12 / 19
俺が好きなのは
しおりを挟む
「確かに立場上、華やかな人と接するし、尊敬できる人ばっかりだ。人を魅了する人たちに囲まれて仕事してる」
静かに落ち着いた声はどこか誇らしげでもあった。華やかな人の中に居る自分のことがではなく、魅力的な人と一緒に仕事をできていることが嬉しいのだと伝わってくる。
トキオさんがいるのは人を惹きつける世界。トキオさんの気持ちを疑いたくはないけど、いつか僕という存在は霞んでしまうのではないかと胸に痛みが走る。
そんな僕にトキオさんはゆっくり、しっかりと言葉を続けた。
「でも、それでも。俺が好きなのは結月だけだ。特別に思ってるのは結月だけなんだ」
「トキオさん……」
真剣に、真っ直ぐに向けられる言葉。トキオさんからの好意は毎日のハグや、何気ないやり取りで十分感じている。僕のことを本気で好いてくれているのだと何度も実感している。
けど、こうしてはっきり言葉にしてもらえて、自然と目頭が熱くなった。喉が締まり、苦しくなる。
「俺の気持ちを知っていても、この仕事を受け入れるのは難しいと思う。もし……もし結月が何か思うところがあるなら、受ける仕事を変えられないか事務所と相談していこうと考えてる」
「いえ、大丈夫です」
あんなにモヤモヤしていたのが嘘かのように、僕の心は軽くなっていた。トキオさんへの返事も、考える前に口から滑り出る。
「たぶん僕は、俳優さんと付き合うことがよくわかってなかったんです。僕とトキオさんが付き合うだけだって。でもやっぱり俳優さんは特殊なお仕事で、立場も複雑で……けどもう大丈夫です。今日、たくさん見て、知ることができましたから」
よくわからないから不安が生まれて、その不安を見て見ぬふりをしようとしたから、自分でも「トキオさんと付き合う」ってどうすれば良いのかわからなくなった。
でもトキオさんがいる世界のことを、トキオさんが大切にしているものを少しだけでも見られたから、もう大丈夫だと思える。
トキオさんが大切にしているものを僕も大切にしたいと心から思った。
「結月……わかった。もし、また何かあれば些細なことでも言ってくれ。結月が離れるなんて嫌だから」
「ありがとうございます。でも僕、トキオさんから離れることはないですよ」
笑ってそういえば、トキオさんも安堵したように微笑んだ。自然と、触りたいなと思う。トキオさんに触りたい。
そんな僕の考えを見抜いたのか、トキオさんも同じことを思ったのか、立ち上がった体は近づいてくる。
すぐにまわされた腕の中でトキオさんに包まれる。息を吸い込むと安心する匂いがして、幸せだなぁと呟いていた。
「今すぐキスしたいけど、ここじゃな……この後の撮影も頑張るから、家で待っててくれるか? そろそろマネージャーが来る時間だよな」
「もうそんな時間だったんですね」
色んな都合でこの後の撮影には見学者は入ることができなかった。まだ仕事があるトキオさんに代わり、トキオさんのマネージャーさんが僕を送り届けてくれることになっている。
「はい、楽しみにしてますね。夜はたくさんトキオさんに触らせてください」
一緒に帰れないことに寂しさもあるけど、夜を楽しみに我慢だと自分に言い聞かせる。
一瞬息を詰まらせたトキオさんは、また僕を強く抱き締めた。
静かに落ち着いた声はどこか誇らしげでもあった。華やかな人の中に居る自分のことがではなく、魅力的な人と一緒に仕事をできていることが嬉しいのだと伝わってくる。
トキオさんがいるのは人を惹きつける世界。トキオさんの気持ちを疑いたくはないけど、いつか僕という存在は霞んでしまうのではないかと胸に痛みが走る。
そんな僕にトキオさんはゆっくり、しっかりと言葉を続けた。
「でも、それでも。俺が好きなのは結月だけだ。特別に思ってるのは結月だけなんだ」
「トキオさん……」
真剣に、真っ直ぐに向けられる言葉。トキオさんからの好意は毎日のハグや、何気ないやり取りで十分感じている。僕のことを本気で好いてくれているのだと何度も実感している。
けど、こうしてはっきり言葉にしてもらえて、自然と目頭が熱くなった。喉が締まり、苦しくなる。
「俺の気持ちを知っていても、この仕事を受け入れるのは難しいと思う。もし……もし結月が何か思うところがあるなら、受ける仕事を変えられないか事務所と相談していこうと考えてる」
「いえ、大丈夫です」
あんなにモヤモヤしていたのが嘘かのように、僕の心は軽くなっていた。トキオさんへの返事も、考える前に口から滑り出る。
「たぶん僕は、俳優さんと付き合うことがよくわかってなかったんです。僕とトキオさんが付き合うだけだって。でもやっぱり俳優さんは特殊なお仕事で、立場も複雑で……けどもう大丈夫です。今日、たくさん見て、知ることができましたから」
よくわからないから不安が生まれて、その不安を見て見ぬふりをしようとしたから、自分でも「トキオさんと付き合う」ってどうすれば良いのかわからなくなった。
でもトキオさんがいる世界のことを、トキオさんが大切にしているものを少しだけでも見られたから、もう大丈夫だと思える。
トキオさんが大切にしているものを僕も大切にしたいと心から思った。
「結月……わかった。もし、また何かあれば些細なことでも言ってくれ。結月が離れるなんて嫌だから」
「ありがとうございます。でも僕、トキオさんから離れることはないですよ」
笑ってそういえば、トキオさんも安堵したように微笑んだ。自然と、触りたいなと思う。トキオさんに触りたい。
そんな僕の考えを見抜いたのか、トキオさんも同じことを思ったのか、立ち上がった体は近づいてくる。
すぐにまわされた腕の中でトキオさんに包まれる。息を吸い込むと安心する匂いがして、幸せだなぁと呟いていた。
「今すぐキスしたいけど、ここじゃな……この後の撮影も頑張るから、家で待っててくれるか? そろそろマネージャーが来る時間だよな」
「もうそんな時間だったんですね」
色んな都合でこの後の撮影には見学者は入ることができなかった。まだ仕事があるトキオさんに代わり、トキオさんのマネージャーさんが僕を送り届けてくれることになっている。
「はい、楽しみにしてますね。夜はたくさんトキオさんに触らせてください」
一緒に帰れないことに寂しさもあるけど、夜を楽しみに我慢だと自分に言い聞かせる。
一瞬息を詰まらせたトキオさんは、また僕を強く抱き締めた。
56
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
本能と理性の狭間で
琴葉
BL
※オメガバース設定 20代×30代※通勤途中突然の発情期に襲われたΩの前に現れたのは、一度一緒に仕事をした事があるαだった。
すいません、間違って消してしまいました!お気に入り、しおり等登録してくださっていた方申し訳ありません。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる