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やっと見つけた
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※強引に触られたことがわかる描写があります。
「結月、やっと見つけた」
反射的に振り返るとニタリと歪んた顔が見えた。ねっとり耳にまとわりつくような声で名前を呼ばれ、鳥肌が立つ。
「あ、あなたは……」
「ごめんな、見つけるのが遅くなって。でももう大丈夫だ、俺が結月を助けてやる」
何が起きているのかわからなかった。数秒呆けた後、店の常連だった男性だと気づく。その瞬間、お腹を這う手のひらの感触を思い出し、全身が硬直した。
「な、なんで……」
「店に行っても会えないし、心配してたんだ。愛玩として変な男に買われたんだろ? 金に困ってるなら俺が買ってやったのに」
怒りよりも恐怖に支配される体。足がすくんで動かない。呼吸も浅くなり、何だか体が地面に引っ張られるみたいだった。踏ん張る力がないから座り込みそうになる。
苦しい、助けて。男性から逃れたいのに僕の体はどんどん重くなり、強い倦怠感に襲われる。
熱くて、思考が働かなくなってきた時、ようやくあることが頭をよぎった。
「はぁっ……そんな、なんで、いま……っ」
「結月? なんだ、何か匂いがするな」
「っ、離れてくださいっ!」
呼吸も心拍も荒くなり苦しい。力が入らない体で男性から逃れるために腕を引く。しかし男性は離れるどころか、さらに近づいてきた。何かに惹き付けられるかのようにすぐそばに来た男性も息を荒くする。僕を見つめる目は完全に熱を宿していた。
こんなタイミングでの周期から外れたヒート。今すぐどうにかしなければ危険だと全身がざわめくのに、立っているのでやっとだった。
「はぁはぁ……結月、俺の結月……」
空いている方の分厚い手が持ち上がり、迫ってくる。抱き締められる、と思って目をつぶった瞬間、何かが勢いよく割り込んできた。その衝撃で生まれた風が熱い体にすべる。
「何してんだてめぇ!」
低く乱暴な声。普段だったら恐怖を抱くような声なのに、僕は安心で泣きそうになっていた。
撮影を続けていたはずのトキオさんが、男性から僕を引き剥がす。何度も裏社会の人間を演じてきたからか、強面な雰囲気でか、すごみがあった。
「結月、ヒートか? 俺に掴まれ」
支えるように背に腕がまわる。トキオさんからも離れなければいけないとわかっているけど一人では立てそうになく、大きな体にしがみついた。
「結月……俺の結月だぞ!」
「っ、くそっ、構ってる余裕ねぇんだよ」
トキオさんの登場に慌てた男性は僕を取り返そうと迫ってくる。それを押し戻したトキオさんは、強めに男性の胸ぐらを掴んだ。
「二度と結月に近付くな」
それだけ言うと、男性から手を離し僕の体を抱きかかえる。呆然とする男性を残し、トキオさんはマンションへと走り出した。
「大丈夫だ結月、薬飲めばすぐに治まる」
「トキオさん……トキオさんは、辛くない、ですか?」
アルファのトキオさんが平気でいるはずがない。様子を窺えば、苦しそうに顔を歪めていた。気づけば僕を支える腕も熱を持っている。
「ヒートじゃなくても常に結月に魅了されてるからな。いつもと変わんねぇよ」
意思と反し抗えない欲求は辛いはずなのに、僕を安心させようと笑ってみせる。
体は変わらず熱くて苦しいのに、気づけば弱々しくも僕にも笑みが浮かんでいた。
「結月、やっと見つけた」
反射的に振り返るとニタリと歪んた顔が見えた。ねっとり耳にまとわりつくような声で名前を呼ばれ、鳥肌が立つ。
「あ、あなたは……」
「ごめんな、見つけるのが遅くなって。でももう大丈夫だ、俺が結月を助けてやる」
何が起きているのかわからなかった。数秒呆けた後、店の常連だった男性だと気づく。その瞬間、お腹を這う手のひらの感触を思い出し、全身が硬直した。
「な、なんで……」
「店に行っても会えないし、心配してたんだ。愛玩として変な男に買われたんだろ? 金に困ってるなら俺が買ってやったのに」
怒りよりも恐怖に支配される体。足がすくんで動かない。呼吸も浅くなり、何だか体が地面に引っ張られるみたいだった。踏ん張る力がないから座り込みそうになる。
苦しい、助けて。男性から逃れたいのに僕の体はどんどん重くなり、強い倦怠感に襲われる。
熱くて、思考が働かなくなってきた時、ようやくあることが頭をよぎった。
「はぁっ……そんな、なんで、いま……っ」
「結月? なんだ、何か匂いがするな」
「っ、離れてくださいっ!」
呼吸も心拍も荒くなり苦しい。力が入らない体で男性から逃れるために腕を引く。しかし男性は離れるどころか、さらに近づいてきた。何かに惹き付けられるかのようにすぐそばに来た男性も息を荒くする。僕を見つめる目は完全に熱を宿していた。
こんなタイミングでの周期から外れたヒート。今すぐどうにかしなければ危険だと全身がざわめくのに、立っているのでやっとだった。
「はぁはぁ……結月、俺の結月……」
空いている方の分厚い手が持ち上がり、迫ってくる。抱き締められる、と思って目をつぶった瞬間、何かが勢いよく割り込んできた。その衝撃で生まれた風が熱い体にすべる。
「何してんだてめぇ!」
低く乱暴な声。普段だったら恐怖を抱くような声なのに、僕は安心で泣きそうになっていた。
撮影を続けていたはずのトキオさんが、男性から僕を引き剥がす。何度も裏社会の人間を演じてきたからか、強面な雰囲気でか、すごみがあった。
「結月、ヒートか? 俺に掴まれ」
支えるように背に腕がまわる。トキオさんからも離れなければいけないとわかっているけど一人では立てそうになく、大きな体にしがみついた。
「結月……俺の結月だぞ!」
「っ、くそっ、構ってる余裕ねぇんだよ」
トキオさんの登場に慌てた男性は僕を取り返そうと迫ってくる。それを押し戻したトキオさんは、強めに男性の胸ぐらを掴んだ。
「二度と結月に近付くな」
それだけ言うと、男性から手を離し僕の体を抱きかかえる。呆然とする男性を残し、トキオさんはマンションへと走り出した。
「大丈夫だ結月、薬飲めばすぐに治まる」
「トキオさん……トキオさんは、辛くない、ですか?」
アルファのトキオさんが平気でいるはずがない。様子を窺えば、苦しそうに顔を歪めていた。気づけば僕を支える腕も熱を持っている。
「ヒートじゃなくても常に結月に魅了されてるからな。いつもと変わんねぇよ」
意思と反し抗えない欲求は辛いはずなのに、僕を安心させようと笑ってみせる。
体は変わらず熱くて苦しいのに、気づけば弱々しくも僕にも笑みが浮かんでいた。
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