コワモテαの秘密

たがわリウ

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俳優を続けるのは

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 軽快な音が鳴っている。繰り返される一定のリズムに意識が引き上げられ、俺はもぞもぞと手を動かした。
 枕元で掴んだスマホを反射的に操作する。

「……はい、恵庭です」
「あ、恵庭くん! 良かった出てくれて」
「マネージャー……?」

 スマホから聞こえた声にハッとして意識が覚醒する。今何時だとスマホの画面を見たが、そこで今日はオフの予定だったことを思い出した。
 しかし電話の向こうのマネージャーの声色は焦りを隠さない。なにか嫌な予感がした。

「結月くんとは一緒?」
「あぁ、一緒だけど……何かあったんすか」

 結月のことも聞かれるなんておかしい。予期せぬ事が起きたのだと確信する。
 隣で安らかな寝息を立てている結月に自然と視線を向けた。

「さっき、あるネット記事が出たんだ」

 ネット記事、俺、結月、マネージャーの焦りよう。ハッキリとしたことはまだわからない。しかし俺の胸のざわめきは大きくなるばかりだった。



 今日何度目かわからない電話を終えホテルの通路から部屋に戻ると、ベッドの上で膝を抱える結月が見えた。見つめている先のテレビには、俺が映っている。以前出演した映画の舞台挨拶の映像だった。

「見飽きないか?」
「トキオさん……お電話、大丈夫でした?」

 テレビ画面のテロップには「人気俳優恵庭トキオ、一般人への暴力が明らかに」とある。いくつも推測が飛び交うワイドショーを横目に、俺もベッドに腰掛けた。

「正直に言うと、まだ大丈夫かどうかわからない。とりあえず、俺と結月と話したいって人が向かってるらしい」
「ここに?」
「あぁ、俺たちがここから出るわけにもいかないから、この部屋で話すことになった」

 そうですか、と目を伏せる結月は膝を抱え直す。ひどく落ち込む姿に胸が痛み、俺も視線をベッドに落とした。これから知らない人が来て話さなければならないとなると、また結月にストレスをかけてしまう。
 どうにかしたいのに、ただホテルの一室に閉じこもっていることしかできず歯がゆい。
 今はただ潜んで事態が落ち着くのを待つ時間だとわかっている。けれどこんなにテレビやネットで騒がれて、俺自身も押しつぶされそうな不安があった。

「一般人への暴力とのことですが、これが事実だった場合、今後の作品はどうなるんでしょう」
「これから公開予定のものもありますからね、制作側がどうするかでしょう。事実だったら俳優を続けるのは難しいでしょうね」

 話を振られ神妙な面持ちで返答したのは、過去に共演した俳優だった。親しかったわけではないけど、このニュースのせいで俳優という職業のイメージダウンになってしまい、申し訳ないなと思う。
 突発的なヒートによる事故みたいなものだったけど、俺の軽はずみな行為で色んな人に迷惑をかけてしまった。あの時もっと落ち着いて行動できていれば――。
 気を抜けば沈んでいってしまう心にストップをかけ、テレビを消す。俺が落ち込んでは結月をさらに追い詰めるだけだ。

「……トキオさん、俳優のお仕事続けるの難しいんですか?」
「……俺にもまだよくわからない。でもそんなに心配しなくて大丈夫だ。今は飛び交ってるデマにあてられて騒ぎが大きくなってるだけだから、本当のことがわかれば落ち着いていくよ」

 テレビやネットで騒がれているような、故意に暴力をふるった事実は無い。しかし乱暴なことをしてしまったことには変わりないし、騒ぎもどんどん大きくなっている。
 俳優を続けていけるかどうかはわからないけど、半ば諦めに近いものもあった。
 テレビを消した部屋には沈黙が落ちる。結月の不安を減らしたくて何か話さなくてはと思うのに、何も言葉は浮かばない。
 頭を巡らせていると、ノックの音が耳に入る。そのままでいるよう結月に目で伝えると、ドアへと近づいた。警戒しながらドアスコープを覗く。
 この部屋が特定された可能性も考えたが、ドアの向こうにあったのは知った顔だった。ドアノブを捻り、ゆっくり開ける。
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