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本編
新たな一歩をふたりで
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「ユキ!」
大きな音をたてながら勢い良く扉が開く。
初めて聞いた慌てた声に、すぐにはオーウェンのものだと気づかなかった。
「無事か? 怪我はないか」
部屋の中心で座り込む俺に急いで駆け寄ってきたオーウェンは、俺の肩に手を置き怪我がないかチェックする。
治まった振動とオーウェンが来てくれたことで恐怖が解けていき、長く息を吐き出した。
「怪我はありません」
オーウェンこそ怪我はないのかと聞こうとした俺の体は、気づけば苦しいくらいに抱きしめられていた。
ふわっと香る初めて嗅ぐオーウェンの匂いに、さっきとは違う痛みが胸に生まれる。
「良かった」
強い力で抱きしめられているため顔がオーウェンの胸に押し付けられ息苦しい。
それでも、初めて感じる彼の体温がさっきまでの恐怖を鎮めてくれた。
「どうしてここに?」
オーウェンの服に吸い込まれた俺の声はくぐもって落ちる。
いつも言葉をはっきりと口にするオーウェンだったが、俺の質問に応える声はなく黙ったままで、けれど腕の力が弱まることもない。
どうすればいいんだろうと少し困ってきたところで、新しい声が部屋に落ちた。
「ユキ様のことが心配でモンスターの討伐が済むとすぐに駆けつけたと言って差し上げたらどうです?」
「ディラン!」
いつのまにか部屋に入ってすぐのところに王子付きの執事が立っていて、彼の言葉にオーウェンが焦ったように名前を呼ぶ。それ以上言うなと止めているようだった。
俺は俺で抱きしめられているところを他の人に見られるのが恥ずかしくて少し身じろいでみるものの、腕の力が弱まることはなかった。
オーウェンも人に見られることを気にするだろうと思っていたから意外だ。
「あいつの言うことには耳を貸すな」
「武器があって危ないから先程は遠ざけたこと、ユキ様とのまとまった時間を作るために今は無理をして仕事を片付けていること、王子らしく見えるよう振舞っていたら距離の詰め方がわからなくなったこと、すべて打ち明けてしまった方がユキ様もお喜びになると思いますが」
「…………」
執事であるディランの信じられない言葉に耳を疑うもオーウェンはただため息を吐いただけで、しかしそれが今聞いたことが真実であることを告げていた。
まだすべてに理解が追いつかないでいる俺のことを抱きしめる力が弱まり、ゆっくりとふたりの体が離れていく。
いつも表情のないオーウェンの顔は、どこか居心地悪そうだった。
「私は被害箇所を確認してきます」
ディランが部屋を出て行くと、オーウェンは言葉を探すように口を開いた。
「ディランの言った通りだ。俺は自分の気持ちを言葉にするのが下手だから、ユキには不安な思いをさせてしまったかもしれない。すまない」
いつもの堂々とした声ではなく、後悔や不安を含むような声にただただ驚く。
無意識に、いえ、と言おうとした口を閉じ、少し考えて今度は違うことを話すためにまた口を開いた。
「たしかに不安でした。でもこうしてオーウェン様が俺のところに駆けつけてくれたから、今は違います」
ちゃんと俺は大切に想ってもらえていたのだ。
今はまだ、オーウェンからの想いも俺の気持ちも、そして俺たちの関係も言葉にあてはめるのは難しいけれど、すぐそばに感じるオーウェンの熱に、もう大丈夫なんだと思える。
俺の言葉を聞いたオーウェンは、また、しかし今度は優しく包み込むように俺の体に両手をまわした。
「紅茶美味かった。また淹れてくれ」
耳元で聞こえる優しい声に、気恥ずかしさと嬉しさで自分ではどうしようもない熱が生じてしまう。
願ってはいたものの、突然の距離の詰まり方に今度は俺が言葉を探した。
「……本、ありがとうございました」
「あぁ、読んでいてくれたんだな」
オーウェンの向いている先にちょうどテーブルに置いた本が見えるのだろう、初めて聞く嬉しそうな声は俺の胸に甘い疼きを生む。
「ディランさんの言う通り、伝えてくれたほうが嬉しいです」
「……努力する。俺は言葉にする能力はそれなりにあると思っていたんだが……ユキに対しては上手くいかない。ユキも俺には遠慮しないでくれ」
「努力します」
さっきまでの恐怖はもうどこかに消え失せ、廊下や外から聞こえる声もどこか遠くに感じる。
予期せぬ事態が城を襲ったのだから本当は王子がやらなければいけないことはたくさんあるだろうけれど、オーウェンは俺の存在を確かめるように体を離さないでいる。
