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本編
知る特別
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なるべく音をたてないよう気をつけながら肉のソテーにナイフをいれ動かす。
一口だいに切った肉を口に運ぶと、あまりの柔らかさに自然と頬が緩んだ。
「美味しい……」
気づくと口からもれでた声が静かな部屋でやけに響いて、慌てて向かい側を見る。
向かいの席で俺と同じ料理に手を付けているオーウェンは特に気にしていないようで安心した。
「口にあってなによりだ」
豪華なシャンデリアが吊るされた大きな部屋のテーブルで俺とオーウェンのふたりだけが食事をしていた。
ナイフ、フォークなどの食器、真ん中に置かれた花瓶を彩る花、グラスや皿などすべてがきらびやかで緊張を感じながら美味しい料理を口に運んでいた。
西洋料理に近い雰囲気の料理はどれもこれもが今まで食べた中で一番だと感じるほどの美味しさで、美味しい料理を食べられることを喜びながらも、目の前にいるオーウェンは自分とはまったく違う世界の暮らしをしてきたのだと改めて実感させられる。
緊張で会話を切り出す余裕のなかった俺とオーウェンの間には会話らしい会話もなくて、ナイフやフォークが皿に触れる音だけが響いていたが会話がないのも気まずくて意を決して口を開いた。
「いつも夕食はこういう料理なんですか?」
「今日は普段より料理長が張り切ったみたいだが、食事にまわす時間のあるときはこういったものが多い」
食事にまわす時間のあるとき、ということは時間のないときも多いということだろうか。
オーウェンは表情を変えないため機嫌が良いのか悪いのかもわからないけど一先ず返事をもらえたことに安心する。
料理を口に運びながら彼を盗み見ると、綺麗に伸びた背筋、余計な動きがなく流れるような食事の動作、堂々とした姿はまさに王子という言葉がぴったりだった。
窺うように眺めていると突然視線が重なって肩を揺らしてしまう。
「……帰りたくはないか?」
いままでのように言い切る言葉ではなく、俺の本心を探るような声に驚いて黄色の瞳を見つめ返す。
食事の合間の会話というより、本当のことを言って欲しいという真剣さが瞳と声に込められていた。
「よくわからないんです」
よくわからない、というのが俺の本心だった。
突然まったく違う世界に来て、会ったこともなかった男と結ばれるのだと言われた。
それでもすぐに帰りたい、とならないのは混乱しているからなのだろうか。
「俺の生活は毎日仕事して、帰って、眠るというだけだったし、家族も居ないから俺のことを待っている人も居ないし、この世界に馴染めるのかとか不安はありますけど帰りたいのか帰りたくないのか自分でもよくわからないんです」
不安材料はたくさんある。
もしオーウェンが俺のことを気に入らなかったら? そもそもオーウェンは俺のことをどう思っているんだろう。
この世界のことを何も知らないため、この城を追い出されたら俺はどうすることもできない。
それでも帰りたいとならないのは、俺のことを待っていてくれた人がこの世界にはいるからだ。
そして俺自身も、オーウェンのことをもっと知りたいと思っている。
「もし帰りたいのであれば早めに言ってくれ。時間が経つと難しくなってしまう。けれど俺は、ユキにはここにいて欲しいと思っている」
まっすぐな視線と言葉に胸が締め付けられて苦しくなる。
こんなふうにはっきりとここにいて欲しいと言われたのは初めてで、うまく反応できずただお礼を言うのが精一杯だった。
温かくもあり同時に苦しさもある胸の疼きを誤魔化すように透明な液体の入ったグラスを傾けて中身を口に含む。
アルコールが入っているのか喉と胃が熱くなった飲み物はまろやかですっきりしているが少しだけ甘みもある。
鼻に抜けた香りはまさしく白ワインのものだった。
「これって葡萄酒ですか?」
「あぁ、俺のお気に入りなんだ」
俺と同じようにグラスに口をつけたオーウェンがふっと息を吐いて口元を緩ませる。
初めて見た微笑みに目を奪われたまま、もう一度グラスを傾けて味わい深い白ワインを流し込む。
