コワモテαの秘密

たがわリウ

文字の大きさ
上 下
11 / 19

想像もつかなかったくらい

しおりを挟む
 小さな部屋には飾り気のない机とイスだけがある。普段は関わりがない演者用控え室――楽屋で、トキオさんの向かいに座っていた。

「ずっと立って見てるの疲れただろ? 飲み物持ってこようか。たしか前室にあったはず」
「僕は大丈夫です。トキオさんこそ、撮影お疲れ様です」
「今日は休憩入るの遅かったから、全然話せなくて悪い」
「いえ、見学させて貰えてすごく楽しいです」

 思考や気持ちは忙しなくても、初めて訪れた撮影現場は物珍しく、映像作品ができあがる過程の一部を見らるのは楽しかった。
 それに知らなかったトキオさんの役者としての顔や、撮影に臨む姿を知られたのも嬉しい。

「どうだった? ちょっとはどんな雰囲気か掴めたか? もちろん現場で違いはあるけど……」

 トキオさんは優しく微笑んではいるけど少し遠慮がちだった。何と答えれば良いのか分からなくて、机の上で手のひらを握る。
 いまだ「俳優の恋人」としてどうしたら良いのか分からない。とにかく今日、現場に来て感じたことを話そうと思考を巡らせた。

「トキオさんが言ってた通り、特殊なお仕事だというのはよくわかりました。僕には想像もつかなかったくらい、たくさんの人が関わって、見たこともない機材が使われていて……トキオさんのファンの子ともお話ししました」
「あぁ、お世話になってる方の娘さんらしくて、さっきサイン頼まれたよ」

 声をかけられた時を思い出しているのか目元を和らげるトキオさん。
 あの子は無事にサインをゲットできたのだなと知り、僕も安心した。飛び跳ねるくらいに喜ぶ姿が想像できる。
 そうやって人から憧れられる立場のトキオさん。さっき見たキラキラとした瞳は、数えられないくらいたくさん彼に向いている。
 今さらながら、そんな彼と関係を続けるためにはどうしていけば良いのかわからなくなっていた。

「結月は誰か話してみたい人とかいるか?」
「あ、いえ、そんな……僕は華やかな皆さんを目にできただけで、なんというか、お腹がいっぱいで」
「そっか……結月から見たら、華やかな人ばかりだったか?」

 窺うように尋ねてくるトキオさん。僕の率直な感想が知りたいのだなと伝わってきた。

「はい、役者さんはもちろん華やかでオーラがある方ばかりですけど、スタッフの方たちも真剣で、お仕事してる姿がキラキラしてました」

 立っているだけで目を引く役者さんたち。そして、全力で自分の仕事に集中するスタッフさんたち。それぞれがプロフェッショナルで、全員が魅力的な人だった。
 実際にお仕事を見学させてもらって、ファンの子にも会って、トキオさんは僕とは違う世界を生きてきたのだと痛感した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...