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第1章
第72話 遭遇
しおりを挟む目の前で横になっている女性は『ヘルガイド』と呼ばれる暗殺者の女性だった。
「確かジュディーさんでしたよね?なんでこんな姿に」
以前、下校途中で会った時には元気だったのに、その間に何があったんだ?
「うむ、やはりこぞうは知っておったか?」
「修造さんは知り合いだったんですか?」
「昨夜、繁華街を彷徨いてる時にそのアマンダちゃんに会ったのじゃ。2時間で20ドルで良いって言うのでちょっとのう……」
おじいさんが言ってたのは案内してくれた黒人の女性だろう。
その女性との話で『ヘルガイド』の事を知ったのか?
もう偶然を通り越して必然だな。
しかし、この爺さんは懲りない人だ。
「わかりました。とにかく治します。話はそれからです」
ベッドに横になっている『ヘルガイド』ことジュディーさんの治療を開始する。
そして、右腕を再生し弱った内臓も上手く治療できた。
その時、流れてきた記憶で何が起こったのかわかった。
「ふう、これで、大丈夫です」
「よくやったぞ、こぞう」
『ほんとうだ。ジュディーが治った!』
『だから、言ったじゃろう。こぞうは凄腕じゃと』
『うん、今度は2時間10ドルで良いから』
『ほほーーい。それは何よりじゃ』
この人達は放っておこう。
周りがうるさかったのか、ジュディーさんが眼を覚ました。
『嘘、私の腕が……あんたは、そうかまた助けられちまったようだな』
俺の顔を見て納得したようだ。
『2度目だからね。だいぶ内臓も弱ってたよ。お酒は程々に』
『あはは、それはまた美味い酒が飲めるってことだな。だが、今お前に返せる物は何もねえぞ。あたいの身体でよかったら好きにしてくれ』
記憶を読んで知ったけど、今まで暗殺業で稼いだお金は殆どがスラムの孤児達の支援として渡していたようだ。
見かけによらず優しいところがある。
『それより、詳しい話が聞きたい。情報料で今回はチャラにするよ』
内容は知っているが、この人に貸し借りは作りたくない。
『ああ、それだけじゃ足りないと思うけど、そう言うことで良いなら話すよ。あれは……』
ジュディーさんの話を要約すると、暗殺の仕事が入ったのだがそれを断ったらしい。それで、口封じの為に狙われてこんな姿になったようだ。
『もう、暗殺家業は辞めたのか?』
『ああ、お前を仕留め損ってね。どうにもこの仕事を続ける気が失せた。だから、この国に帰ってきてアマンダの紹介でバーで働いてたわけさ』
『ジュディーさんを狙ったやつはどんな奴だったんだ。あんたがそこら辺の奴にやられるとはどうしても思えないんでね』
『ああ、奇妙な奴等だった。まるで人形だな。細っちい身体なのに車を持ち上げるほどの馬鹿力の持ち主だ。ひとりだけなら逃げられたかもしれねえが、3人いたのが運のツキってわけだ』
やはり、そうだったか……
『顔は見たのか?』
『奇妙なお面をしてたんでね、見てないよ』
その話を聞いてた修造爺さんが、
「こぞう、まさかあの時の?」
「おそらくそうだと思います」
そう、風見屋玲二が開発したアンドロイドだ。
この件にはあいつが絡んでいる。
何としても居所を知りたい。
『それで、ジュディーさんに依頼した人物は東洋人でしたか?』
『いいや、彫りの深い浅黒い顔立ちの奴だ。おそらくルナマリアの奴だと思う』
ルナマリア……太古の昔月の使徒から認められたと言われる国を持たない民族である。主に中東地域にて活動してると聞いている。
『今回の暗殺のターゲットは誰だったんですか?』
ジュディーさんは深くため息をついてこう告げた。
『ああ、この国の大統領だ』
「なっ……!」
俺は知っていたが、この事を修造爺さんに聞いて欲しかった。
だって、明日には大統領がフローリアに逢いに来るのだから……
◆
その頃日本では……
期末テストも明日で終わりという日の下校中。渚とアンジェ、そして柚子の3人は仲良く一緒に下校していた。
「拓海君、まだ帰って来れないのかな?」
「期末テストも明日で終わりだしね~~。そうだ、明日テストが終わったら帰りにショッピングに付き合ってよ。水着買いたいんだ」
