異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした

たがわリウ

文字の大きさ
上 下
3 / 16

二人きり

しおりを挟む
 銀色に光る剣、ずっしりと重そうな槍、実用的な物から装飾がある物まで揃った盾、弓。騎士が常に身に付けているような物もあれば、平時は目にすることもない武器までが台と壁に並んでいる。
 初めて訪れた武器庫に高揚し、視線は忙しなく動く。一国の城に勤めているのだから、こうした武器類を目にする機会はあるものの、こんなに間近で見たことはなかった。
 武器庫には自分ひとりなのに、何故か緊張で背筋を伸ばす。日本では創作物の中にしかなかった物が目の前に並んでいる。よく手入れをされているのだろう、神秘的な輝きが反射する様は壮観だった。
 まじまじと見られる機会に喜び、壁へと近づく。掛けられた剣を覗き込んだ。

「ここで何をしている?」
「っ!」

 低く、鋭い声。屈んでいた体を咄嗟に起こす。怪しい者ではないことと、変な企みがあるわけではないことを伝えるため、手を上げて振り向いた。

「ごめんなさい、これも仕事で……ルーフスさん?」
「賢者様……大変失礼しました」

 捉えた人物を見て目を丸くする。それは相手も同じだったみたいで、二人で驚きを浮かべた。しかし瞬きをした間にルーフスさんはいつも通りの様子に戻る。何も無かったかのように落ち着いて僕に近づいてきた。

「申し訳ございません、騎士ではない者が普段はうろつく場所では無いため警戒してしまいました」
「そうですよね、僕の方こそ紛らわしくてすみません……実は武器類に変なところがないか魔力で探って欲しいと言われまして」
「武器類に変なところ、ですか?」
「お抱えの職人が作った物も多いでしょうが、他から流れ着いた物には、いわく付きが混ざっていてもおかしくは無いので」
「なるほど……」

 剣や盾、槍、弓――武器にはそれぞれ歴史がある。いつ、誰に作られて、誰が使い、どのように扱われたか。良い意味でも悪い意味でも作り手や持ち主の影響を受ける。時には知らず知らずに負の感情が宿り、呪いをもたらしてしまう。
 騎士たちが手にし、有事の際にはこの国を護るために使われる武器が安全な物なのか、それを魔力で探るのが今日の仕事だった。

「でしたら、私がご案内します」
「え、ルーフスさんがですか?」
「はい、ここの武器は知り尽くしているので、お役に立てるかと」
「それは、ありがたいです……お願いします」

 予期せぬ事態に頭が追いつかない。それでも何かを言わないとと、口は動いていた。
 初めての、ルーフスさんとの二人きり。僕とルーフスさんを結ぶ王子も今はいない。
 武器庫の奥へと進むルーフスさんの後を追う。二人きりなのだと実感すると緊張で心拍が上がった。手が湿る。
 すぐそこにある、鎧を着た背中を見つめていると、不意にルーフスさんが振り返った。ばっちりと目が合ってしまい、心臓が跳ねる。

「そういった可能性が高いのは、このあたりの物かと」
「あ、そうなんですね、ありがとうございます……」

 どきどきと煩い心音を誤魔化し、ルーフスさんが案内してくれた物に集中する。彼に浮ついた姿を見せるわけにいかない。

「他は国の職人から納められた物ですが、こちらは他国から献上された物です。いくつかは元の使用者や作り手まで把握できておりません」
「なるほど……たしかに他とは雰囲気が違いますね」

 ルーフスさんが指さしたのは、重厚な箱だった。中には短剣や細剣等が入っている。
 ふんだんに宝石を使った物は宝物庫にあるのだろうけど、ここにある物にも少し宝石が埋め込まれていた。箱の外の武器は地味な物ばかりだから、違う文化を感じる。

「見てみますね」

 武器の上に手を伸ばし、かざす。ゆっくり空気をなぞるように動かした。

「うーん……邪気は感じられませんね」

 武器ひとつひとつに意識を集中させる。害を及ぼすような物があれば肌が粟立つはずだが、特に何も感じなかった。ふぅ、と息を吐き、手を下ろす。

「賢者様に見ていただけたのなら、私達も安心して振るえます。ありがとうございます」

 向けられた声に顔を持ち上げる。当然のことをしただけだと言おうとして、口を閉じた。驚きで息を飲む。
 いつもあまり感情をださないルーフスさんの口元が、柔らかくゆるんでいた。僕に向けられる微かな笑み。初めて見る微笑みは普段の真面目な顔つきとのギャップもあり、大きな衝撃をもたらした。
 ルーフスさんが微笑んでいる。頭が真っ白になり、全身が火照る。室内が暑いわけじゃないのに汗をかきそうだった。

「こちらこそ、お忙しいなか案内いただきありがとうございました……」

 笑顔も素敵です、二人で話せて嬉しいです、ルーフスさんはいつも格好良いですね。頭の中ではそんな言葉がぐるぐる回るのに、口には出せない。
 少し、仕事を手伝ってもらっただけ。特別な会話は何もしていない。それなのに、ほんのちょっとでもルーフスさんと距離が近づいた気がして、僕の頬も緩んでしばらく戻らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

