闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第81話 撮影

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「マジか……」

初めての通知表という物をもらってしまった。
持ち帰って親に見せ印鑑を押してもらって、二学期が始まる時の提出するらしい。

この1学年だけで212人の生徒がいる。
そして、1学年だけで6組あるのでクラスの平均の人数は35人程度だ。

そして、俺の成績は、クラス順位で16番目。
学年全体では98番となっていた。

これって良いのか?
いや、渚や柚子には負けていると思う。
最後の望みはアンジェなのだが、あの自信はどこから来てるのだろう?

この間までは、補修がどうのこうの言ってた気がする。
おそらくアンジェには勝っていると願いたい。

「じゃあ、夏休みの注意事項をよく読んで決して学生らしからぬ行動はしないように」

担任の加賀政也先生が注意事項を説明している。
担当教科は理科だ。

「それでは二学期に元気な姿を見せてくれ。今日はここまでとする」

先生の号令によって今日の学校の予定は全て終わった。
だが、すかさず会長からメッセージが入る。

【至急生徒会室に来てくれ】

この文面を見ただけで、気分が落ち込む。

仕方ない。
まずは柚子にメッセージを入れとかないと。
昨夜みたいなお説教は懲り懲りだ。

教室を出て生徒会室に向かう。
会長は既に来ていて、何故か自分の机で頭を抱えていた。

「何かあったんですか?」

「何かあったから、こうなっているんだよ。拓海君、私はもう会長を辞めたい」

何かあったらしい。

事情を聞くと、2年生の瀬古井弘という人物が高級時計店を襲撃したらしく今取り調べを受けているようだ。
そして、彼が外部生だったのが災いして、内部生が外部生を追い出そうと校長先生のところに駆け寄ったらしい。

生徒間の問題は、基本生徒会が仕切るのがしきたりなので、そう言った苦情の窓口が生徒会、つまり会長の元にたくさん届いたというのだ。

(あ~~これって昨日のせこい奴のことか……)

「彼は今日付で退学処分となった。問題は内部生の怒りがおさまらないことだ」

(これって、俺もかんでる?通報したしね)

「拓海君、どうしたら良いと思う?」

「そんな問題になってるんですね。俺の教室内では噂のひとつも出なかったですけど」

「まあ、今回は主に2年生が騒いでいてね。1年生を巻き込む事になるのはもう少し先になると思う」

「明日から夏休みですし、その問題も経ち消えたりするんじゃないですか?」

「まあ、それが幸いなところだ。だが、休み明けにはきちんと答えを出さないといけない。今後外部生を募集するか否かを」

それって学校経営に関わる事だし、生徒会でどうにかなる問題じゃないと思うんだが。

「ひと月ありますので、その間に良い考えが浮かぶのでは?」

「そうあってほしいものだ。どうだ、これから作戦会議をしないか?」

「今日は既に予定があるんです。ですので、困った時にまた連絡下さい」

少しフォローを入れて断る。
今日はケーキを買いに行かなければならない。

「わかった。すまなかったな、取り乱して。どうも僕は予定外のことが起きると思考がまとまらないようだ。夏休みをかけて修行するしかないな」

それってどうやって修行するのだろう?
その方法が知りたい。

会長に挨拶して教室に戻ると、柚子と渚とアンジェが揃って話をしていた。他の生徒は既に帰宅したらしく教室にはその3人しかいなかった。

「お待たせ。終わったよ」

「今日は早かったな」

柚子が少し驚いたように声をかけてきた。

「たっくん、朝の約束覚えてる?」

「ああ、成績が最下位の者がケーキを奢るってやつだろう?」

「そうそう、それで、これがみんな成績だよ」

結城渚    クラス順位  2位
       学年順位   7位
霧坂柚子   クラス順位  8位
       学年順位  38位
如月アンジェ クラス順位 11位
       学年順位  61位
蔵敷拓海   クラス順位 16位
       学年順位  98位

