闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第62話 ファンクラブ

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学校に着き、ぽっかり空いた3つの席を見る。

担任教師からは簡単な説明しかされてないが、クラスのみんなは3人が協力して女生徒を襲う手引きをしたと知っている。

それが柚子だと言われているが、噂程度で誰も真実は知らないようだ。

俺の前の席は海川くんの席なのだが、今は空いている。

そこに、飯塚君が座って声をかけてきた。

「蔵敷くん、夏にね、大きなイベントがあるんだ。僕もまだ行ったことないんだけど、玉川くんと一緒に行く予定なんだよ。もし良かったら蔵敷君も一緒に行かない?」

「夏はいろいろ用事があるから予定が合えば行けるかな?」

「じゃあ、こっちは日にちが決まっているからおしえておくよ」

日程を教えてもらったけど、おそらくいけないだろう。

楓さんの配慮で、治療行為はできるだけまとまった休みの時に行うように予定を組んでいる。

普段の治療は、緊急の場合が多い。

夏は、結構忙しくあちこち行く予定がある。
でも、せっかく誘ってくれたのに申し訳ないと思う。

「へーーオタク君達は夏コミ行くんだあ」

そう声をかけてきたのは、クラスで派手な女子の一人で鈴金カリンさんだ。

「そうだけど、鈴金さんは行ったことあるの?」

「ないない、あそこって夏は蒸し暑いでしょ。行けって言われても無理」

行ったことないのに蒸し暑いと知ってる?

「どうしたの?カリン」

「なおっち、おは。オタク君達が夏コミ行くって話してたからちょっとね」

石狩尚美さんが登校してきて友人の鈴金さんに話しかけてきた。

「そうなんだ。それより夏はロックフェスでしょ。カリンも行くよね?」

「行きたいけど、その日は里帰りしなきゃダメなんだ」

「残念、今年こそはカリンと行きたかったのに」

「ごめん、埋め合わせは今度するからさ」

そんな話を俺の席の周りでしなくても良いと思うが?

「それ、千葉のロックフェス?そのライブにYou・Zaが出るんだよね。生で見たかったな」

「ああ、You・Zaってアニメの主題歌歌ってたよね」

「そうなんだよ。ノリの良い曲で動画サイトにも真似してる子結構いるよ」

飯塚君は楽しそうに話している。
あの空いた席の3人組がいたらこんな話はできなかっただろう。
何せ、自分達以外の男子が女子と話していると睨みつけ嫌味を大きな声で話してた奴らだったのだから。





お昼になると安藤葉月先輩さんから空き教室に来て、と連絡を受けた。
その場所に行くと、昨日応接室で舌戦を繰り広げてた釣川歩さんも一緒にいた。

「二人は知り合いだったんだ?」

「そうだよ。同じクラスだし、歩は頭が良いからたまに勉強教えてもらうんだ」

そう言って改めて紹介された。

「拓海君は生徒会じゃないのに対応してくれたんだって?歩から聞いたんだよ」

「ええ、生徒会長に無理矢理付き合わされまして仕方なく」

そう言うと釣川さんが話しかけてきた。

「その節は恥ずかしいところをお見せしました」

あの澤木親子相手に一歩も引かなかった釣川さんはある意味強者だと思う。

「そんなことはないよ、立派だったと思ってる」

「そんなことはありません。私は霧坂さんの名誉を守りたかっただけですし。それで、お聞きしたい事がありまして、いろいろ噂がありますが、蔵敷君は霧坂さんとどのような関係なのですか?」

それが聞きたかったのかな?

「同じマンションに住んでいるんだよ。だから、必然的に朝とか帰りも一緒になる事が多いんだ。特に特別な男女の関係ではないので誤解しないでほしい」

「ほほう、それは、それは。噂Bが正解でしたか」

何だよ。噂Bって?

「それで、霧坂さんは何階にお住まい……」
「こら、歩。拓海君にお礼を言いにきたんでしょ。何でマスコミみたいに霧坂さんの個人情報を聞き出そうとしてるの?」

「あ、そうでした。すみません、ついいつもの癖で」

これが、会員NO2の推し活か。凄いな。

「いいですけど、個人情報は言えませんよ。相手がいる事ですし」
「それは分かってます。すみません」

「歩はね、新聞部なの。だから、いろいろ聞きたがるんだと思う。根は優しい子なんだけどねえ」

うん、癖が強いよね?
それは、葉月先輩も言えないらしい。

「でも、釣川さん先輩なのに柚子……霧坂さんのどこがお気に召したのでしょうか?」

「ああ、それは……」

葉月先輩がマズいって顔をした。

「よくぞ聞いてくれました。霧坂柚子、15歳でありながらあの佇まい。中等部時代には、圧倒的な人気を誇っていたと聞いています。凛としたお姿、誰にも分け隔てなく接する懐の深さ。それに正義感の強さです。
私がこの高校に入学したての頃、彼女はまだ中等部の3年生。ですが、私が駅前近くで他の学校の男子生徒から絡まれてたところを颯爽と現れて相手を圧倒してしまいました。
男子生徒3人もですよ。
それから、私は霧坂柚子のファンになりました。ファンクラブを立ち上げてそのお姿を見守っております」

お前がファンクラブの発起人かよ!

