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二人きり
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銀色に光る剣、ずっしりと重そうな槍、実用的な物から装飾がある物まで揃った盾、弓。騎士が常に身に付けているような物もあれば、平時は目にすることもない武器までが台と壁に並んでいる。
初めて訪れた武器庫に高揚し、視線は忙しなく動く。一国の城に勤めているのだから、こうした武器類を目にする機会はあるものの、こんなに間近で見たことはなかった。
武器庫には自分ひとりなのに、何故か緊張で背筋を伸ばす。日本では創作物の中にしかなかった物が目の前に並んでいる。よく手入れをされているのだろう、神秘的な輝きが反射する様は壮観だった。
まじまじと見られる機会に喜び、壁へと近づく。掛けられた剣を覗き込んだ。
「ここで何をしている?」
「っ!」
低く、鋭い声。屈んでいた体を咄嗟に起こす。怪しい者ではないことと、変な企みがあるわけではないことを伝えるため、手を上げて振り向いた。
「ごめんなさい、これも仕事で……ルーフスさん?」
「賢者様……大変失礼しました」
捉えた人物を見て目を丸くする。それは相手も同じだったみたいで、二人で驚きを浮かべた。しかし瞬きをした間にルーフスさんはいつも通りの様子に戻る。何も無かったかのように落ち着いて僕に近づいてきた。
「申し訳ございません、騎士ではない者が普段はうろつく場所では無いため警戒してしまいました」
「そうですよね、僕の方こそ紛らわしくてすみません……実は武器類に変なところがないか魔力で探って欲しいと言われまして」
「武器類に変なところ、ですか?」
「お抱えの職人が作った物も多いでしょうが、他から流れ着いた物には、いわく付きが混ざっていてもおかしくは無いので」
「なるほど……」
剣や盾、槍、弓――武器にはそれぞれ歴史がある。いつ、誰に作られて、誰が使い、どのように扱われたか。良い意味でも悪い意味でも作り手や持ち主の影響を受ける。時には知らず知らずに負の感情が宿り、呪いをもたらしてしまう。
騎士たちが手にし、有事の際にはこの国を護るために使われる武器が安全な物なのか、それを魔力で探るのが今日の仕事だった。
「でしたら、私がご案内します」
「え、ルーフスさんがですか?」
「はい、ここの武器は知り尽くしているので、お役に立てるかと」
「それは、ありがたいです……お願いします」
予期せぬ事態に頭が追いつかない。それでも何かを言わないとと、口は動いていた。
初めての、ルーフスさんとの二人きり。僕とルーフスさんを結ぶ王子も今はいない。
武器庫の奥へと進むルーフスさんの後を追う。二人きりなのだと実感すると緊張で心拍が上がった。手が湿る。
すぐそこにある、鎧を着た背中を見つめていると、不意にルーフスさんが振り返った。ばっちりと目が合ってしまい、心臓が跳ねる。
「そういった可能性が高いのは、このあたりの物かと」
「あ、そうなんですね、ありがとうございます……」
どきどきと煩い心音を誤魔化し、ルーフスさんが案内してくれた物に集中する。彼に浮ついた姿を見せるわけにいかない。
「他は国の職人から納められた物ですが、こちらは他国から献上された物です。いくつかは元の使用者や作り手まで把握できておりません」
「なるほど……たしかに他とは雰囲気が違いますね」
ルーフスさんが指さしたのは、重厚な箱だった。中には短剣や細剣等が入っている。
ふんだんに宝石を使った物は宝物庫にあるのだろうけど、ここにある物にも少し宝石が埋め込まれていた。箱の外の武器は地味な物ばかりだから、違う文化を感じる。
「見てみますね」
武器の上に手を伸ばし、かざす。ゆっくり空気をなぞるように動かした。
「うーん……邪気は感じられませんね」
武器ひとつひとつに意識を集中させる。害を及ぼすような物があれば肌が粟立つはずだが、特に何も感じなかった。ふぅ、と息を吐き、手を下ろす。
「賢者様に見ていただけたのなら、私達も安心して振るえます。ありがとうございます」
向けられた声に顔を持ち上げる。当然のことをしただけだと言おうとして、口を閉じた。驚きで息を飲む。
いつもあまり感情をださないルーフスさんの口元が、柔らかくゆるんでいた。僕に向けられる微かな笑み。初めて見る微笑みは普段の真面目な顔つきとのギャップもあり、大きな衝撃をもたらした。
ルーフスさんが微笑んでいる。頭が真っ白になり、全身が火照る。室内が暑いわけじゃないのに汗をかきそうだった。
「こちらこそ、お忙しいなか案内いただきありがとうございました……」
笑顔も素敵です、二人で話せて嬉しいです、ルーフスさんはいつも格好良いですね。頭の中ではそんな言葉がぐるぐる回るのに、口には出せない。
