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想像もできないのです
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しゃがみ込んだ植物の中で、少し青臭く、すっとした清涼感のある匂いを吸い込む。
茎の部分を掴みゆっくりと力を入れると、朝露に濡れた緑を土から引き抜いた。
俺がこの世界に来てから一週間が経っていた。
階段から落下するというそれなりの大怪我も、リィクの薬のおかげでほとんど痛みを感じないほどに治っている。
俺の世界のことを研究したいという長と話す以外、俺のするべきことは特にないため、薬草を育て薬を作っているリィクの手伝いをして過ごしていた。
「ヨリト様、痛みがあればすぐにお休みになられてください」
「リィク、もう大丈夫だって。ほとんど治ってるよ」
リィクは今でも俺を客人として丁重に扱ってくれる。
ありがたいことだけど、最近はそれが少し寂しい。
「俺の怪我が良くなってるのはリィクがよく知ってるだろ」
「それはそうですが……」
「この村一番の薬師が良くなってるって言うんだから間違いないって」
俺の言葉にリィクは少し困ったような笑みを見せる。
俺も安心させるために笑顔を返すと、それ以上何か言われることはなかった。
最初はこんなに美しい人と、俺の常識が通じない世界で暮らすことが不安だったけど、今ではこうしたリィクとのなんでもない時間を心地よく思っている。
俺から少し離れたところで薬草の葉の状態をチェックするリィクをぼんやりと眺めていると、耳にかけられた銀色の髪が風でさらりと揺れた。
真面目に作業を続けるリィクに、俺もまた植物の中にしゃがむ。
森から時々聞こえる動物の鳴き声と、鳥のさえずり、リィクの姿。
いつの間にかこんな和やかな時間が続いて欲しいと思うようになっていた。
今では日本に帰らなければという意識もなく、代わりにリィクと一緒にいたい欲望が日に日に強くなっている。
この世界にもリィクにもだいぶ慣れてきたなと思いながら薬草を摘んでいると、家の扉が開いた音で視線を上げた。
見ると男女のエルフが神妙な面持ちで家の前に立っている。
こうしてリィクの家に薬を求めて人がやって来るのを何度か見ている。
しかしふたりの男女というのは初めてのことで、なんだか様子もいつもと違う。
どうしたんだろうと思いながら見ていると、家の中から出てきたリィクが小さな瓶をふたりに手渡した。
ふたりは感謝の言葉を伝え一礼すると去っていく。
ふたりを見送っていたリィクの視線が俺と合うと、リィクはゆっくりと俺の方へ近づいてきた。
「どうかした?」
「いえ、何も問題はございません」
「なんかやけに神妙な感じだったけど」
「あのふたりは夫婦でして、必要な薬を渡しておりました。ニンゲンという種族がどうかはわかりませんが、エルフは性的な興奮状態になるのが難しく、そういった気分になることが少ないのです。ですので家族が欲しいと考えている人々に、飲むと興奮状態になれる薬を渡しているのです」
あの小瓶の中の薬は媚薬だったのか。
リィクから聞く初めての情報に、俺の頭は少し混乱する。
「へぇ、そっか、そうなんだ……因みに、リィクは、そういう気分になったことあるの?」
思わず口から出てしまった言葉に後悔する。
いくら少しお互いに慣れてきたと言っても、突然こんなことを聞くなんて失礼だろ。
しかしリィクは、なんてことはないように言葉を返した。
「いえ、私はまだありません。なんというか、自分がそういう状態になることも想像ができません」
リィクは性的興奮を感じたことがないのか。
その事実に俺は、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
こんなに美しく、神秘的な程に清いリィクが乱れた姿はどんなのだろうと、想像してしまいそうな頭を必死に落ち着かせた。
茎の部分を掴みゆっくりと力を入れると、朝露に濡れた緑を土から引き抜いた。
俺がこの世界に来てから一週間が経っていた。
階段から落下するというそれなりの大怪我も、リィクの薬のおかげでほとんど痛みを感じないほどに治っている。
俺の世界のことを研究したいという長と話す以外、俺のするべきことは特にないため、薬草を育て薬を作っているリィクの手伝いをして過ごしていた。
「ヨリト様、痛みがあればすぐにお休みになられてください」
「リィク、もう大丈夫だって。ほとんど治ってるよ」
リィクは今でも俺を客人として丁重に扱ってくれる。
ありがたいことだけど、最近はそれが少し寂しい。
「俺の怪我が良くなってるのはリィクがよく知ってるだろ」
「それはそうですが……」
「この村一番の薬師が良くなってるって言うんだから間違いないって」
俺の言葉にリィクは少し困ったような笑みを見せる。
俺も安心させるために笑顔を返すと、それ以上何か言われることはなかった。
最初はこんなに美しい人と、俺の常識が通じない世界で暮らすことが不安だったけど、今ではこうしたリィクとのなんでもない時間を心地よく思っている。
俺から少し離れたところで薬草の葉の状態をチェックするリィクをぼんやりと眺めていると、耳にかけられた銀色の髪が風でさらりと揺れた。
真面目に作業を続けるリィクに、俺もまた植物の中にしゃがむ。
森から時々聞こえる動物の鳴き声と、鳥のさえずり、リィクの姿。
いつの間にかこんな和やかな時間が続いて欲しいと思うようになっていた。
今では日本に帰らなければという意識もなく、代わりにリィクと一緒にいたい欲望が日に日に強くなっている。
この世界にもリィクにもだいぶ慣れてきたなと思いながら薬草を摘んでいると、家の扉が開いた音で視線を上げた。
見ると男女のエルフが神妙な面持ちで家の前に立っている。
こうしてリィクの家に薬を求めて人がやって来るのを何度か見ている。
しかしふたりの男女というのは初めてのことで、なんだか様子もいつもと違う。
どうしたんだろうと思いながら見ていると、家の中から出てきたリィクが小さな瓶をふたりに手渡した。
ふたりは感謝の言葉を伝え一礼すると去っていく。
ふたりを見送っていたリィクの視線が俺と合うと、リィクはゆっくりと俺の方へ近づいてきた。
「どうかした?」
「いえ、何も問題はございません」
「なんかやけに神妙な感じだったけど」
「あのふたりは夫婦でして、必要な薬を渡しておりました。ニンゲンという種族がどうかはわかりませんが、エルフは性的な興奮状態になるのが難しく、そういった気分になることが少ないのです。ですので家族が欲しいと考えている人々に、飲むと興奮状態になれる薬を渡しているのです」
あの小瓶の中の薬は媚薬だったのか。
リィクから聞く初めての情報に、俺の頭は少し混乱する。
「へぇ、そっか、そうなんだ……因みに、リィクは、そういう気分になったことあるの?」
思わず口から出てしまった言葉に後悔する。
いくら少しお互いに慣れてきたと言っても、突然こんなことを聞くなんて失礼だろ。
しかしリィクは、なんてことはないように言葉を返した。
「いえ、私はまだありません。なんというか、自分がそういう状態になることも想像ができません」
リィクは性的興奮を感じたことがないのか。
その事実に俺は、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
こんなに美しく、神秘的な程に清いリィクが乱れた姿はどんなのだろうと、想像してしまいそうな頭を必死に落ち着かせた。
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