14 / 37
本編
嫌な予感
しおりを挟む
「オーウェン王子はお昼頃にはお帰りになるそうですよ」
「そうなんだ。意外と早いね」
優しい光の降り注ぐ廊下を歩いているとセスが後ろから声を投げる。
昨晩からオーウェンは公務で城を留守にしているらしく、今朝起きたときにセスから置き手紙を受け取っていた。
公務で城を留守にすることが書いてあった置き手紙はオーウェンがわざわざ自分で書いたものだったため、もっと時間がかかる公務で今日は帰ってこないのかと思っていた。
「ユキ様が来てからは日を跨いでのお留守は初めてなので、心配されているのではないでしょうか」
「別に俺はいつも通りの生活なだけだし、心配なのはオーウェンの方だけどなぁ」
少し前まではオーウェンに数日会わないことも珍しくはなかったし、声を交わさないことだって俺の中では普通だった。
しかし今ここにオーウェンがいないと思うと少し寂しさを感じるのは、あのときとは抱いている想いが違うからだろうか。
城の入り口へと続く角を曲がると聞きなれない高い声が耳にはいる。
それは鋭さを持っているため、胸をざわめかせながら声の方へと足を進めた。
「いいから早くオーウェン様のもとに来た男を出しなさい」
「いかに貴方がそうおっしゃいましても、王子の許可がなくては致しかねます」
「じゃあオーウェン様をお呼びして」
「ですから今は手が離せない状況でして」
なにやら和やかさとはほど遠い雰囲気の城の入り口に近づくと、オーウェンとは別に城に残っているディランが豪華なドレスを身にまとった二十代くらいの女性をなだめていた。
十分に手入れのされた艶のある髪、上品な化粧の可愛らしい顔、後ろに控えるふたりの使用人に、その女性が一般人ではないことはすぐにわかった。
「ユキ様……」
「大丈夫」
後ろにいるセスが俺を心配しているのがわかる。
呼ばれた名前には、今すぐに引き返そうという提案が含まれているのもわかっていた。
それでもまた一歩足を踏み出す。
「ディランさん」
ふり返ったディランの普段は優しい笑み以外にあまり変えられることのない表情が、どうして来てしまったのかと伝えるように曇る。
ディランがここまで感情を顔に出すということは、そうとう厄介な相手であることはすぐに推測できた。
俺の姿を目にした女性は、髪と瞳を確認したあとじっくりと全身に視線を巡らせ、勝ち誇ったように口角を上げた。
「はじめまして、私、オーウェン様の許嫁のシャーロットと申します」
許嫁。俺の存在をよく思っていない相手だろうとは思っていたものの、予想していなかったワードに足元の床が崩れるようだった。
たったの五文字に頭をがつんと殴られる。俺が放心していることを悟られる前に、すぐにディランが言葉を返した。
「シャーロット姫、お言葉ですが王子との許嫁関係は五年前に解消されております」
「言われなくてもわかっているわ。元とつけ忘れたの」
にやにやと嫌な笑みを続ける彼女がわざと元許嫁と言わなかったことも、オーウェンの元に現れた俺を牽制に来たことも十分にわかった。
「私になにかご用でしょうか」
ディランのフォローを受けて何とか驚きを顔に出さないで応える俺に、つまらなそうに眉間にシワがよる。
しかしすぐにまた挑発的な声と視線が俺に向けられた。
「あなたにお話があるの。せっかく庭園があるのだからもっと落ち着いたところで話しましょう。ディランはここで待っていなさい」
くるりと体を反転したシャーロットは着いてこいというように庭園の方に歩いていく。
言葉を返そうとしたディランを制して、大丈夫だと伝わるように頷くとシャーロットの華奢な背を追った。
「そうなんだ。意外と早いね」
優しい光の降り注ぐ廊下を歩いているとセスが後ろから声を投げる。
昨晩からオーウェンは公務で城を留守にしているらしく、今朝起きたときにセスから置き手紙を受け取っていた。
公務で城を留守にすることが書いてあった置き手紙はオーウェンがわざわざ自分で書いたものだったため、もっと時間がかかる公務で今日は帰ってこないのかと思っていた。
「ユキ様が来てからは日を跨いでのお留守は初めてなので、心配されているのではないでしょうか」
「別に俺はいつも通りの生活なだけだし、心配なのはオーウェンの方だけどなぁ」
少し前まではオーウェンに数日会わないことも珍しくはなかったし、声を交わさないことだって俺の中では普通だった。
しかし今ここにオーウェンがいないと思うと少し寂しさを感じるのは、あのときとは抱いている想いが違うからだろうか。
城の入り口へと続く角を曲がると聞きなれない高い声が耳にはいる。
それは鋭さを持っているため、胸をざわめかせながら声の方へと足を進めた。
「いいから早くオーウェン様のもとに来た男を出しなさい」
「いかに貴方がそうおっしゃいましても、王子の許可がなくては致しかねます」
「じゃあオーウェン様をお呼びして」
「ですから今は手が離せない状況でして」
なにやら和やかさとはほど遠い雰囲気の城の入り口に近づくと、オーウェンとは別に城に残っているディランが豪華なドレスを身にまとった二十代くらいの女性をなだめていた。