そのことがとても嬉しくて、俺もオーウェンの背中に腕をまわし、もうしばらくこうしてふたりでいられることを願っていた。
大きな音をたてながら勢い良く扉が開く。
初めて聞いた慌てた声に、すぐにはオーウェンのものだと気づかなかった。
「無事か? 怪我はないか」
部屋の中心で座り込む俺に急いで駆け寄ってきたオーウェンは、俺の肩に手を置き怪我がないかチェックする。
治まった振動とオーウェンが来てくれたことで恐怖が解けていき、長く息を吐き出した。
「怪我はありません」
オーウェンこそ怪我はないのかと聞こうとした俺の体は、気づけば苦しいくらいに抱きしめられていた。
ふわっと香る初めて嗅ぐオーウェンの匂いに、さっきとは違う痛みが胸に生まれる。
「良かった」
強い力で抱きしめられているため顔がオーウェンの胸に押し付けられ息苦しい。
それでも、初めて感じる彼の体温がさっきまでの恐怖を鎮めてくれた。
「どうしてここに?」
オーウェンの服に吸い込まれた俺の声はくぐもって落ちる。
いつも言葉をはっきりと口にするオーウェンだったが、俺の質問に応える声はなく黙ったままで、けれど腕の力が弱まることもない。
どうすればいいんだろうと少し困ってきたところで、新しい声が部屋に落ちた。
「ユキ様のことが心配でモンスターの討伐が済むとすぐに駆けつけたと言って差し上げたらどうです?」
「ディラン!」
いつのまにか部屋に入ってすぐのところに王子付きの執事が立っていて、彼の言葉にオーウェンが焦ったように名前を呼ぶ。それ以上言うなと止めているようだった。
俺は俺で抱きしめられているところを他の人に見られるのが恥ずかしくて少し身じろいでみるものの、腕の力が弱まることはなかった。
オーウェンも人に見られることを気にするだろうと思っていたから意外だ。
「あいつの言うことには耳を貸すな」
「武器があって危ないから先程は遠ざけたこと、ユキ様とのまとまった時間を作るために今は無理をして仕事を片付けていること、王子らしく見えるよう振舞っていたら距離の詰め方がわからなくなったこと、すべて打ち明けてしまった方がユキ様もお喜びになると思いますが」
「…………」
執事であるディランの信じられない言葉に耳を疑うもオーウェンはただため息を吐いただけで、しかしそれが今聞いたことが真実であることを告げていた。
まだすべてに理解が追いつかないでいる俺のことを抱きしめる力が弱まり、ゆっくりとふたりの体が離れていく。
いつも表情のないオーウェンの顔は、どこか居心地悪そうだった。
「私は被害箇所を確認してきます」
ディランが部屋を出て行くと、オーウェンは言葉を探すように口を開いた。
「ディランの言った通りだ。俺は自分の気持ちを言葉にするのが下手だから、ユキには不安な思いをさせてしまったかもしれない。すまない」
いつもの堂々とした声ではなく、後悔や不安を含むような声にただただ驚く。
無意識に、いえ、と言おうとした口を閉じ、少し考えて今度は違うことを話すためにまた口を開いた。
「たしかに不安でした。でもこうしてオーウェン様が俺のところに駆けつけてくれたから、今は違います」
ちゃんと俺は大切に想ってもらえていたのだ。
今はまだ、オーウェンからの想いも俺の気持ちも、そして俺たちの関係も言葉にあてはめるのは難しいけれど、すぐそばに感じるオーウェンの熱に、もう大丈夫なんだと思える。
俺の言葉を聞いたオーウェンは、また、しかし今度は優しく包み込むように俺の体に両手をまわした。
「紅茶美味かった。また淹れてくれ」
耳元で聞こえる優しい声に、気恥ずかしさと嬉しさで自分ではどうしようもない熱が生じてしまう。
願ってはいたものの、突然の距離の詰まり方に今度は俺が言葉を探した。
「……本、ありがとうございました」
「あぁ、読んでいてくれたんだな」
オーウェンの向いている先にちょうどテーブルに置いた本が見えるのだろう、初めて聞く嬉しそうな声は俺の胸に甘い疼きを生む。
「ディランさんの言う通り、伝えてくれたほうが嬉しいです」
「……努力する。俺は言葉にする能力はそれなりにあると思っていたんだが……ユキに対しては上手くいかない。ユキも俺には遠慮しないでくれ」
「努力します」
さっきまでの恐怖はもうどこかに消え失せ、廊下や外から聞こえる声もどこか遠くに感じる。
予期せぬ事態が城を襲ったのだから本当は王子がやらなければいけないことはたくさんあるだろうけれど、オーウェンは俺の存在を確かめるように体を離さないでいる。
そのことがとても嬉しくて、俺もオーウェンの背中に腕をまわし、もうしばらくこうしてふたりでいられることを願っていた。
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