「あ、マジか……」

「たっくん、ご馳走様」
「拓海君はほら、忙しかったから仕方がないよ」
「たくみ、次回は小豆系で勝負しよう」

その後、渚の案内で都内でも美味しいと言われるケーキ屋さんに出かけて店内で飲食した後、差し入れ用にたくさんケーキを仕入れて帰ったのだった。

勿論、俺の奢りで……





慶明大学のイラスト研究会というサークルに席を置いている私こと東海美代は、仲間内からはみっちょんって呼ばれている。

同じ高校からこの大学に入学したさおりんこと樺沢沙織とは、親友の間柄だ。

昨日連絡があって、アルバイトを始めたらしい。
勤務先は陣開法律事務所で、あの拓海君の保護者をしている美人のキャリアウーマンさんのところだ。

大学は休みに入ったけど、私はサークルの部室に顔を出している。
夏コミに向けて同人誌を描いている先輩の手伝いだ。

「先輩、そろそろ印刷所に回さないと間に合いませんよ」

「わかってる。わかってるのよ。でも、この部分がどうにも気に入らないの」

梅木美郷先輩の描いてるのは、前期アニメで放映されていた『クズだった俺とビッチだった私の恋愛戦争』という題名のやつだ。

「私から見たらよく描けてると思いますけど」

「みっちょん、ここの胸の下の服のシワがおかしいと思わない?この部分って服で胸の大きさを隠しているけど、隠しきれない、そんな微妙なラインをシワで表してるのよ。だけど、どうしてもうまく表現できてないの。それに男性の方も納得いかないんだ。襟元から鎖骨が見えてるけど脱いだら筋肉質な感じが表せてないのよね」

確かにイラストサークルでこんなに大きな胸の人はいない。

「ああ~~誰か胸の大きな人にこの服を着せたいわ。そうすれば、描けると思うのよ」

「このサイズだと無理じゃないですか……あ、ひとりいます。私の同郷の子で親友です」

そう言ったものだから、美郷先輩の食い付きは凄かった。

「ねえ、お願い。その子に会わせて!そして、これと似たような服を着てもらいたいの」

「良いですけど、最近その子アルバイトを始めて忙しくしてるみたいなんです」

「どこのカフェ、それとも居酒屋?どこに行けば会えるの?」

「まあ、事務所でお手伝い的なことをしてるって聞いてます」

「行こう!今すぐに」

その必死さから断る勇気を私は持てなかった。
さおりん、怒るかな?





