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甘い計画
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「兄貴、すいやせん!」
事務所に入った晋哉に、大柄の男が勢いよく頭を下げた。弟分の謝罪には慣れている晋哉だが、この様子だとそれなりに大事なのだろうと予想する。
「……どうした」
「すいやせん、兄貴……例の計画書が見当たらねぇんです!」
例の計画書。弟分から出た言葉に、晋哉の顔が険しさを増した。
例の計画書とは、四ツ谷会に提出するものだ。
四ツ谷会にどう貢献できるのかを示すのに晋哉が選んだのは、新たな資金源を提示するというものだった。
この世界では常に縄張り拡大の意識がある。新たな資金源を確保し、組織を安定させることは、縄張り拡大に向けて重要視されるだろうと晋哉は踏んでいた。
晋哉がまとめた計画書はもうほぼ完成していた。データは晋哉のタブレットにもあるため印刷しておいたものがなくなったところでどうともならない。
しかし、もし勝負相手が計画書を見れば、晋哉の手はすべて理解されてしまうだろう。
「わかった。どいつの仕業かは心当たりがある」
頭を下げ続ける弟分を残し、晋哉は事務所のエレベーターへと足を向けた。
強い風が髪をさらう。ぎぃ、と重い扉を開ききった晋哉は、柵に寄りかかる男を捉えた。今日も派手なスーツを着ている。
「珍しいお客さんだ。どうしました、兄貴」
「わかってんだろ、櫻井」
事務所の屋上に居たのは櫻井ひとりだった。
以前晋哉に、ここで吸うタバコが格別だと言ったことがあるが、今でも変わっていないらしい。
「探し物はこれですか?」
櫻井が持ち上げた手には、消えた計画書があった。
やっぱりこいつだったかと思うと同時に、白井組の仕業ではなかっただけマシかとも思う。
「……甘い。甘いですよ、兄貴」
うすら笑いを引っ込ませた櫻井は、晋哉を真っ直ぐ見る。その顔は、期待はずれだと語っていた。
「組の若頭が思いついた計画が、外部の資金洗浄を受け持つ、ですか」
計画書を開いた櫻井は、ぺらぺらと紙をめくる。
「確かにここらには半グレもいるし、それ未満の奴らもいる。そういう組織から仕事を受け持って金をとれたらでかい。金に詳しい兄貴の強みも今までのノウハウも生かせる……けど、兄貴。半グレのガキどもから仕事を受けるなんて」
若者たちの半グレ集団から金をまき上げるのではなく、あくまで対等に仕事をすることを計画している晋哉に、櫻井は眉を寄せた。
「たしかにお前に言わせれば俺は甘いのかもしれねぇ。けど俺はリスクは背負わねぇ質なんでな。半グレとの抗争なんて面倒はごめんだ」
白井組の仕業ではなかったことが確認できた晋哉は、話は終わったと櫻井に背を向ける。
櫻井に何を言われようが、この計画が会のメリットになるかどうかを決めるのは四ツ谷会の上層部だ。
足を踏み出した晋哉に、後ろから声が投げつけられる。
「カタギじゃねぇんだ。そんな綺麗で甘い計画通るわけねぇ」
「……カタギだから綺麗ってわけじゃねぇだろ」
弟分の攻撃的な言動に怒るでもなく、ただ静かに言葉を返した晋哉は、再び重い扉を引いた。
事務所に入った晋哉に、大柄の男が勢いよく頭を下げた。弟分の謝罪には慣れている晋哉だが、この様子だとそれなりに大事なのだろうと予想する。
「……どうした」
「すいやせん、兄貴……例の計画書が見当たらねぇんです!」
例の計画書。弟分から出た言葉に、晋哉の顔が険しさを増した。
例の計画書とは、四ツ谷会に提出するものだ。
四ツ谷会にどう貢献できるのかを示すのに晋哉が選んだのは、新たな資金源を提示するというものだった。
この世界では常に縄張り拡大の意識がある。新たな資金源を確保し、組織を安定させることは、縄張り拡大に向けて重要視されるだろうと晋哉は踏んでいた。
晋哉がまとめた計画書はもうほぼ完成していた。データは晋哉のタブレットにもあるため印刷しておいたものがなくなったところでどうともならない。
しかし、もし勝負相手が計画書を見れば、晋哉の手はすべて理解されてしまうだろう。
「わかった。どいつの仕業かは心当たりがある」
頭を下げ続ける弟分を残し、晋哉は事務所のエレベーターへと足を向けた。
強い風が髪をさらう。ぎぃ、と重い扉を開ききった晋哉は、柵に寄りかかる男を捉えた。今日も派手なスーツを着ている。
「珍しいお客さんだ。どうしました、兄貴」
「わかってんだろ、櫻井」
事務所の屋上に居たのは櫻井ひとりだった。
以前晋哉に、ここで吸うタバコが格別だと言ったことがあるが、今でも変わっていないらしい。
「探し物はこれですか?」
櫻井が持ち上げた手には、消えた計画書があった。
やっぱりこいつだったかと思うと同時に、白井組の仕業ではなかっただけマシかとも思う。
「……甘い。甘いですよ、兄貴」
うすら笑いを引っ込ませた櫻井は、晋哉を真っ直ぐ見る。その顔は、期待はずれだと語っていた。
「組の若頭が思いついた計画が、外部の資金洗浄を受け持つ、ですか」
計画書を開いた櫻井は、ぺらぺらと紙をめくる。
「確かにここらには半グレもいるし、それ未満の奴らもいる。そういう組織から仕事を受け持って金をとれたらでかい。金に詳しい兄貴の強みも今までのノウハウも生かせる……けど、兄貴。半グレのガキどもから仕事を受けるなんて」
若者たちの半グレ集団から金をまき上げるのではなく、あくまで対等に仕事をすることを計画している晋哉に、櫻井は眉を寄せた。
「たしかにお前に言わせれば俺は甘いのかもしれねぇ。けど俺はリスクは背負わねぇ質なんでな。半グレとの抗争なんて面倒はごめんだ」
白井組の仕業ではなかったことが確認できた晋哉は、話は終わったと櫻井に背を向ける。
櫻井に何を言われようが、この計画が会のメリットになるかどうかを決めるのは四ツ谷会の上層部だ。
足を踏み出した晋哉に、後ろから声が投げつけられる。
「カタギじゃねぇんだ。そんな綺麗で甘い計画通るわけねぇ」
「……カタギだから綺麗ってわけじゃねぇだろ」
弟分の攻撃的な言動に怒るでもなく、ただ静かに言葉を返した晋哉は、再び重い扉を引いた。
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