誓いを君に

たがわリウ

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番外編

体にこもる熱

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 慣れないきらびやかで華やかな場と、人と話すことに疲れてしまった俺は、会場の壁際で休憩していた。
 主役のひとりでもある俺にちらちらと視線は向けられるが、皆遠慮して話しかけてはこない。
 普段は使われることのない城の大きなホールは、花やシャンデリアの光で上品に彩られている。
 そんな美しい会場で、王族と関わりのある人物や貴族や金持ち相手に、俺とオーウェンの婚約の報告、お披露目を目的としたパーティーが開かれていた。
 城の使用人総出で豪華な料理が運ばれ、高級そうなシャンパンの入ったグラスが足されていく。
 毎年オーウェンの誕生日パーティーは開かれているだろうけど今回はまた違うパーティーだからか、使用人たちの気合の入りようは俺にも伝わってきた。
 何度か話したことのある使用人も、挨拶をされたことがあるだけの使用人も、そばを通ると休憩している俺に心配そうな視線を送ってくれた。
 ちゃんとオーウェンに相応しい人間だと認めてもらおうと頑張って挨拶回りをしていたのだが、今まで接してこなかったような見るからにお金を持っていそうな男性や女性たちを相手にするのは、予想以上に疲れるものだった。パーティー用の高そうなスーツやドレスを身に纏った人たちは俺とは違い、そういった服を着なれていることがわかる。
 そばにいてくれるだけで心強いセスは俺のために水を取りに行っている。
 今はオーウェンひとりに参加者の対応を任せているから、セスに水をもらったらまたすぐに戻るつもりだった。

「お嬢さん、疲れてるでしょ? これ飲んで。王子には内緒にしておくから」

 肌がざわつくようなねっとりとした声が聞こえて嫌な予感を覚えながら顔を向ける。
 少し離れたところにいる若いメイドに、中年の男性がシャンパンを押し付けていた。

「いえ、結構です」
「そんなこと言わずに。皆には黙っておくから、ね?」
「そんな、困ります……」

 あきらかに困っているメイドに強引に男性はシャンパンを押し付ける。
 口許のにやにやとした笑みが下品で、その笑みを向けられている当人ではない俺でも十分に嫌な気持ちになる。
 助けを求めるべきか、でも他の人も忙しそうでどうしようかと困っているメイドに近づくため急いで足を踏み出した。

「失礼、そのシャンパン美味しそうですね。いただいてもいいですか?」

 笑顔を張り付けて現れた俺にメイドは緊張と少しの安心を見せ、男性は邪魔が入ったことによって顔を曇らせた。

「これはこれは、ユキ様。いや、ここにいるのにシャンパンも飲めないこの子が不憫でね。このシャンパンはもうぬるくなってしまっているので、冷たいものをお持ちしますよ」
「それなら丁度よかった、冷たいものは苦手でして」

 男性がまた誤魔化す前に短い指のまわったグラスを強引に引き抜き、いっきに煽る。
 男性は顔を歪めて舌打ちをすると逃げるように離れていった。

「ユキ様、申し訳ございません」
「気にしないで。あんなやつに絡まれるなんて嫌だったでしょ」

 俺の手を煩わせてしまったと顔を青くしたメイドが少しでも安心するよう優しく微笑む。
 立場的に抵抗することができない彼女はやっぱり恐怖があったのか、指先が微かに震えていた。

「ちょっと休憩してきたら? 大丈夫? 俺、誰か呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいのか……」
「無理はしないでね」

 これ以上心配し続けても彼女を困らせるだけだろうと、周りにさっきの男性がいないことを確認して離れる。
 あとでディランに伝えておこうと思って歩いていると、じわじわと体温が上がっていくような感覚を覚え始めた。
 体調が悪くなったのだろうかと思ったが、風邪のときのような寒気は一切ない。
 おかしいなと思っているうちにどんどん熱くなる体は重くて、普通ではないことに気づくと会場の扉に急いだ。

「ユキ様、いかがなさいました?」
「ちょっと座りたいから一旦ここから出るよ」
「かしこまりました」

 大きな扉のそばに控えていた使用人は出ていこうとした俺に不思議そうな顔をしたが、言葉を交わすと直ぐに扉を開けてくれた。
 廊下の空気は会場よりも少し冷たいもので、火照る体に気持ち良く染み入る。
 体は熱くて意識もぼんやりとしてきたことで異常な状態だとわかっているのだが、覚えのある感覚にとりあえず人と会わないような場所まで離れたくて足を動かす。
 使用人やこの城にいる人の多くは会場に集まっているため、少し歩けば周りに人の気配はなくなった。
 足どりがふらふらとし、よろめいた体を支えるため壁に寄りかかる。
 もうこれ以上は進めないほど足が重くて、壁に寄りかかったままずるずると座り込んだ。

「ユキ様!」

 ばたばたと煩い足音がして直ぐに誰かが俺のことを覗きこむ。
 ぼんやりとした視界の先で泣きそうなセスが眉を下げていた。

「お体の具合が悪いのですか? すぐに医師をお呼びします」
「セス、まって。すぐに治るから、誰にも言わないで」
「ユキ様……ごめんなさい」

 俺の願いを聞いたセスは少し迷ったあと、俺に謝るともと来た方へ走っていった。
 こんな姿を誰にも見られたくない。
 そうは思ってももうひとりでは立ち上がることもできず、俺はそのまま座り込んでいた。



「ユキ!」
「オーウェン……?」

 勢い良く肩が掴まれる。
 急いで来たのだろうオーウェンは少し息を乱していて、心配そうに俺を見つめた。

「早く戻らないと……」
「何を言っている。ユキがこんな状態で戻れるわけがないだろう。医師を呼ぶのが嫌ならせめて部屋で横になろう」

 オーウェンが俺の肩に置いていた手を腕に滑らせる。
 普段であればなんとも思わないくらいの接触なのに、電流の走るような刺激に襲われた俺は目を閉じて肩を震わせた。
 そんな俺の反応にオーウェンが驚いたのが空気で伝わる。

「まって、原因はわかってるんだ。さっき会場でメイドにシャンパンを押し付けてる人がいたから奪って飲んだらこんな状態になって……」

 こんな状態、と言った俺の体全体、そして腰の辺りに視線が落とされる。
 恥ずかしいけれど、ひとりで歩いている何の刺激もないときから、そこは硬くなりはじめていた。
 服の上からでも押し上げて主張しているそれに、自分の意思とは関係なく反応する体に、不安と恥ずかしさと恐怖がない交ぜになって泣きそうになる。

「媚薬を混ぜられていたのか。セス、このことをディランに報告しておいてくれ。ユキ、すまない触るぞ」

 状況を理解したオーウェンは素早く後ろにいるのであろうセスに指示を出す。
 俺に断りをいれてから、体が優しく抱き上げられた。
 なるべく刺激しないようにという気遣いが伝わる柔らかな力にも関わらず、むずむずと腹の奥が疼く。
 どうしようもない熱に浮かされた俺は、抱き上げるオーウェンの腕に弱々しくしがみついた。
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