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第三章
第61話 癒しを求めて
しおりを挟む「う~~ん、学校サボりたい……」
通学途中の電車の中で、急激にサボり虫が湧いて出てきた。
決して、満員電車が嫌なわけではない。
決して、妹(瑠奈)に尻を触られているのが嫌なわけではない。
最近、忙し過ぎる。
学校に行けばトラブルに遭い、家に帰ってもトラブルは尽きない。
体力や忍耐力にも自信がある。
だけど、なんだろう?
無性に一人になりたい。
一人でのんびり、草原で寝転んでる俺。
一人でのんびり、山の景色を眺めている俺。
一人でのんびり、海の波音を聞きながら釣り糸を垂れている俺。
想像しただけで、いてもたってもいられなくなる。
それが、できない状態にイライラを感じもする。
きっと、ストレスだ。
心が、休めと言ってるのに違いない。
「お兄、どうしたの?難しい顔をしちゃって」
「山や海が俺を呼んでる気がするんだ」
「あっ、わかる~~私もこっちに出てきた当初、そう思ってたよ」
陽奈にもそんな時期があったのか……
気がつかなかったな。
そんなストレスを乗り越えた陽奈は、俺より立派に見える。
「兄様、このまま電車を乗り換えて、私と一緒に天城の山を越えませんか?」
「……それって。瑠奈、俺達、兄妹だからね」
俺も瑠奈もお互い彼女、彼氏もいないのに、越える山など存在しない。
もしかして、瑠奈にはいるのか?
どんな奴だ!
瑠奈に相応しい男性かどうか見極めなくっちゃいけない。
これは、兄として当たり前の事なのだ。
「瑠奈、もしかして……その~~彼とか出来たのか?」
「はい」
おーー!!これは一大事だ。
どんな奴だ。
それとなく聞かなければ……
「ど、どんな奴なんだ」
「えっ?何がですか?」
「その彼って?」
「そうですね~~スパイスは一般的なお店で買えますが、私のは里で取れたマムシを乾燥させ粉状にしたものを加えているのが特徴です」
はあ!?それってカレーって事?
一気に力が抜けた。
それに瑠奈が作ったカレーは美味しいけど食べた後身体が熱くなったのはマムシのせいだったの?
「マムシはちょっと……」
「お気に召しませんか?」
「いや、そんな事はないよ。うん」
「良かったです。兄様には精力をつけてもらわないと精子の動きが悪くなっちゃいますから」
「えっ!?何だって?」
「ですから……」
俺は、瑠奈の口を塞いだ。
危ないところだった。
満員電車で、精子発言されたらどこにも逃げ場所がない。
「わかったから、もう、何も言わなくてもいいよ」
「もう、兄様ったら~~」
色っぽい目で俺を見るな!
それと尻を触るな!
これは、早急に陽奈と瑠奈に内緒で一人になる計画を練らなければ、俺の精神(精子)が保たない。
通学だけで疲れてしまった俺は、余程疲労が溜まっているのだろう。
教室に入ると、いつもの事だが一瞬クラスの会話が途切れる。
慣れたくないものに慣れてしまった俺。
一刻も早く、山か海に行きたい。
そうだ。こういう時は、学校の屋上でのんびり過ごせば……
山、海に行けなくても学校にいながらサボれて、心のリフレッシュにもなる。
ちょうどいい場所もあるしね。
俺は、鞄を置いて直ぐに教室を出る。
向かう先は、図書館の屋上だ。
あそこなら1日のんびりできる。
だが、靴箱から靴を取り出した瞬間、『ザッーー!!』っと大雨が降ってきた。
靴を持ったまま呆然とする俺。
人間は何て無力なんだ。
自然の前ではなす術もないなんて……
雨が降ったら傘がいる。
大雨の中、傘をさしてひとり屋上に立ってる俺。
シュールだ。虚しい……虚し過ぎる。
それなら、まだ授業を受けてた方がマシだ。
俺は、教室に引き返すのだった。
◇
教室に戻ると、既に篠崎先生が教室に来ていた。
庚達と楽しそうに話をしている。
まだ、ホームルームが始まってなくて助かったな。
席に着き、『ブルッ』っとしたスマホを覗くと壬 静葉からメッセージが送られてきた。
隣の席には、彼女はいない。
そう言えば昨日もいなかったな。
俺は、メッセージを見ると『旦那様、タス……』と書かれていた。
えっと、どういう意味?
旦那様と呼ばれるのはいつもの事だ。
だが、『タス』って何だろう?
もしかして、『タスケテ』か?