ハーバルお兄さん~転生したら、イケおじ辺境伯と魔王の子息を魅了ヒーリングしちゃいました~

沼田桃弥
BL
 三国誠は退職後、ハーバリストとして独立し、充実した日々を過ごしていた。そんなある日、誠は庭の草むしりをしていた時、勢い余って後頭部を強打し、帰らぬ人となる。  それを哀れに思った大地の女神が彼を異世界転生させたが、誤って人間界と魔界の間にある廃村へ転生させてしまい……。 ※濡れ場は★つけています

【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。

N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長) お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。 待てが出来ない狼くんです。 ※独自設定、ご都合主義です ※予告なくいちゃいちゃシーン入ります 主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。 美しい・・・!

愛をなくした大公は精霊の子に溺愛される

葉月めいこ
BL
マイペースなキラキラ王子×不憫で苦労性な大公閣下 命尽きるその日までともに歩もう 全35話 ハンスレット大公領を治めるロディアスはある日、王宮からの使者を迎える。 長らく王都へ赴いていないロディアスを宴に呼び出す勅令だった。 王都へ向かう旨を仕方なしに受け入れたロディアスの前に、一歩踏み出す人物。 彼はロディアスを〝父〟と呼んだ。 突然現れた元恋人の面影を残す青年・リュミザ。 まっすぐ気持ちを向けてくる彼にロディアスは調子を狂わされるようになる。 そんな彼は国の運命を変えるだろう話を持ちかけてきた。 自身の未来に憂いがあるロディアスは、明るい未来となるのならとリュミザに協力をする。 そしてともに時間を過ごすうちに、お互いの気持ちが変化し始めるが、二人に残された時間はそれほど多くなく。 運命はいつでも海の上で揺るがされることとなる。

【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎
BL
 倭の国には三つの世界が存在している。  一番下に地上界。その上には天界。そして、一番上には神界。  僕達Ωの獣人は、天界で巫子になる為の勉強に励んでいる。そして、その中から【八乙女】の称号を貰った者だけが神界へと行くことが出来るのだ。  神界には、この世で最も位の高い【銀狼七柱大神α】と呼ばれる七人の狼神様がいて、八乙女はこの狼神様に仕えることが出来る。  そうして一年の任期を終える時、それぞれの狼神様に身を捧げるのだ。  もしも"運命の番”だった場合、巫子から神子へと進化し、そのまま神界で狼神様に添い遂げる。  そうではなかった場合は地上界へ降りて、βの神様に仕えるというわけだ。  今まで一人たりとも狼神様の運命の番になった者はいない。  リス獣人の如月(きさら)は今年【八乙女】に選ばれた内の一人だ。憧れである光の神、輝惺(きせい)様にお仕えできる事となったハズなのに……。  神界へ着き、輝惺様に顔を見られるや否や「闇の神に仕えよ」と命じられる。理由は分からない。  しかも闇の神、亜玖留(あくる)様がそれを了承してしまった。  そのまま亜玖瑠様に仕えることとなってしまったが、どうも亜玖瑠様の様子がおかしい。噂に聞いていた性格と違う気がする。違和感を抱えたまま日々を過ごしていた。  すると様子がおかしいのは亜玖瑠様だけではなかったと知る。なんと、光の神様である輝惺様も噂で聞いていた人柄と全く違うと判明したのだ。  亜玖瑠様に問い正したところ、実は輝惺様と亜玖瑠様の中身が入れ替わってしまったと言うではないか。  元に戻るには地上界へ行って、それぞれの勾玉の石を取ってこなくてはいけない。  みんなで力を合わせ、どうにか勾玉を見つけ出し無事二人は一命を取り留めた。  そして元通りになった輝惺様に仕えた如月だったが、他の八乙女は狼神様との信頼関係が既に結ばれていることに気付いてしまった。  自分は輝惺様から信頼されていないような気がしてならない。  そんな時、水神・天袮(あまね)様から輝惺様が実は忘れられない巫子がいたことを聞いてしまう。周りから見ても“運命の番”にしか見えなかったその巫子は、輝惺様の運命の番ではなかった。  そしてその巫子は任期を終え、地上界へと旅立ってしまったと……。  フッとした時に物思いに耽っている輝惺様は、もしかするとまだその巫子を想っているのかも知れない。  胸が締め付けられる如月。輝惺様の心は掴めるのか、そして“運命の番”になれるのか……。 ⭐︎全て作者のオリジナルの設定です。史実に基づいた設定ではありません。 ⭐︎ご都合主義の世界です。こういう世界観だと認識して頂けると幸いです。 ⭐︎オメガバースの設定も独自のものになります。 ⭐︎BL小説大賞応募作品です。応援よろしくお願いします。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

要らないオメガは従者を望む

雪紫
BL
伯爵家次男、オメガのリオ・アイリーンは発情期の度に従者であるシルヴェスター・ダニングに抱かれている。 アルファの従者×オメガの主の話。 他サイトでも掲載しています。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

処理中です...