誓いを君に

たがわリウ

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番外編

黒い感情

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 オーウェンがベッドに入るタイミングは毎日まちまちだ。
 俺と一緒のときもあれば、遅くまで仕事を片付けていて俺が先にひとりで寝ているときもある。
 一緒に寝るようになってからはじめは、なるべくオーウェンのことを待っていた方がいいのだろうと思っていたが俺が待っていると先に休んでいいと何度も言われ、それでも待っていると途中で仕事を切り上げたりとオーウェンが気にするため、今ではオーウェンが遅くなりそうなら先に休ませてもらっている。
 今日も俺が先にベッドに横になっていると、今日分の仕事を終えたのかオーウェンが静かにベッドに入ってきた。
 横を向いていた俺を後ろから抱き締め、腕を俺の腹にまわす。

「お疲れ」
「起こしたか?」
「ううん」

 静かな夜に紛れるかのように静かな声がポツリと落ちる。
 実はベッドでオーウェンが来るのを待っていたのだが、それは言わずに寝返りをうちオーウェンへと体を向けた。

「最近も忙しいの?」
「いや、落ち着いてきている」
「そっか」

 俺が体を寄せるとオーウェンはさっきよりも密着するように腕を背中にまわす。
 オーウェンの鎖骨の辺りにすり寄ると石鹸とオーウェンの匂いがして落ち着いた。
 オーウェンは優しく目を細めるとゆっくりと顔を近づかせる。
 目を閉じて待つ俺に柔らかなキスが降ってきた。
 唇を合わせるだけのキスは数秒経つと終わりまたふたりの顔が離れていく。
 そこで俺はまたか、とオーウェンに気づかれないよう少しだけ眉を寄せた。

「おやすみ、ユキ」

 オーウェンは俺の様子に気づくことなく眠るために瞼を下ろす。
 その和やかな顔を見ながらも俺の胸はチクチクと痛んでいた。
 オーウェンと婚約した日から今日で十日が経つ。
 それなのに、あの日からオーウェンは俺のことを抱こうとしなかった。
 婚約する前より気軽な体の触れ合いは増えたしキスもするようになった。毎晩同じベッドで眠っている。
 想いが通じあったわけだし、正式に婚約したわけだしなんというか俺はキス以上のことをまたオーウェンとしたいと思っている。
 しかし毎晩ベッドで期待している俺とは違い、オーウェンはそういう雰囲気にさせることもなかった。
 言葉にしないと伝わらないし、何度も話してみようと思った。
 けれどその度に、まだそんなに日数が経っているわけではないし、オーウェンは疲れているのかもしれない、この世界の人はそんなに体を重ねる行為をしないのかもしれない、と芽生えた不安を押しこんでしまっていた。

「おやすみ……」

 こんな期待を持っているのは自分だけなのだろうか。
 今日もなにも変わらないまま俺も目を閉じた。



 自分の部屋のソファに座っている俺の耳に、なにやら聞き慣れない賑やかな声が入ってくる。
 やめろ、と静止する声と、いいだろ折角だし、と明るい声が部屋のすぐ外で聞こえたかと思うとノックもなしに部屋の扉が開かれた。

「失礼するよ、君がこいつの婚約者? はじめまして」
「止めたんだが、すまない、ユキ」

 入ってきたのはため息を吐くオーウェンと、肌の焼けた快活そうな青年だった。
 歳は俺やオーウェンと近そうに見える。

「そろそろ俺には紹介してくれてもいいだろ。何年の付き合いだよ」
「ユキを困らせなくなかった。現に今ユキが困っているだろう」

 なんだよ、と言いながら青年はオーウェンを肘で小突く。
 王子であるオーウェンへの軽い態度、そんな青年の態度を何も気にしていないオーウェンに、ふたりが親しい間柄であることはよくわかった。

「ユキ、こいつは隣の国の王子だ」
「よろしく。オーウェンとは小さい頃からの友人でずっとこんな感じ」
「幸です、宜しくお願いします」

 ずっとこんな感じ、と言いながら青年はオーウェンの肩に腕を回す。
 それを気だるげにオーウェンははらった。

「邪魔しちゃってごめんね、オーウェンのことよろしく」

 挨拶が済むともう気はすんだのか、すぐに青年はオーウェンとともに部屋を出ていく。
 ばたりと扉が閉まりふたりの姿が消えると、さっきの賑やかさが嘘のように部屋は静寂を取り戻した。
 オーウェンの肩にまわされた腕、親しみからくるオーウェンの雑な対応を思い出すと、胸に嫌な感情が顔を出す。
 やれやれとため息を吐くオーウェンも、ああやって振り回されるオーウェンもはじめて目にした。
 俺の知らないオーウェンをあの人はたくさん知っているのかと思うと、黒い感情は大きくなる。
 あなたによろしくと言われなくてもよろしくするよと思ってしまう自分が嫌になった。
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