少し、仕事を手伝ってもらっただけ。特別な会話は何もしていない。それなのに、ほんのちょっとでもルーフスさんと距離が近づいた気がして、僕の頬も緩んでしばらく戻らなかった。
初めて訪れた武器庫に高揚し、視線は忙しなく動く。一国の城に勤めているのだから、こうした武器類を目にする機会はあるものの、こんなに間近で見たことはなかった。
武器庫には自分ひとりなのに、何故か緊張で背筋を伸ばす。日本では創作物の中にしかなかった物が目の前に並んでいる。よく手入れをされているのだろう、神秘的な輝きが反射する様は壮観だった。
まじまじと見られる機会に喜び、壁へと近づく。掛けられた剣を覗き込んだ。
「ここで何をしている?」
「っ!」
低く、鋭い声。屈んでいた体を咄嗟に起こす。怪しい者ではないことと、変な企みがあるわけではないことを伝えるため、手を上げて振り向いた。
「ごめんなさい、これも仕事で……ルーフスさん?」
「賢者様……大変失礼しました」
捉えた人物を見て目を丸くする。それは相手も同じだったみたいで、二人で驚きを浮かべた。しかし瞬きをした間にルーフスさんはいつも通りの様子に戻る。何も無かったかのように落ち着いて僕に近づいてきた。
「申し訳ございません、騎士ではない者が普段はうろつく場所では無いため警戒してしまいました」
「そうですよね、僕の方こそ紛らわしくてすみません……実は武器類に変なところがないか魔力で探って欲しいと言われまして」
「武器類に変なところ、ですか?」
「お抱えの職人が作った物も多いでしょうが、他から流れ着いた物には、いわく付きが混ざっていてもおかしくは無いので」
「なるほど……」
剣や盾、槍、弓――武器にはそれぞれ歴史がある。いつ、誰に作られて、誰が使い、どのように扱われたか。良い意味でも悪い意味でも作り手や持ち主の影響を受ける。時には知らず知らずに負の感情が宿り、呪いをもたらしてしまう。
騎士たちが手にし、有事の際にはこの国を護るために使われる武器が安全な物なのか、それを魔力で探るのが今日の仕事だった。
「でしたら、私がご案内します」
「え、ルーフスさんがですか?」
「はい、ここの武器は知り尽くしているので、お役に立てるかと」
「それは、ありがたいです……お願いします」
予期せぬ事態に頭が追いつかない。それでも何かを言わないとと、口は動いていた。
初めての、ルーフスさんとの二人きり。僕とルーフスさんを結ぶ王子も今はいない。
武器庫の奥へと進むルーフスさんの後を追う。二人きりなのだと実感すると緊張で心拍が上がった。手が湿る。
すぐそこにある、鎧を着た背中を見つめていると、不意にルーフスさんが振り返った。ばっちりと目が合ってしまい、心臓が跳ねる。
「そういった可能性が高いのは、このあたりの物かと」
「あ、そうなんですね、ありがとうございます……」
どきどきと煩い心音を誤魔化し、ルーフスさんが案内してくれた物に集中する。彼に浮ついた姿を見せるわけにいかない。
「他は国の職人から納められた物ですが、こちらは他国から献上された物です。いくつかは元の使用者や作り手まで把握できておりません」
「なるほど……たしかに他とは雰囲気が違いますね」
ルーフスさんが指さしたのは、重厚な箱だった。中には短剣や細剣等が入っている。
ふんだんに宝石を使った物は宝物庫にあるのだろうけど、ここにある物にも少し宝石が埋め込まれていた。箱の外の武器は地味な物ばかりだから、違う文化を感じる。
「見てみますね」
武器の上に手を伸ばし、かざす。ゆっくり空気をなぞるように動かした。
「うーん……邪気は感じられませんね」
武器ひとつひとつに意識を集中させる。害を及ぼすような物があれば肌が粟立つはずだが、特に何も感じなかった。ふぅ、と息を吐き、手を下ろす。
「賢者様に見ていただけたのなら、私達も安心して振るえます。ありがとうございます」
向けられた声に顔を持ち上げる。当然のことをしただけだと言おうとして、口を閉じた。驚きで息を飲む。
いつもあまり感情をださないルーフスさんの口元が、柔らかくゆるんでいた。僕に向けられる微かな笑み。初めて見る微笑みは普段の真面目な顔つきとのギャップもあり、大きな衝撃をもたらした。
ルーフスさんが微笑んでいる。頭が真っ白になり、全身が火照る。室内が暑いわけじゃないのに汗をかきそうだった。
「こちらこそ、お忙しいなか案内いただきありがとうございました……」
笑顔も素敵です、二人で話せて嬉しいです、ルーフスさんはいつも格好良いですね。頭の中ではそんな言葉がぐるぐる回るのに、口には出せない。
少し、仕事を手伝ってもらっただけ。特別な会話は何もしていない。それなのに、ほんのちょっとでもルーフスさんと距離が近づいた気がして、僕の頬も緩んでしばらく戻らなかった。
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