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もっと触れてほしいのです
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「持っていく物はこんなもんかな」
麻布で出来た袋を机に置く。
中には少しの着替えと食料、長から貰ったこの世界の金貨が入っている。
リィクの家を去ってどうするか、俺は未だ決めかねていた。
長の元に行ってひとりで暮らす家を借りるのが一番いいが、もし断られたらこの村を出なくてはならないかもしれない。
村から出たこともなく、この世界のことを何も知らない俺が別の村にたどり着ける可能性は低い。
けれどもしそうなった時のことを考えて、怪我に備えた薬も持った。
リィクともう会えなくなるかもしれない。
自分の行動が原因なのに、リィクの顔が浮かんでは胸が痛む。
昨夜あんなことをしてしまったことを責められるかと思ったのに、リィクは何も言わなかった。
何も言われはしなかったが、リィクは俺と目を合わせないし、普段通りとはいかなかった。
それは俺も同じだから、ふたりのやりとりはぎこちないものだった。
リィクはもう俺の顔なんか見たくないかもしれない。どうしてあんなこと、と後悔が押し寄せる俺はため息を吐きながら俯く。
どんよりとした俺の部屋に、パンが焼けるいい匂いが漂ってきた。
きっとリィクが夕飯の用意をしてくれているのだろう。
リィクとの最後の食事か。この夕飯後、リィクが寝てから家を出るつもりだった。
上手くいくだろうかと考えていると、部屋の扉がノックされる。
急いで袋を机の下に隠すと、扉を開けた。
「ヨリト様、食事の準備ができました」
「ありがとう、リィク」
どこか気まずそうなリィクに取ってつけた笑みを返す。
目的を果たしたリィクはすぐに背を向けるかと思ったのに、何故か俺の前から動かなかった。
「えっと、どうかした?」
ソワソワとしたいつもとは様子が違うリィクに首を傾げる。
もしかして俺が出ていくことに気づいてしまったのかと焦ったが、リィクは躊躇いながらも口を開いた。
「ヨリト様、その……」
「うん」
「昨日のことなのですが」
「……うん」
ついに来てしまった話題に唇を噛む。
俺には謝ることしかできない。
いっそこの家を出ていくことを言った方が、リィクは安心するだろうか。
「同じことを、今日はしてくださらないのでしょうか?」
「え?」
「もう私に触れてはくださらないのですか?」
驚きで目を大きく見開く。
リィクが言ったことを、すぐには理解できなかった。
恥ずかしそうに頬を染めるリィクがまた口を開く。
「……あんな感覚は初めてでした。ヨリト様にもっと、教えてもらいたいのです」
「リィク……」
好きな人が恥ずかしそうに頬を染めながら俺を求めている。
すぐにでも触りたい欲求をなんとか抑えて、俺はリィクに言葉を返した。
「リィクがそう言ってくれるのは嬉しいよ。すごく。でも俺の世界では、リィクが望んでいることは大切な人とするものなんだ。俺はリィクが好きだよ。昨日あんなことしておいて都合がいいのはわかってるけど、リィクに大切な人ができた時にその人とやるべきだ」
俺の言葉にリィクは少し目を伏せた。
長いまつ毛が瞳を隠す。
何も言わない代わりに、白い手が俺の手を包む。
リィクが俺に触るのは珍しく、その行動に驚きながらも言葉を待った。
「ヨリト様のお気持ち、とても嬉しいです。私もヨリト様をお慕いしております。ヨリト様はいつか元の世界に帰ってしまうかもしれない。優しいヨリト様に余計な心配をお掛けしたくない。その思いで気持ちを伝えることは諦めていました。けれど、私の大切な人は、ヨリト様です」
握られた俺の手が優しく包まれる。
大切そうに握る手が愛しさを伝えてくるのがわかった。
「俺もリィクは次期長だから、我慢してた。リィクが同じ気持ちで、すげぇ嬉しい」
空いている方の手をリィクの首筋に差し入れる。
背の高いリィクに合わせて背伸びをすると、桃色の唇に吸い付いた。
軽く押し付けて、柔らかな感触を堪能する。
リィクとキスをしている。リィクが俺のことを好きだと言う。
叶わないと思っていた状況に、幸福感と興奮が押し寄せた。
ちゅっと音をたてて吸った後に唇を離し、浮かせていた踵を下ろす。
「まずは夕飯食べようか。冷めちゃうし」
今すぐリィクに触りたい気持ちはあるが、せっかく用意してくれた食事が冷めてしまう。
頷きが返ってくると思っていたのに、リィクは少しも体を動かさなかった。
「……今では駄目ですか?今がいいのです、ヨリト様」
