37 / 37
番外編
if
しおりを挟む
2022-04-01公開 現パロです。
指を動かしキーボードを叩く。膝の上のノートパソコンを覗き込み、順調です、と打ち込んだ。
問題ないか? と届いた上司からのメールに返事をする。送信完了と同時に、休憩室の扉が開いた。反射的に振り返る。
「ここにいたのか、ユキ」
「お疲れ様です。すみません、もしかしてお探しでしたか?」
「いや、急用というわけではない」
赤い髪の男性が俺の隣へ腰掛ける。男性とは反対に腰を浮かそうとした俺は、すぐに手で制された。このままここに居ていいようなので、取り敢えずノートパソコンは閉じテーブルに置く。
隣に座った男性は少し前から仕事で関わっている人物だ。整った顔だち、品の良い立ち振る舞い、上等なスーツ。
まるで王子様のような男性──オーウェンは、異国の本物の王子だ。
オーウェンの国と取引する商品のために実際に王子が来日し、より良いものを作るために協力していた。
本当はチームで動いているのだが何故か俺はすぐに気にいられ、萎縮しきっているチームメンバーから王子とのやりとりを任されている。最初は俺も同じように緊張していたが何故かディナーに誘われたりしているうちに、ただならぬオーラを撒き散らすオーウェンにも慣れてきていた。
「これを食べないか?」
「え、これ、プリンですか?」
オーウェンが差し出したのは会社近くのコンビニで売っているプリンだった。何度か買ったことがある見慣れた物に驚く。俺が呆気に取られているうちに、オーウェンはふたつのプリンをテーブルに置いた。
「どうしたんですか、これ?」
「以前ユキが食べていたのを思い出してな。好んでいたように見えたが、違ったか」
「いえ、好きです……王子も、あ、オーウェン様も食べたかったんですか」
王子と口にしてしまい、すぐに言い直す。他国にいる時くらいは王子としてよりも個人として接して欲しいと言われていた。
「最近ディナーの誘いを受けて貰えないからな。これならユキも好んでいるようだし、受け取ってもらえるだろうと思ったが……」
何故、仕事とは関係ない食事に誘われるのか分からなかったが、最初の頃は異国の王子との食事に緊張しながらも浮かれていた。しかし何度かディナーに行くうちに、罪悪感のようなものも生まれてしまった。
オーウェンとの食事は、会話は多くなくても毎回楽しい。食事は俺の好みに合わせてくれるし、すべてが完璧だってわかる。しかし、完璧だからこそ、俺はしり込みするようになった。
食事する店のグレードが、俺には合わない。食事代を受け取って貰えない。するとどんどん、贅沢な食事に連れていってもらうのが居心地悪いものになった。
「……ありがとうございます。あ、たしかそこにスプーンが」
休憩室の端に行き、ウエットティッシュ等と一緒に置いてある紙スプーンを持ってくる。
スプーンとプリンの封を開ける俺に倣い、オーウェンもビリッと袋を切る。ふたりで同時にプリンを口に運んだ。
「美味いな」
「美味しいですよね。ちょうど甘いもの欲しかったので、嬉しいです」
キッチリと背筋を伸ばしプリンを食べるオーウェンに、少し微笑ましいような気持ちになる。やっぱり会話は少ないけど、オーウェンとの時間が好きだなと、自然と思っていた。
またスプーンを口に運ぶ。なめらかな食感と卵の優しい味わいに目を細めた。
指を動かしキーボードを叩く。膝の上のノートパソコンを覗き込み、順調です、と打ち込んだ。
問題ないか? と届いた上司からのメールに返事をする。送信完了と同時に、休憩室の扉が開いた。反射的に振り返る。
「ここにいたのか、ユキ」
「お疲れ様です。すみません、もしかしてお探しでしたか?」
「いや、急用というわけではない」
赤い髪の男性が俺の隣へ腰掛ける。男性とは反対に腰を浮かそうとした俺は、すぐに手で制された。このままここに居ていいようなので、取り敢えずノートパソコンは閉じテーブルに置く。
隣に座った男性は少し前から仕事で関わっている人物だ。整った顔だち、品の良い立ち振る舞い、上等なスーツ。
まるで王子様のような男性──オーウェンは、異国の本物の王子だ。
オーウェンの国と取引する商品のために実際に王子が来日し、より良いものを作るために協力していた。
本当はチームで動いているのだが何故か俺はすぐに気にいられ、萎縮しきっているチームメンバーから王子とのやりとりを任されている。最初は俺も同じように緊張していたが何故かディナーに誘われたりしているうちに、ただならぬオーラを撒き散らすオーウェンにも慣れてきていた。
「これを食べないか?」
「え、これ、プリンですか?」