オーウェンの特別を知れたこと、オーウェンと少し近づけたような感覚を喜びながら、 まだ帰りたくないとも思っていた。
一口だいに切った肉を口に運ぶと、あまりの柔らかさに自然と頬が緩んだ。
「美味しい……」
気づくと口からもれでた声が静かな部屋でやけに響いて、慌てて向かい側を見る。
向かいの席で俺と同じ料理に手を付けているオーウェンは特に気にしていないようで安心した。
「口にあってなによりだ」
豪華なシャンデリアが吊るされた大きな部屋のテーブルで俺とオーウェンのふたりだけが食事をしていた。
ナイフ、フォークなどの食器、真ん中に置かれた花瓶を彩る花、グラスや皿などすべてがきらびやかで緊張を感じながら美味しい料理を口に運んでいた。
西洋料理に近い雰囲気の料理はどれもこれもが今まで食べた中で一番だと感じるほどの美味しさで、美味しい料理を食べられることを喜びながらも、目の前にいるオーウェンは自分とはまったく違う世界の暮らしをしてきたのだと改めて実感させられる。
緊張で会話を切り出す余裕のなかった俺とオーウェンの間には会話らしい会話もなくて、ナイフやフォークが皿に触れる音だけが響いていたが会話がないのも気まずくて意を決して口を開いた。
「いつも夕食はこういう料理なんですか?」
「今日は普段より料理長が張り切ったみたいだが、食事にまわす時間のあるときはこういったものが多い」
食事にまわす時間のあるとき、ということは時間のないときも多いということだろうか。
オーウェンは表情を変えないため機嫌が良いのか悪いのかもわからないけど一先ず返事をもらえたことに安心する。
料理を口に運びながら彼を盗み見ると、綺麗に伸びた背筋、余計な動きがなく流れるような食事の動作、堂々とした姿はまさに王子という言葉がぴったりだった。
窺うように眺めていると突然視線が重なって肩を揺らしてしまう。
「……帰りたくはないか?」
いままでのように言い切る言葉ではなく、俺の本心を探るような声に驚いて黄色の瞳を見つめ返す。
食事の合間の会話というより、本当のことを言って欲しいという真剣さが瞳と声に込められていた。
「よくわからないんです」
よくわからない、というのが俺の本心だった。
突然まったく違う世界に来て、会ったこともなかった男と結ばれるのだと言われた。
それでもすぐに帰りたい、とならないのは混乱しているからなのだろうか。
「俺の生活は毎日仕事して、帰って、眠るというだけだったし、家族も居ないから俺のことを待っている人も居ないし、この世界に馴染めるのかとか不安はありますけど帰りたいのか帰りたくないのか自分でもよくわからないんです」
不安材料はたくさんある。
もしオーウェンが俺のことを気に入らなかったら? そもそもオーウェンは俺のことをどう思っているんだろう。
この世界のことを何も知らないため、この城を追い出されたら俺はどうすることもできない。
それでも帰りたいとならないのは、俺のことを待っていてくれた人がこの世界にはいるからだ。
そして俺自身も、オーウェンのことをもっと知りたいと思っている。
「もし帰りたいのであれば早めに言ってくれ。時間が経つと難しくなってしまう。けれど俺は、ユキにはここにいて欲しいと思っている」
まっすぐな視線と言葉に胸が締め付けられて苦しくなる。
こんなふうにはっきりとここにいて欲しいと言われたのは初めてで、うまく反応できずただお礼を言うのが精一杯だった。
温かくもあり同時に苦しさもある胸の疼きを誤魔化すように透明な液体の入ったグラスを傾けて中身を口に含む。
アルコールが入っているのか喉と胃が熱くなった飲み物はまろやかですっきりしているが少しだけ甘みもある。
鼻に抜けた香りはまさしく白ワインのものだった。
「これって葡萄酒ですか?」
「あぁ、俺のお気に入りなんだ」
俺と同じようにグラスに口をつけたオーウェンがふっと息を吐いて口元を緩ませる。
初めて見た微笑みに目を奪われたまま、もう一度グラスを傾けて味わい深い白ワインを流し込む。
オーウェンの特別を知れたこと、オーウェンと少し近づけたような感覚を喜びながら、 まだ帰りたくないとも思っていた。
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