ないな。
だが、返事はしておかないと。
俺は、静葉に返信する。
内容は、『元気か?』の一言。
さて、寝るとしますか……
ホームルームが始まった。
その時、篠崎先生が壬の事を伝える。
「壬さんは、ご実家の都合で2週間ほどお休みするそうです」
クラスの生徒達が騒ぎ出す。
いつの間にか、壬は、クラスの連中に受け入れられてたようだ。
静葉は実家に帰ったのか。
静葉の実家は山奥の神社ときく。
さぞかしマイナスイオンが溢れているに違いない。
羨ましい、羨まし過ぎる。
そうだ。こういうのはどうだろう。
静葉が送ってきた謎メッセージは、助けを呼ぶものだ。
俺は、友人の窮地を救いに行くべく静葉の実家に向かう。
そこには、都会にない山に流れる小川のせせらぎ。
心も身体もリフレッシュする俺。
完璧だ。
これなら、妹達も外出を許可せざる得ないだろう。
瑠奈あたりは、煩そうだが友人を救う為となれば渋々承諾せざる得ない。
現地に着いた俺は、静葉の送ったメッセージは、誤送信だということに気づく。
ひと目顔を見て安心した俺は、その場で別れて一人山に向かいのんびりする。
決まった。
決行は、今夜だ。
移動はバイクで向かう。
夜の高速をバイクで走るだけでも気分は良くなるはずだ。
あとは、資金だな……
俺の財布には1000円札が3枚。小銭が少々……
これでは、心許ない。
家計を管理している瑠奈に何とか1枚だけでも万の位のお札を頂戴しなければ。
あれこれ考える俺の夢想は止まらない。
そうしているうちに、とうとう放課後になってしまった。
校門で妹達を待っている俺。
俺の考えた作戦は完璧だ。これなら、今日中に瑠奈から資金を得てバイクで静葉の実家まで行ける。
『キキーーッ』
大きな音と共に、俺の前に見慣れた黒塗りの高級車が緊急停止した。
何故かいやな予感がする……
車から優雅に、戊家執事セバスさんが出てきた。
「霞様、お嬢様がお呼びでございます」
「えっつ!何のようでしょうか?」
「車にどうぞ。お待ちしておりますので」
「えっ、えっ!」
俺は、有無を言わさずセバスさんに拉致された。
車の中には、戊シャルロット・リズが紅茶を飲んでいた。
えっーー!山がーー!俺の癒しがーー!!
俺の心の叫びは誰にも気付いてもらえない。
◇
「あの~~リズ先輩。俺に何のようでしょうか?」
恐る恐る声をかける。
下手に出てるのには意味がある。
相手の機嫌を損なわずに用事とやらをやんわり断る為だ。
こういうお金持ちの輩は、上から出るとムキになるので逆効果だ。
「霞 景樹、今日お呼び立てしたのには理由があります」
「そうでしょうね」
用もないのに人を拉致らない。
「それで、その理由とやらを教えてもらえませんか?妹達も心配するでしょうし、俺にも用事がありますので……」
「陽奈さん瑠奈さんには、伝えてありますわ。ご心配は無用です」
「そうでしたか、それはありがとうございます。それで……その理由とは?」
「そうですわね。道中は長いのですからお茶でも如何かしら?」
えっ、道中が長い?
えっ、何言ってるの?
いつの間にか俺の前にはお茶が用意されていた。
よく見ると、リムジンの中には綺麗なメイドさんが一人いる。
「ありがとうございます」
俺は、見たこともないそのメイドさんにお礼を言った。
「いいえ」
優雅に一礼する金髪メイドさん。
歳は、俺達と変わらないように見える。
「ルミネ、私にもおかわりを」
「はい、お嬢様」
慣れた手付きで紅茶を入れる。
その隙のない姿に、セバスさんを彷彿させる。
「あの~~この方は?」
俺は気になって聞いてみた。
「紹介がまだでしたね。この女性はルミネと言います。この間、フランスから来たばかりですわ」
「初めまして、私、ルミネ・フランドールと申します。お嬢様の専属侍女をしております。霞 景樹様のお話は父から聞いております。こうしてお目に掛かれた事を喜ばしく思います」
「父って?」
すると、リズ先輩が
「セバスですわ」
「えっーー!!」
セバスさんの娘さんなの?
まあ、子供くらいいてもおかしくないと思っていたけど。
そうか、セバスさん結婚していて子供までいたんだあ。
「もし、宜しければ霞様のお時間がある時にでも稽古をつけてくだされば嬉しいです」
佇まいから、ルミネさんが何らかの戦う術を持っている事は分かっていたけど……
俺は陽奈のような戦闘狂ではない。
今は、戦うよりも癒しが欲しい。
「そうですね。そういう機会がありましたらお願いします」
「はい、ありがとうございます」
ルミネさんは嬉しそうだ。
セバスさんが鍛えたのならそれなりの腕の持ち主だ。
気は抜けないな。
「ところで、今日私が呼び出した理由ですけど……」
「はい、その理由は何でしょうか?」
「それは……」
理由を話そうとする、リズ先輩の面持ちが変わった。
俺は、『ゴクリ』と唾を飲み込んだ。
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