躊躇いながら期待を込めてそう言ったリィクに、俺は首を横に振ることなんてできなかった。
麻布で出来た袋を机に置く。
中には少しの着替えと食料、長から貰ったこの世界の金貨が入っている。
リィクの家を去ってどうするか、俺は未だ決めかねていた。
長の元に行ってひとりで暮らす家を借りるのが一番いいが、もし断られたらこの村を出なくてはならないかもしれない。
村から出たこともなく、この世界のことを何も知らない俺が別の村にたどり着ける可能性は低い。
けれどもしそうなった時のことを考えて、怪我に備えた薬も持った。
リィクともう会えなくなるかもしれない。
自分の行動が原因なのに、リィクの顔が浮かんでは胸が痛む。
昨夜あんなことをしてしまったことを責められるかと思ったのに、リィクは何も言わなかった。
何も言われはしなかったが、リィクは俺と目を合わせないし、普段通りとはいかなかった。
それは俺も同じだから、ふたりのやりとりはぎこちないものだった。
リィクはもう俺の顔なんか見たくないかもしれない。どうしてあんなこと、と後悔が押し寄せる俺はため息を吐きながら俯く。
どんよりとした俺の部屋に、パンが焼けるいい匂いが漂ってきた。
きっとリィクが夕飯の用意をしてくれているのだろう。
リィクとの最後の食事か。この夕飯後、リィクが寝てから家を出るつもりだった。
上手くいくだろうかと考えていると、部屋の扉がノックされる。
急いで袋を机の下に隠すと、扉を開けた。
「ヨリト様、食事の準備ができました」
「ありがとう、リィク」
どこか気まずそうなリィクに取ってつけた笑みを返す。
目的を果たしたリィクはすぐに背を向けるかと思ったのに、何故か俺の前から動かなかった。
「えっと、どうかした?」
ソワソワとしたいつもとは様子が違うリィクに首を傾げる。
もしかして俺が出ていくことに気づいてしまったのかと焦ったが、リィクは躊躇いながらも口を開いた。
「ヨリト様、その……」
「うん」
「昨日のことなのですが」
「……うん」
ついに来てしまった話題に唇を噛む。
俺には謝ることしかできない。
いっそこの家を出ていくことを言った方が、リィクは安心するだろうか。
「同じことを、今日はしてくださらないのでしょうか?」
「え?」
「もう私に触れてはくださらないのですか?」
驚きで目を大きく見開く。
リィクが言ったことを、すぐには理解できなかった。
恥ずかしそうに頬を染めるリィクがまた口を開く。
「……あんな感覚は初めてでした。ヨリト様にもっと、教えてもらいたいのです」
「リィク……」
好きな人が恥ずかしそうに頬を染めながら俺を求めている。
すぐにでも触りたい欲求をなんとか抑えて、俺はリィクに言葉を返した。
「リィクがそう言ってくれるのは嬉しいよ。すごく。でも俺の世界では、リィクが望んでいることは大切な人とするものなんだ。俺はリィクが好きだよ。昨日あんなことしておいて都合がいいのはわかってるけど、リィクに大切な人ができた時にその人とやるべきだ」
俺の言葉にリィクは少し目を伏せた。
長いまつ毛が瞳を隠す。
何も言わない代わりに、白い手が俺の手を包む。
リィクが俺に触るのは珍しく、その行動に驚きながらも言葉を待った。
「ヨリト様のお気持ち、とても嬉しいです。私もヨリト様をお慕いしております。ヨリト様はいつか元の世界に帰ってしまうかもしれない。優しいヨリト様に余計な心配をお掛けしたくない。その思いで気持ちを伝えることは諦めていました。けれど、私の大切な人は、ヨリト様です」
握られた俺の手が優しく包まれる。
大切そうに握る手が愛しさを伝えてくるのがわかった。
「俺もリィクは次期長だから、我慢してた。リィクが同じ気持ちで、すげぇ嬉しい」
空いている方の手をリィクの首筋に差し入れる。
背の高いリィクに合わせて背伸びをすると、桃色の唇に吸い付いた。
軽く押し付けて、柔らかな感触を堪能する。
リィクとキスをしている。リィクが俺のことを好きだと言う。
叶わないと思っていた状況に、幸福感と興奮が押し寄せた。
ちゅっと音をたてて吸った後に唇を離し、浮かせていた踵を下ろす。
「まずは夕飯食べようか。冷めちゃうし」
今すぐリィクに触りたい気持ちはあるが、せっかく用意してくれた食事が冷めてしまう。
頷きが返ってくると思っていたのに、リィクは少しも体を動かさなかった。
「……今では駄目ですか?今がいいのです、ヨリト様」
躊躇いながら期待を込めてそう言ったリィクに、俺は首を横に振ることなんてできなかった。
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