「ああ、そう言うことか。夏休み前半に伊豆の別荘に誘われてたな」
下校中、渚、アンジュ、そして柚子達は夏休み前半竜宮寺家の別荘で過ごす事になっている。
「明日香ちゃんも今週末から来るんでしょう?その時一緒に買いに行けばいいんじゃない?」
「そうだけど、きっと明日香ちゃんはたっくんと行きたいと思うんだよね~~。それに、たっくんにサプライズで私の水着見せたいんだよ」
「そう言うことね。私も買おうかしら。拓海君ってどんな水着がいいんだろう?」
「学校指定の水着で良くないか?水に入れば同じだし」
「「柚子ちゃん(さん)、それはない」」
ピッタリ息の合った渚とアンジェだった。
「そうだ、きっとこの話をすると陽菜も買いたいって言うと思うんだよね。ルミちゃんだって水着欲しいだろうし、せっかくだからみんなで行かない?」
「私はそれでいいよ」
「うむ、私もそれで構わない」
「それで、雑誌買ったんだけど、これなんか良くない?」
アンジェは鞄から雑誌を取り出してみんなに見せた。
「えっ、これって少し大胆じゃないかな?」
その雑誌の写真には布面積の少ない白い水着を着たモデルさんが写っていた。
「そうなの?でもね、たっくんはこれぐらいのでアピールしないとダメだと思うんだ。だって、こんな可愛い3人といつも登下校してるのに反応薄いんだよ」
「確かにそういうところってあるかも。でも、私はそれは無理かな?せめてこっちのなら着れると思う」
渚が選んだのはビキニだけど可愛らしい花柄模様のオーソドックスな物だ。
「柚子さんはどれが良いと思う?」
「私か?う~~む。この雑誌には載っていないようだ」
アンジェの問いかけに柚子はしばらく悩んでそう答えた。
「柚子ちゃんならどれでも似合うと思うけどなあ」
「渚は可愛いからどれでも似合うと思うが、私は武骨者だからこういった類の物は良くわからん。敢えていうなら胴着のままで泳ぎたい。訓練にもなるしな」
「「それはダメ」」
息の合う二人だった。
「柚子さんのはお店で選んであげるよ。スタイル良いしきっと何でも似合うと思う」
アンジェがそういうが柚子はあまり乗り気ではなさそうだ。
そんな話をしながら駅に着くと、渚達は見知らぬ女性から声をかけられた。
「あの、すみません。蔵敷拓海さんは一緒ではないのですか?」
その女性は年齢的には20歳前後でとても綺麗な人だった。
「あの~~拓海君のお知り合いですか?」
渚は無警戒で返答をするが、柚子とアンジェは警戒体制をとっていた。
「ええ、でもご一緒ではないようなのでまた改めて会いにきます」
「すみません、たっくんとはどのような知り合いですか?」
相手が去ろうとした時にアンジェが声をかけた。
「そうですね。貴女よりも古い知り合いよ。アンジェさん」
「何で私の名前を知ってるの?」
「さあ、何ででしょう。でも、まだ会う時期じゃなかったみたいだわ。それとひとつ教えておくけど、世界的にマズいことが起きそうなの。だから、貴女方も注意しておいてね。じゃないと拓海が悲しみそうだから」
そう言い残して人混みの中に消えて行った。
「誰だったんだろう?」
渚はそう呟いたが、柚子は警戒体制のまま脂汗を流していた。
「柚子ちゃん、どうしたの?汗凄いよ」
「なあ、あれは人間か?」
「柚子さんは気づいたのね。多分能力者だと思う」
柚子の言葉にアンジェが答える。
「え、嘘!私全然わからなかったよ」
「それは仕方ないよ。柚子さんみたいに日頃から鍛えてないとわからないと思う。私だって、知ってる能力者しかわからないし見た目はみんな同じだしね」
「そうなんだ。ごめん、なんか私無警戒過ぎたね」
「いいや、渚は悪くない。悪いのは声を出せなかった私の弱さだ。むしろ、渚の方が私よりも強いと言えるよ」
「それは、ただ知らなかっただけだよ。知ってたらきっと声も出せなかったと思う」
そんな中でアンジェは違う事を思っていた。
あの声と顔をどこかで見たことある気がする。
それに、何だか雰囲気がたっくんに似てたような……
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