オーウェンが差し出したのは会社近くのコンビニで売っているプリンだった。何度か買ったことがある見慣れた物に驚く。俺が呆気に取られているうちに、オーウェンはふたつのプリンをテーブルに置いた。
「どうしたんですか、これ?」
「以前ユキが食べていたのを思い出してな。好んでいたように見えたが、違ったか」
「いえ、好きです……王子も、あ、オーウェン様も食べたかったんですか」
王子と口にしてしまい、すぐに言い直す。他国にいる時くらいは王子としてよりも個人として接して欲しいと言われていた。
「最近ディナーの誘いを受けて貰えないからな。これならユキも好んでいるようだし、受け取ってもらえるだろうと思ったが……」
何故、仕事とは関係ない食事に誘われるのか分からなかったが、最初の頃は異国の王子との食事に緊張しながらも浮かれていた。しかし何度かディナーに行くうちに、罪悪感のようなものも生まれてしまった。
オーウェンとの食事は、会話は多くなくても毎回楽しい。食事は俺の好みに合わせてくれるし、すべてが完璧だってわかる。しかし、完璧だからこそ、俺はしり込みするようになった。
食事する店のグレードが、俺には合わない。食事代を受け取って貰えない。するとどんどん、贅沢な食事に連れていってもらうのが居心地悪いものになった。
「……ありがとうございます。あ、たしかそこにスプーンが」
休憩室の端に行き、ウエットティッシュ等と一緒に置いてある紙スプーンを持ってくる。
スプーンとプリンの封を開ける俺に倣い、オーウェンもビリッと袋を切る。ふたりで同時にプリンを口に運んだ。
「美味いな」
「美味しいですよね。ちょうど甘いもの欲しかったので、嬉しいです」
キッチリと背筋を伸ばしプリンを食べるオーウェンに、少し微笑ましいような気持ちになる。やっぱり会話は少ないけど、オーウェンとの時間が好きだなと、自然と思っていた。
またスプーンを口に運ぶ。なめらかな食感と卵の優しい味わいに目を細めた。
35
お気に入りに追加
958
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~
トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。
しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。
魔性の男は純愛がしたい
ふじの
BL
子爵家の私生児であるマクシミリアンは、その美貌と言動から魔性の男と呼ばれていた。しかし本人自体は至って真面目なつもりであり、純愛主義の男である。そんなある日、第三王子殿下のアレクセイから突然呼び出され、とある令嬢からの執拗なアプローチを避けるため、自分と偽装の恋人になって欲しいと言われ─────。
アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)
R18/短編/それなり転生平凡貴族はキラキラチート王子に娶られてしまった
ナイトウ
BL
キラキラチート王子攻め、平凡貴族受け
傾向: 隠れS攻め、甘々、野外、抓り、噛みつき、無自覚M調教
—————-
生まれて初めてだ。
人を眩しいと思ったのは。
天使が上からバサバサ光を振りまいてるんじゃないかってくらい。
そんな、目をすがめたくなるくらいの美貌とオーラで輝いてる人は、
「初めまして愛しい人。私の花嫁。」
晴れの舞台に俺の手をとってそんなことを宣うというとんでもないやらかしをぶちかました。
まて、お前の花嫁はそこにいる俺の弟だ。
—————-
個人企画「攻め様ダービー🏇」の出場作品です。
本作の攻め様を気に入っていただけたら★をポチっとお願いします!
※企画が気になる方は近況ボード参照。話には全く関係ありません。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
まさかの現パロが!
嬉しすぎます!今日まで気が付かなかったのが悔やまれます…
番外編、オーウェンとユキの何気ない日々が大好きです!
現パロ気に入ってもらえて嬉しいです!書いて良かったです……!番外編はほんとに何気ない日常の話ですが、そちらの感想までありがとうございますー!
現パロ最高ッスね
ありがとうございます!現パロ需要あるのか謎でしたが気に入ってもらえて嬉しいッス!
お互いの隙間をピッタリと埋めあえる、とっても素敵な2人ですね!キュンが止まりません〜!
素敵な作品をありがとうございました!
まさにそういった関係を目指しているので本当に嬉しいです!こちらこそ感想ありがとうございました!