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魔法が彩る夜空
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淡い光が宙を漂っている。空中に浮かぶ無数の光と花びらの川で夜空は飾られていた。幻想的な光景を一人で堪能する。
祭の最終日である今日は街の賑やかさとは反対に、城は静かだった。きっと従者たちも街へ祭を楽しみに行っているのだろう、いつもより人の気配が少ない。
静かなバルコニーから魔法で飾られた夜空を見上げると、まるでこの景色を独り占めしているような気がした。
手すりに寄りかかり幻想的な景色を一人楽しむ。しばらくそうしていると不意にバルコニーに人が増えた気配がした。
自然と顔を向けそこにいた人を見た瞬間、心臓がぎゅっと縮む。
「こちらにいらっしゃいましたか、賢者様」
「ルーフスさん……」
すぐに姿勢を正した僕へルーフスさんは近づいた。隣で足を止め、夜空を眺める。
僕もまた顔を上げたが、隣の存在に頭が占められ忙しなく視線はさまよった。
「お体の具合はいかがですか?」
「ルーフスさんのおかげで怪我もなかったですし、使った魔力も戻ったので、この通り元気です」
犯罪に巻き込まれてから数日が経っていた。帰った後すぐに医師に診てもらい、怪我や異常がないことを確認してもらえた。
精神的な疲れや魔力の消費もあり少し休みをいただいたおかげで、今はもういつも通りまで回復していた。
「……お話があるのですが、今よろしいでしょうか」
「え? お話ですか?」
改めて確認されるなんて、何の話だろう。驚きとともに胸がざわめく。
聞きたいような聞きたくないような気持ちでルーフスさんを見れば、真剣な瞳が僕に向けられていた。
体ごとこちらに向けた彼に倣って、僕も向かい合う。緊張感が滲む空気で心音が速くなった。口の中が乾く。
「たくさんの方に求められるあなたをこの地に縛りつけるかもしれない恐れを、俺は一度抱きました。しかしその身勝手な恐れ以上に、あなたを失いたくないと改めて強く感じたのです。俺はあなたと共に在りたいと」
魔法が彩る夜空の下、僕は自分の耳を疑った。目の前にいるルーフスさんも、彼が伝える言葉も、すべてが魔法なのではないかと思えてくる。
「……どうか俺に、あなたのお傍にいることを許してくださいませんか」
切実な願いなのだと痛いくらいに伝わってくる。
こんなに感情をあらわにするルーフスさんを見たのは二度目だ。一度目は犯罪集団の元から救ってくれた時。「どうかこのまま、俺を安心させてはくださいませんか」と僕の後ろからどかなかったルーフスさんは、もしかすると僕を特別に思っていたからで――。
今までの彼とのやりとりがいくつも頭に蘇り流れていく。好きな相手として意識されていたのだと知ると、全身が熱くなった。
不意の二人きりも、祭へ出かけた時も、密着した体も、僕だけが意識していると思っていた。
彼に答えなければ。彼の思いに応えたい。何と言えばいいのかと必死に言葉を選んだ。
祭の最終日である今日は街の賑やかさとは反対に、城は静かだった。きっと従者たちも街へ祭を楽しみに行っているのだろう、いつもより人の気配が少ない。
静かなバルコニーから魔法で飾られた夜空を見上げると、まるでこの景色を独り占めしているような気がした。
手すりに寄りかかり幻想的な景色を一人楽しむ。しばらくそうしていると不意にバルコニーに人が増えた気配がした。
自然と顔を向けそこにいた人を見た瞬間、心臓がぎゅっと縮む。
「こちらにいらっしゃいましたか、賢者様」
「ルーフスさん……」
すぐに姿勢を正した僕へルーフスさんは近づいた。隣で足を止め、夜空を眺める。
僕もまた顔を上げたが、隣の存在に頭が占められ忙しなく視線はさまよった。
「お体の具合はいかがですか?」
「ルーフスさんのおかげで怪我もなかったですし、使った魔力も戻ったので、この通り元気です」
犯罪に巻き込まれてから数日が経っていた。帰った後すぐに医師に診てもらい、怪我や異常がないことを確認してもらえた。
精神的な疲れや魔力の消費もあり少し休みをいただいたおかげで、今はもういつも通りまで回復していた。
「……お話があるのですが、今よろしいでしょうか」
「え? お話ですか?」
改めて確認されるなんて、何の話だろう。驚きとともに胸がざわめく。
聞きたいような聞きたくないような気持ちでルーフスさんを見れば、真剣な瞳が僕に向けられていた。
体ごとこちらに向けた彼に倣って、僕も向かい合う。緊張感が滲む空気で心音が速くなった。口の中が乾く。
「たくさんの方に求められるあなたをこの地に縛りつけるかもしれない恐れを、俺は一度抱きました。しかしその身勝手な恐れ以上に、あなたを失いたくないと改めて強く感じたのです。俺はあなたと共に在りたいと」
魔法が彩る夜空の下、僕は自分の耳を疑った。目の前にいるルーフスさんも、彼が伝える言葉も、すべてが魔法なのではないかと思えてくる。
「……どうか俺に、あなたのお傍にいることを許してくださいませんか」
切実な願いなのだと痛いくらいに伝わってくる。
こんなに感情をあらわにするルーフスさんを見たのは二度目だ。一度目は犯罪集団の元から救ってくれた時。「どうかこのまま、俺を安心させてはくださいませんか」と僕の後ろからどかなかったルーフスさんは、もしかすると僕を特別に思っていたからで――。
今までの彼とのやりとりがいくつも頭に蘇り流れていく。好きな相手として意識されていたのだと知ると、全身が熱くなった。
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