「そうなんだ。でも、生徒会長から会員ナンバー2って聞いてるけど?」

「ええ、残念なことですが部長、新聞部の部長ですね、聞耳四郎にジャンケンで負けてナンバー1の座を明け渡してしまいました。今でも悔しさいっぱいです」

新聞部の部長がナンバー1なんだ。

「歩、拓海君困ってるみたいだから、そこまでだよ」

「は!私としたことがつい熱くなってしまいました。ご容赦を」

「こっちが尋ねたんだから気にしないで下さい」

この人に柚子の話は禁句だな、うん……

「せっかくだから聞きたいんだけど、ファンクラブって結構あるんですか?」

「何を言ってるんですか!あるに決まってますよ」

決まってるんだ……

「まずは霧坂ファンクラブ。それに結城ファンクラブ。そして最近できた如月ファンクラブ。古参なのは隣にいる安藤ファンクラブですかね」

みんな知り合いなのだが……

「そういえば蔵敷滅殺クラブもありますよ。私は会員番号6ですけどね」

「それって、俺殺されるの?」

「いいえ、そんな非人道的なことはしませんよ。ただ、名前を書いた人形に釘を打ち付けるぐらいの活動しかしてないですし」

「こえーよ!」

呪殺とか勘弁してくれ。
それに釣川さんも入ってるみたいだし、今後関わらないようにしよう。

「はは、ごめんねー、なんか変な感じになっちゃって」

葉月先輩はこういうことに慣れているようだ。

「まあ、気にしないことにします。できれば、俺のクラブは解体してほしいですけど」

「う~~む。それは無理ですね。それぞれのファンクラブの殆どの生徒が加入してますし、諦めて下さい」

「は!?そんなにいるの?」

「はい、この間三桁の王台に乗りました」

「ははは、もう笑うしかないわ」

「拓海君、頑張って!」

「葉月先輩、何をどう頑張ればいいんですか?」

「わからないけど、必ず生き残ってね」

死ぬ前提なんだが……

「それで、霧坂さんは何階にお住まいで?」

懲りない釣川先輩だった。





学校の帰り道、アンジェがニタニタしている。
何か悪巧みでも考えている感じだ。

「たっくん、お昼に何してたの?」

何か嫌な予感がする。

「葉月先輩に呼び出されて旧校舎の空き教室に行ったんだよ」

「えっ!?葉月先輩って誰?拓海君とどういう関係なの?」

渚がぐいぐいくる。

「ほら、安藤先輩のお兄さんを治療しただろう。そうお時の縁で友達になったんだ」

「そうか、あの時の……友達、ぶつぶつ」

渚が独り言を言い出した。

「たっくん、それだけじゃないでしょ?」

まさか、アンジェは姿を消して……
俺がアンジェの方をみると、未だニコニコしている。

「釣川先輩も一緒だったよ。昨日のお礼を言われた」

「拓海君、まさかその釣川先輩とも友達になったの?」

渚さん、ぐいぐい来すぎじゃ……

「そんなことはないよ。釣川先輩は柚子の事が好きみたいだし」

「ほえっ、わ、私ですか?」

柚子はこのところ猫がいたりいなかったりしている。
キャラが入り乱れてる。

「そうみたいだよ。ファンクラブの会員なんだって」

「「ファンクラブ!?」」

渚も柚子もその存在は知らなかったようだ。

「柚子も渚もファンクラブがあるらしい。それからアンジェのも最近できたらしいぞ」

「え、私のも?」

アンジェは自分のファンクラブの存在を知らなかったようだ。

「そうなんだ、私のもあるんだ」

渚はどう反応したら良いのかわからない様子だ。

「そんなファンクラブがある女性達と毎日登下校してるたっくんは幸せものだねえ」

「因みに俺のもあるらしい」

「え、拓海君のもあるの?」

「蔵敷滅殺クラブだってさ」

「「「ははははは、なにそれ」」」

みんな笑ってるが特に柚子にはツボだったらしく、俺の肩をバンバン叩きながら転がる勢いで笑っていた。


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