「………それで、東海さんはその梅木さんを拉致……連れて来たんですか?」

部屋にいたら、来客が訪れたようで出てみると、樺沢さんと同じ大学の友達、東海美代さんだった。

話を聞くと樺沢さんに会いに来たらしいが、法律事務所のインターホンを押す勇気が出なくて俺のところに来たらしい。

「だって、拓海君、法律事務所だよ。一般人は普通縁のないところでしょう?」

「まあ、そうですけど楓さんはそんな事を気にしませんよ」

「違うのよ。私が気になってるの!ボタン押すなんて無理無理無理」

そんなに無理を強調しなくてもいいと思う。

「樺沢さんに連絡入れれば済む話じゃないですか?」

「勿論、連絡したわよ。でも、電源入れてないみたいで繋がらないの」

「さっき事務所に差し入れ持って行ったんですけど、美味しそうにケーキを食べてましたよ」

「え、ケーキ!食べたい。あ、ごめんなさい。ずうずうしい真似しちゃって」

後ろにいた梅木さんがそう呟いた。

「大丈夫ですよ。じゃあ、一緒に行きましょうか?ケーキもたくさん買ってきたので余ってると思いますよ」

こうして二人を連れて隣の事務所を訪れたのだった。
だが、女性二人は玄関先から入って来ない、というか固まっていて入れないような感じだ。

仕方ないので俺が樺沢さんを呼びに行く。

事務所に入り、樺沢さんは直ぐに見つかった。
休憩中らしく、今度はポテトチップを食べている。

「樺沢さん、東海さんが会いに来てますよ。急ぎみたいで連絡も入れたみたいだけど繋がらなかったらしいです」

「えっ、みっちょんが?何のようだろう?」

樺沢さんの近くに充電中のスマホがある。
きっと充電がなくなっていたのだろう。

樺沢さんを連れて通路に出ると、女子3人はそこで話が始まった。

「良かったらうちにきますか?ここだと通路ですし、ケーキならうちで食べてって下さい」

「「行く」」

樺沢さんを除いた二人は即返事をした。

3人をリビングに案内して、俺はケーキと紅茶を用意する。
坂井さんは買い物、柚子は道場で鍛錬。ルミは部屋でパソコンしてるはずだ。

ケーキと紅茶を運んで、テービルの上に置くと樺沢さんはここでも食べる気満々のようだ。

「俺、自分の部屋にいますから何かあったら声をかけて下さい」

そう言って席を外そうとした時、梅木さんが俺に話しかけてきた。

「蔵敷君、ちょっとこの服着てみてくれない?」

「服ですか?」

「私イラスト描いてるんだけど、蔵敷君は何となくその主人公に似てるのよね」

「構いませんけど、変なポーズとかは勘弁して下さいね」

「わかってるわ。それと、こっちは樺沢さんに着てもらいたいの。お願いできるかしら」

「そんなに時間が掛からなければ構いませんよ」

「じゃあ、決まりね!」

こうして俺と樺沢さんは2人が用意した服を着る事になったのだった。





「そうそう、蔵敷君。もう少し樺沢さん肩を強く抱いて」

着替えたのは良いが、梅木さんがデジカメを持ち出して写真を撮りまくっている。
はじめは簡単なポーズだけだったのだが、今は樺沢さんと抱き合うような格好まで要望してきている。

そして、一番困っているのが樺沢さんの格好である。
何せ薄いブラウスにはちきれんばかりの膨らみが揺れている。
それに、服の上からもわかるほど二つのポッチが見えている。
おそらく、撮影の為に下着を着けていないのだろう。
恐るべき攻撃力だ。

「樺沢さん、男を手玉に取るような顔をお願い」

どんな顔だよ!っとツッコミたいが梅木さんは真剣そのものだし、断りづらい。それに樺沢さんの大きなものが当たるのでどうも居心地が悪いのだ。

「蔵敷君、ゲスな感じの男って感じでよろしく」

そんな注文出されても困るのだが……

『パシャパシャパシャ……』

こんな写真撮って何の参考になるのだろうと考えていると、最後の注文がきた。

「これで最後よ。樺沢さん、蔵敷君を胸の辺りで抱きしめてくれる?そう、顔が胸に当たるように」

は!無理無理無理!

「梅木さん、難易度高すぎです。無理無理無理」

「そこを何とかお願いできる。そのシーンが最高なのよ。アニメでも有名なシーンなんだから」

そんなアニメが放映されてたなんて、けしからん!

「私はいいけど、拓海君大丈夫?」

樺沢さんは平気なようだ。
ダメなのは俺だけらしい。

「そうそう、いい感じよ」

結局、樺沢さんに顔を抱きしめられてこの撮影は終わった。

「はあ~~疲れましたよ」

「ごめんね。蔵敷君、夏コミ終わったら何か奢るから」

「お礼はいらないですよ。それよりなんて題名のアニメなんですか?少し気になって」

「そうか、蔵敷君はあんまりアニメを見ないのね。前期では結構有名だったんだけど」

そこで樺沢さんが言葉を挟んだ。

「それ、知ってます。確か『クズだった俺とビッチだった私の恋愛戦争』ですよね?」

「は!?俺ってクズ役だったの……」

どっと疲れた俺だった。

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