタギばかりだったが、出世争いで人の変わりようを目にした。
みつきの父だってカタギではあるが、みつきを置いて逃げ出した。自分が消えたら残ったみつきがどうなるか想像がつくだろうに。
詳しくは知らないが、親が子にするには不自然な行為を企んでいたらしい。そんな男を、カタギだから綺麗とは言えないだろう。

「……俺も、綺麗ではねぇか」

今さら後悔はしていない。
しかし、綺麗か汚いかで言えば自分もみつきの父と同じなのだと思うと、自然と舌打ちをしていた。
理由の分からない苛立ちを持て余す晋哉の頭には、なぜかみつきが浮かぶ。

「あいつは、綺麗だな」

自分とは違う、綺麗な存在。
珍しく他人のことを考えていることに気づかないまま、晋哉はまたグラスを持ち上げた。



ちらりと確認した時計は、日付が変わる時刻を示していた。ソワソワとした気持ちで、みつきは玄関の方を見る。
最近は毎晩のように家で夕飯を食べていた晋哉が、帰ってこない。以前は帰らないことが普通だったのに、みつきの胸には不安が押し寄せる。
危険な目にあっていないか、自分が何かまずいことをしてしまったのか。それとも夜を共にすごしたい人といるのか。
自分でした想像にちくりと胸を痛めながら、みつきはまた時計を見上げた。
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