こんなに甘くていいのかな?

たがわリウ

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見つかった探しもの

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 ふぅ、と小さく息を吐く。重い足を動かしエントランスに入った。もしかしたらもう帰ったかもしれないと少し期待していたが、デスクにはきちんと乙部さんがいた。
 朝と同じように笑みを向けられて、また罪悪感のような気まずさが生まれる。

「おかえりなさいませ、池田様」
「ただいまです」

 私も明るい表情を意識して会釈したけど、引きつった顔になっていないか不安だった。
 笑みを崩さない乙部さんにひとまず安心する。

「今朝お探しだったピアスがございました。こちらでお間違いないでしょうか?」
「え、見つかったんですか?」

 私のそばまで近づいた乙部さんは両手で何かを差し出す。小さな透明袋に入っているのは、まぎれもなく私が探していたピアスだった。
 わざわざ袋に入れてくれたところに乙部さんの気遣いを感じる。

「すごい、これです、これ!」
「お探しの物が見つかって良かったです」
「あれ、でもこれ……」

 このピアスは私が探していた物とデザインは同じだ。でもよく見ると、以前付いていたはずの傷がなかった。私の物だったらフェイクパールの一部に傷が付いているはず。
 デザインは同じでも私の物より綺麗で、まるで新品のようだった。

「これ、私のじゃないです……ここに傷が付いていたはずなので」
「そうでしたか……」

 受け取ろうとしていた手を下ろす。差し出されたピアスを受け取らない私に、何故か乙部さんはそのままの体勢を崩さなかった。

「これはお伝えするつもりはなかったのですが……実は池田様が探している物と同じ商品を購入したのです。どうか受け取っていただけないでしょうか」
「え、わざわざ新品を買ってくれたんですか?」
「はい……差し出がましい行いだとはわかっておりますが、どうしてもお渡ししたく……」
「あ、じゃあ代金お支払いしますよ!」
「いえ、私が勝手にしたことですのでお気になさらないでください」

 新品ということは、このピアスは乙部さんが個人的に買ってくれたということだろう。
 コンシェルジュとしてここにいるだけの乙部さんに、個人のお金を使わせてしまったのを、申し訳なく思う。
 けれど腕を引く様子を見せない彼に、私はためらいながらもピアスを受け取った。

「ありがとうございます……ほんとに私の物と同じです。よくピアスまで見てますね」

 言葉だけでしか説明していなかったから違う物を買う可能性だってあるのに、手の中にあるのは同じピアスだ。
 以前何回か付けていたから、その時に実際に見ていたとしか思えなかった。

「池田様にとてもお似合いだったので、印象に残っておりました」

 誰もが見惚れてしまいそうなほど整っている顔が柔らかな笑みを浮かべ、私に向けられる。
 こんな状況、言われ慣れていない言葉に胸が高鳴ってもおかしくないはずなのに、どこか小さな違和感を覚えた。
 どれだけ乙部さんがコンシェルジュとして有能であっても、個人的にお金を使うのは普通なのだろうか。ただの住民の私にここまでするのは、コンシェルジュとして当然なのだろうか。
 考えても答えはわからないが、本人に聞くこともできない。

「ありがとう、ございます……」

 つかえながらもピアスのお礼を伝える。「とんでもございません」と微笑む彼に抱いた疑問を悟られないよう、ぎこちなく微笑んだ。
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