十分に手入れのされた艶のある髪、上品な化粧の可愛らしい顔、後ろに控えるふたりの使用人に、その女性が一般人ではないことはすぐにわかった。
「ユキ様……」
「大丈夫」
後ろにいるセスが俺を心配しているのがわかる。
呼ばれた名前には、今すぐに引き返そうという提案が含まれているのもわかっていた。
それでもまた一歩足を踏み出す。
「ディランさん」
ふり返ったディランの普段は優しい笑み以外にあまり変えられることのない表情が、どうして来てしまったのかと伝えるように曇る。
ディランがここまで感情を顔に出すということは、そうとう厄介な相手であることはすぐに推測できた。
俺の姿を目にした女性は、髪と瞳を確認したあとじっくりと全身に視線を巡らせ、勝ち誇ったように口角を上げた。
「はじめまして、私、オーウェン様の許嫁のシャーロットと申します」
許嫁。俺の存在をよく思っていない相手だろうとは思っていたものの、予想していなかったワードに足元の床が崩れるようだった。
たったの五文字に頭をがつんと殴られる。俺が放心していることを悟られる前に、すぐにディランが言葉を返した。
「シャーロット姫、お言葉ですが王子との許嫁関係は五年前に解消されております」
「言われなくてもわかっているわ。元とつけ忘れたの」
にやにやと嫌な笑みを続ける彼女がわざと元許嫁と言わなかったことも、オーウェンの元に現れた俺を牽制に来たことも十分にわかった。
「私になにかご用でしょうか」
ディランのフォローを受けて何とか驚きを顔に出さないで応える俺に、つまらなそうに眉間にシワがよる。
しかしすぐにまた挑発的な声と視線が俺に向けられた。
「あなたにお話があるの。せっかく庭園があるのだからもっと落ち着いたところで話しましょう。ディランはここで待っていなさい」
くるりと体を反転したシャーロットは着いてこいというように庭園の方に歩いていく。
言葉を返そうとしたディランを制して、大丈夫だと伝わるように頷くとシャーロットの華奢な背を追った。
15
お気に入りに追加
958
あなたにおすすめの小説
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結済】ラスボスの使い魔に転生したので世界を守るため全力でペットセラピーしてみたら……【溺愛こじらせドS攻め】
綺沙きさき(きさきさき)
BL
【溺愛ヤンデレ魔術師】×【黒猫使い魔】のドS・執着・溺愛をこじらせた攻めの話
<あらすじ>
魔術師ギディオンの使い魔であるシリルは、知っている。
この世界が前世でプレイしたゲーム『グランド・マギ』であること、そしてギディオンが世界滅亡を望む最凶のラスボスで、その先にはバッドエンドしか待っていないことも……。
そんな未来を回避すべく、シリルはギディオンの心の闇を癒やすため、猫の姿を最大限に活用してペットセラピーを行う。
その甲斐あって、ギディオンの心の闇は癒やされ、バッドエンドは回避できたと思われたが、ある日、目を覚ますと人間の姿になっていて――!?
========================
*表紙イラスト…はやし燈様(@umknb7)
*表紙デザイン…睦月様(https://mutsuki-design.tumblr.com/)
*9月23日(月)J.GARDEN56にて頒布予定の『異世界転生×執着攻め小説集』に収録している作品です。
もふもふ好きにはたまらない世界でオレだけのもふもふを見つけるよ。
サクラギ
BL
ユートは人族。来年成人を迎える17歳。獣人がいっぱいの世界で頑張ってるよ。成人を迎えたら大好きなもふもふ彼氏と一緒に暮らすのが夢なんだ。でも人族の男の子は嫌われてる。ほんとうに恋人なんてできるのかな?
R18 ※ エッチなページに付けます。
他に暴力表現ありです。
可愛いお話にしようと思って書きました。途中で苦しめてますが、ハッピーエンドです。
よろしくお願いします。
全62話
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
【R18】【Bl】イケメン生徒会長αは俺の運命らしいです。えっと俺βなんですが??
ペーパーナイフ
BL
俺はΩの高校2年ナギ。この春、αとΩだけの学園に転校した。しかし転校数日前にストレス性変異によって、突然性別がβに変わってしまった!
Ωクラスに入ったもののバカにされる毎日。そんなとき学園一のαである生徒会長から
「お前は俺の運命だ」と言われてしまい…。
いや、俺今βなんですが??
βに変わり運命の匂いがわからず攻めから逃げようとする受け。アホな受けがαにえっちな溺愛されます。
注意
無理やり 自慰 玩具 フェラ 中出し 何でもありな人向け
妊娠可能ですが、主人公は妊娠しません
リバなし
無理やりだけど愛はある
ほぼエロ ストーリー薄め
オメガバース独自設定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる