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第ニ章
第30話 新ジュクで……
しおりを挟む「ねぇ、瑠奈、こっちなの? 」
「そうです。その角を曲がったところです」
陽奈と瑠奈が歩いている場所は、新ジュク駅から数分程度の通りだ。
駅を降りてから2人は数十メートル歩く度に誰かに声をかけられる。
普通に誘ってくる男。自称芸能スカウトマンという男などなどである。
うっとしいので、2人とも気配を消して街を歩いていた。
「陽奈、この街は腐ってますね。某国のトマホークを打ち込みましょうか。うふふふ」
「そこまでする必要はないよ。私の楽しみが無くなっちゃうじゃない」
何とも危険な会話をしながら、たどり着いたのは某予備校の前だった。
「へ~~小さいけど一棟建てのビルなんだ」
軒並み並び建つビルのひとつに目当てのビルがあった。
両隣のビルとは僅かな隙間しかない。
「賃貸のようですよ。オーナーは大陸系の例の輩です。調べてみましたが生徒を集めて学費を徴収し教材を販売するだけでは、赤字経営になっていますね。裏の仕事が本業のようですけど」
「つまり、生徒達に薬を売ってるの? 」
「まぁ、全てではないでしょうが、集中力が上がるとかでまかせを言って卸しているのは間違いないです」
「生徒達も、マズいと思ったらやめちゃえばいいだけの話でしょう」
「薬を使ったという証拠を脅しに使っているのでしょう。もしかしたら、それ以上かもしれませんが……」
口の固い人物、弱みを握られた人物などがターゲットにされているのだろう。
「じゃあ、遠慮はしなくていいのね」
「そうですね。でも、真面目な生徒もいるようですので面倒ですが中の人間は避難させましょう」
予備校の前で話していた2人は、その建物の中に入っていった。
それから数分後……
「火事だーー! 火事だぞーー! 」
予備校の建物から煙が上がっていた。
建物の非常ベルが鳴り響く。
中にいた生徒や予備校関係者が慌てて外に出てくる。
周りは野次馬でいっぱいだ。
写真を撮る者やムービーで録画する者達である。
「瑠奈、そろそろいい? 」
瑠奈は、煙が立ち込める中でパソコンの中身をコピーしていた。
「スペックが悪くて少し処理能力が遅いですね。これなら、家から侵入した方がマシでした」
「もう、我慢できないよ」
「終わりました。いいですよ」
瑠奈がそう言うと陽奈の目が金色に光りだす。
「陽奈、この建物だけですからね」
「うん、上手く調整してみるよ。これも修行だしね」
瑠奈の目も光りだす。
そして……
一瞬で、その建物は大きな音を立てて崩壊した。
◇
「何か騒がしいわね」
麗華さんと一緒に新ジュク駅に着き、騒動の発端となった予備校の近くに来ていた。
夕食の仕込みが済んで、陽奈と瑠奈を迎えに俺と麗華さんは外出したのだ。
「ええ、多分、陽奈と瑠奈です」
「この騒ぎをあの2人が起こしたの? 」
「ええ、ビルを崩壊させたようです」
フードを目深に被った俺は神霊術を発動して陽奈、瑠奈の動向を見ていた。
2人とも、近くのビルの屋上にいた。
「あれ、また動き出すみたいです。今度は歓楽街の方です」
飯塚 早苗の件で、ここまで派手にやらなくてもいいのに……。
俺と麗華さんは、野次馬と緊急車両でごった返したビル崩壊現場の脇を通り過ぎながら、今度は歓楽街へと走りだす。
しかし、既に遅かった。
こちらも、ビル一棟が崩壊した後だった。
「ああ、間に合わなかったか……」
隣のビルの屋上を見ると瑠奈と陽奈がこちらを見ていた。
そして、直ぐに俺の両腕を抱えたのだ。
「陽奈ちゃん、瑠奈ちゃんいつの間に……」
一瞬で現れた2人を見て、麗華さんは目を丸くして驚いている。
「お兄が来てくれたーー! 」
「陽奈、兄様にくっ付き過ぎです! 」
相変わらずの妹達だ。
「もう、終わったのか? 」
「お兄、見てくれた? 力を出来るだけ押さえたんだあ」
「そうか、偉いぞ」
「えへへへへ」
「兄様、警察関係者には証拠を添えてリークしてあります」
「そうか、さすが瑠奈だな」
「うふふふふ」
「じゃあ、帰るか? 」
俺達は、何事も無かったようにそのまま家に向かったのだった。
◇
『昨晩、新ジュク駅近郊で起きた謎のビル崩壊現場に来ています。ご覧下さい。ブルーシートに覆われていますが、ここには、10階建のビルが建っていました。ですが現場は、瓦礫の山となっております~~~』
朝からテレビは、昨夜の新ジュクの件で騒いでいる。
どの局もその話題を取り上げるほどだ。
大陸系のマフィアは、組織だって生徒達から薬を売りつけたり、その生徒達は更に友人、知人にその薬を売っていた。
ネズミ講のようなやり方で資金を荒稼ぎしていたようだ。
元からこの新ジュクを縄張りとしてきたヤーさん達は、何度も抗争を繰り広げていたようだ。
勿論、陽奈と瑠奈は、その大元である大陸系マフィアの本拠地であるビルも破壊している。
地下室には、薬を小分けにする部屋もあったそうだ。
ビル内部にいた大人のヤンチャさん達は、拘束して路上に投げ捨てておいたと言っていた。
時間的に神霊術を使ったのだろう。
このシマでは、もう、完全に活動できないほどダメージを与えた事になる。
それと麗華さんは、朝からかかってくる電話に応対していた。
庚家と辛家だろうけど……
そして、最後の電話が終わって俺達の方を向いた。
「ふぅ~~辛家当主からだったわ」
「辛家当主って警視総監だっけ? 」
「そうよ。陽奈ちゃん」
麗華さんはこってり絞られたようだ。
事情の説明を求められていた。
「これから、説明に行って来るわね。みんなはどうする? 」
「私、パス。この間手伝ってくれた鳩達にご飯あげる約束してるから」
「私はまだ残務がありますので、説明に時間を取られたくありません」
「わかったわ。景樹君は? 」
「俺も用事があります」
「そう、じゃあ、私だけ行って来るわ」
少し疲れた様子の麗華さんは、車を走らせ辛家当主のところに向かった。
「兄様、何処かに行かれるのですか? 」
「ああ、壬のところに行き、護符をもらってくるよ」
「そうですか、壬 静葉のところですか……! 」
こりゃ……マズいな……
「帰ってきたら何処かに食べに行こう。陽奈とも、そう約束してあるし……」
「そう言うことなら良しとしましょう。私は兄様を縛るつもりはありませんので」
いや、瑠奈、十分縛っているぞ……
俺は、電車に乗り、池フクロウから新ジュクの駅に向かう。
お見上げを何か買って行こうと思い、駅構内の売店でシュークリームを買う。
駅構内を出て、地上に上がるとポツポツと雨が降ってきた。
あいにく傘は持ってきていない。
俺は、フードを目深に被って、壬の家を目指す。
お土産は濡れないようにパーカーの中に入れて抱えてる。
まだ、本格的な雨にならないが、壬の自宅に着く頃には結構濡れていた。
エントランスで呼び出すと、前の扉が開閉する。
エレベーターに乗り壬の自宅に着くと、中から清崎さんが出てきて招いてくれた。
「霞様、ようこそおいで下さいました」
「清崎さん。これ、つまらないものですけど。中身は濡れてないと思います」
「これはありがとうございます。早速、お茶のご用意を致します。その前に、雨にあったご様子。宜しければ浴室をお使いください。その間に乾かして置きます」
どうするか、迷ったが、濡れた服のままでいたら部屋を濡らしてしまう。
俺は、素直にその言葉に甘えた。
「わかりました。お借りします」
朝、シャワーを浴びたばかりだが、俺は服を脱いで脱衣所に備えてあった衣紋掛けにパーカーをかける。
そして、服を脱いで浴室に入った。
広くて綺麗な浴室だ。
シャワーを出して、雨で濡れ少し冷えた身体を温めていく。
髪を洗い身体を洗おうとした時、浴室のドアが開いた。
「えっ!? 」
そこには、一糸も纏っていない壬 静葉が立っていた。
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